剣角
翼から異音がする。
震動が止まらない。
推進力に振り回されている。
それでも俺は空に触れられた。
「よし! かかってこい!」
咆哮が轟き、斬龍の剣先がこちらを向く。
そうだ、それでいい。
まずは俺に注意を向け、街の上から退かすのが最優先。
「ついてこい!」
派手に音を鳴らし、赤い閃光を引いて街の外へ。
斬龍は俺の背を追いながら、頭部に生えた刃に光を宿す。
輝かしい魔力を帯びた剣角がしなるように振るわれ、魔力の刃が天空に馳せる。
「あっぶね!」
身に迫る刃に対して身を捻るようにして回避。
鋼ノ翼を軋ませて急回転。
紙一重で斬龍からの攻撃を躱し、更に街から引き剥がす。
「この辺りでいいか」
十分に街から距離を取ることに成功し、旋回して斬龍と向かい合う。
刃竜の時はアラドのサポートがあって勝てたようなもの。
今度は一人で斃さなければならない。
けど、やれるはず。
調整不足の翼でも、飛べるなら俺に斃せない魔物はいない。
「行くぞ、斬龍!」
右手に握り締めてるのは一枚の羽根、鉄刀。
鋭く研いだ一刀を携え、全速力で加速。
空気の壁を突き破るが如く、一直線に斬龍の元へ。
加速を乗せた一閃を見舞うと、斬龍はそれを合わせて剣角を振り下ろす。
互いの刃が接触した瞬間、羽根の鉄刀が砕け散った。
「チッ、流石にダメか。けど」
斬撃を回避し、斬龍の背後へ。
羽根の鉄刀は壊されたけど、無意味なわけじゃない。
斬龍自慢の剣角に亀裂を走らせている。
羽根と角なら角のほうが強い。
でも、それを何度も繰り返せばいずれは角を折れるはず。
「あと何回だ?」
こちらに向き直った斬龍は全身を覆うように生えた鱗を逆立たせる。
放たれるのは全方位に向けた鱗の散弾。
「まずッ!」
即座に飛び上がり、回避の隙間がないほど敷き詰められた弾幕から逃れる。
雲を突き破り、どうにか逃げ延びたが、それは斬龍に時間を与えることになってしまった。
斬龍の周囲に輝く魔力が集い、光の剣が出現する。
その数、五つ。
鱗の散弾はあくまで時間稼ぎで本命はこっちか。
「上等!」
羽根の鉄刀を再構築。
柄を握り締めて急降下。
迫り来る光剣の悉くを躱し、突っ込んでくる斬龍の剣角に一刀を見舞う。
羽根の鉄刀は砕けたが、剣角に走った亀裂は更に深く刻まれた。
「あと一回!」
上下が入れ替わって仕切り直し、今度はこちらが上昇する番。
降り注ぐ光剣は先ほどのような直線的な動きじゃない。
こちらの動きを阻むように乱れ舞っている。
「元飛行魔導士を舐めるなよ!」
かつてのようにとは行かないけど、これでも候補生の中では一番飛行が上手かった。
形が変わろうと、飛行法が変わろうと、突破してみせる。
剣先を躱し、刃から逃れ、五つの剣舞の隙間を塗って飛翔。
最後に待ち構える斬龍の剣角に羽根の鉄刀を叩き付ける。
これまでと同様に羽根の鉄刀は砕け散り、そして刻まれた亀裂はついに剣角を折った。
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