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飛翔


 地面を転がったシャロンに駆け寄り、抱き起こす。


「怪我は!? ……ない?」


 斬龍に斬られたのかと思ったが、体を見る限りそうじゃない。

 打撲はあるがそれは地面を跳ねたからで、空から叩き落とされる要因となった怪我が見当たらない。

 魔法の制御を誤った?

 いや、飛行魔導士しとしてそれは絶対にあり得ない。

 不可解な状況に混乱していると、シャロンに続くように二人も墜ちてくる。

 マーカスは屋台の屋根を突き破り、ロイドはなんとか着地に成功した。

 二人とも怪我を負っている様子はない。


「どういうことだ! こいつは!」


「翼が……空を飛べない」


 飛べない?


「う、ううっ……翼がね、おかしいの」


「シャロン」


「羽ばたいても、飛べない。浮力が、届いてない……浮遊石になにか、あったのかも」


「そんなまさか……」


 飛行魔導士の本拠地、一年前まで俺も住んでいたオルディナ国には巨大な浮遊石がある。

 翼の魔法はこの浮遊石から浮力を得て空を飛んでいる飛行魔導士にとって無くてはならないもの。それになんらかの異変が起こったということなら、いまこの世界にいるすべての飛行魔導士が飛行能力を失ったことになる。


「ダメだッ! ロイド、お前は!」


「こっちもダメ。飛べる気配がない」


「くそッ! なんでだよ!」


 翼を広げて羽ばたくも、風が起こるだけで足は地面に縫い止められている。


「僕たちが飛べないなら、誰が斬龍を」


 雄叫びが天空に轟き、斬龍の影が街を這う。

 シャロンたちが飛べなくなったのなら、もう残る手段は一つだ。


「ぶっつけ本番か。しようがない。ロイド、シャロンを頼む」


「あぁ、うん」


 シャロンをロイドに渡し、鋼ノ翼を背中に生やす。


「なにするつもりだ? お前」


「黙って見てろ」


 脳内に描いた設計図を元に、鋼ノ翼を改造する。

 一番の障害はやはり燃費だった。

 空が飛べても持続できなければ意味がない。

 けれど、刃竜の解体現場を観察し、その体構造を理解することで問題は解消できた。

 燃料は大気中から得ればいい。

 刃竜は空気を大量に吸い込むことで大気中の魔力を体内に取り込み、特殊な機関を通して尾から魔力の刃を形成した。

 本来刃竜が持つ魔力では数秒と持たないほどの出力を発揮し続けた。

 だから、それと同じことをする。

 形成するのは吸入口と刃竜の特殊機関。それを搭載した翼を二枚、左右一対となるように配置、翼の先端では排気口を四つ束ねてある。つまり計八つの排気口からの魔力噴射で空を飛ぶ。

 所詮は机上で描いたもの、実践はこれが初めて。

 本当は何度もテストしてから実践運用したかったがしようがない。

 どんな不具合が起こるかわからないけど、ぶっつけ本番だ。


「さぁ、空に触れるぞ」


 大量の空気が吸入口に吸い込まれ、翼の内部で魔力が膨れ上がった。

 鋼の表面に赤いラインが走り、臨界まで育った魔力が一斉に放出される。

 瞬間、鉄の鳥の鳴き声がして、縫い付けられていた足は解放され、手は空に触れていた。


「飛んだ!」


 天を舞い、風を切り、雲を破る。

 誰よりも太陽に近づき、見下ろした眼下に斬龍を捉えた。

 飛んだ。

 ついに鉄の塊が空を飛んだ。

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