表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/14

勝利の宴


 宙を舞う剣角へ砕けた羽根の鉄刀を伸ばす。

 それは絡め取るようにして剣角を捉え、一振りの大剣として蘇る。

 斬龍は最大の武器を失い、こちらは最高の武器を得た。

 赤い閃光を引いて馳せ、最後の一手を撃つために加速する。

 苦し紛れに光剣が多数現れるけど、焼け石に水だ。


「そいつはもう怖くない」


 剣角の鉄刀を振るい、斬撃が舞う。

 それは容易く光剣を引き裂き、斬龍までの道を切り開く。

 鋼ノ翼が唸りを上げ、一筋の閃光となった一刀が斬龍を断つ。

 排気口を地上に向けて魔力を噴射し、勢いを殺して滞空。

 断ち切った斬龍に視線を送ると、水底に沈み込むように命を落としていた。


「見たか、やったぞ!」


 剣角の鉄刀を天に掲げ、勝利を誇る。

 斬龍を斃した。


§


 その日、俺は街中でヒーローになった。


「約束だ、今日は俺の奢りだ。好きに飲みな!」


「そう来なくっちゃな! 乾杯!」


 共に街を守った衛兵とジョッキを打ち合わせ、最初の一杯を流し込む。

 周りはどんちゃん騒ぎで人々の楽しげな声で溢れている。

 あらゆる色の酒が注がれ、数多くの料理が行き交う。


「街を救った英雄に!」


「英雄に!」


「もう何度目だ? それ」


「なんどでも言ってやるぜ、なあ!」


「おうとも。あんたが空を飛んで斬龍を斃したんだ、英雄さ!」


 名前も知らないような人たちまで賞賛してくれる。

 正直、悪い気はしなかった。

 一介の傭兵が今じゃ英雄様だ。


「凄い扱いね。英雄様」


「当然だよ、アイルくんがこの街を救ったんだもん」


「もっと褒めてくれ。なんてな」


 美味い酒と料理に、この和やかな雰囲気。

 今はなにもかもが楽しい。


「あー、あの、アイルくん」


「シャロン。体のほうは大丈夫か?」


「うん、お陰様で。あのさ、それでなんだけど」


 シャロンと隣りに並ぶロイド。

 その二人に隠れるようにしてマーカスがいた。


「また嫌味でも言いに来たのか?」


「そうじゃないの。今回は本当に助けられたからお礼を言いに。私たちは役に立たなかった」


「まだ飛べないのか?」


「うん」


「そうか」


 なら本格的に不味い状況だ。

 浮遊石の機能停止。

 それがどれだけあの国に被害をもたらすか、わかったものじゃない。


「それとね。アイルくんに頼みがあるの」


「頼み?」


「私たちと一緒にオルディナに来てほしいの。お願い!」


 シャロンとロイドが頭を下げる。

 立ったままのマーカスと目があった。


「一度追い出しといて戻って来いってか。何をされたかも忘れてないぞ、こっちは」


「……すまなかった」


 二人に追従するように、マーカスも頭を下げる。


「これまでの非礼はすべて詫びる。必要なら気が済むまで殴って貰って構わない。俺たちが飛べなくなった今、航空戦力はお前一人だけだ。お前の力がいる。オルディナを救ってくれ。頼む」


 これまで見たことのないマーカスの態度に思わずため息が出た。

 正直、今の俺にはオルディナにもマーカスにもいい印象がない。

 一度追い出されたんだ、今になって戻って来いなんて都合が良すぎる。

 けど。


「いいじゃないか、その依頼受けよう」


「タイガ――団長、いつから?」


「ついさっきだよ。それよりオルディナについてだ。話を聞くにかなり危機的状況にあるらしいじゃないか。傭兵の仕事がたくさんありそうだ」


「それは……もちろん」


「なら、こちらに断る理由はない。そうだろ? アイル」


「……はぁ、しようがないな。団長にそう言われちゃ」


「じゃあ!」


「あぁ、行くよ。オルディナに。この傭兵団で」


「ありがとう! 早速連絡してくるね!」


 二人を連れてシャロンは店を出て行く。

 オルディナに連絡するつもりだろう。

 これであっちの状況もわかるようになるはずだ。


「よかったの? あれで」


「団長が言うんだ、従うさ」


「でも……」


「平気だ。アイルに不快な思いはさせない。これはチャンスだ」


「チャンス?」


 タイガは一度、店の扉をちらりと見やる。


「オルディナ国は戦力の多くを飛行魔導士に依存している。それが飛べなくなった今、虎の団が付け入る隙が出来た」


「……まさかオルディナの中核に食い込むつもりか?」


「察しがいいな、アイル。その通りだ。まず功を立て、魔導士として取り立ててもらい、最後には飛行魔導士の立場を虎の団が奪う」


「本気か?」


「あぁ、本気だ」


 タイガの目は本気だった。

 本気で飛行魔導士の立場を乗っ取る気だ。

 そしてそれを実行に移すなら今をおいてほかはない。


「はっ、はは! いいね、楽しそうだ」


「だろ? 俺はこれから出発の準備に入る。明後日にはここを経つ。今日は存分に楽しめ」


「あぁ、言われなくても」


 ジョッキを持ち上げて一気に飲み干す。

 それを下ろした頃にはもうタイガはいなくなっていた。

よければブックマークと評価をしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ