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天空の魔物


 路地を抜けると、すぐに人の波に飲み込まれた。

 誰もが全てをかなぐり捨てるように必死に走っている。

 彼らの視線は背後ではなく、空をしきりに気にしている様子だった。


「空になにが――」


 影が一つ、俺たちを飲み込んで通り過ぎていく。

 日の光を遮り、地面を這う影のヌシ。

 それは天空を舞う、巨大な魔物だった。


「斬龍!?」


 一振りの剣のような角を持つ龍。

 近縁種である刃竜と対を成す存在で、その脅威度は上から数えたほうが早い。


「なんで街の中に……いや、それより」


 斬龍とは明らかに違う魔物の鳴き声がする。

 この混乱に乗じて周辺の魔物が一気に街に雪崩込んだみたいだ。

 人並みに逆らって走ると、すぐに魔物の集団に出くわした。

 街の衛兵が戦っているがそれこそ多勢に無勢だ。


「傭兵だ! 手を貸すぞ!」


「おお! ありがたい!」


 魔法を発動し、鋼ノ翼で魔物の群れに斬り込む。

 衛兵の背後を狙っていた個体を斬り伏せ、向かってくる魔物の相手をする。


「その翼の魔法、飛行魔導士か?」


「昔はな。翼が鉄になって追い出されちまった」


「そうか、そいつは悪いことしたな」


「なら、こいつが終わったあとで一杯奢ってくれ」


「ははっ! いいねぇ。一杯と言わず一食奢ってやるよ」


「その言葉、忘れるなよ」


 さて、この衛兵を死なせる訳にはいかなくなったな。


「しばらく持ち堪えろ。すぐに傭兵仲間がくる」


「空にいるあの馬鹿でかいのは?」


「心配しなくてもこの街には飛行魔導士が三人いる」


「そりゃいい! っと、噂をすれば」


 血飛沫が舞う戦場の最中、小さな影が三つ通り過ぎていく。

 燃え盛る火炎を圧縮して翼とした焔ノ翼を持つマーカス。

 激しい波を重ねて翼とした千波ノ翼を持つシャロン。

 迸る稲妻を束ねて翼とした雷火ノ翼を持つロイド。

 俺の翼が鋼になったように、シャロンたちの翼も属性を獲得している。

 かつてはそれを羨ましくも、妬ましくも思った。

 けど、今は違う。


「あんたら傭兵が森の魔物を一掃してくれてよかった。これの何倍も相手することになってたと思うとぞっとする」


「そうなってたら俺はあんたを見捨てて逃げてたかもな」


「いいや、あんたはたぶん今と同じことをしてたね」


「なんでそう言い切れる」


「あんたはなんだか、そんな気がするんだ」


「気がする、ねぇ」


 褒め言葉ってことでいいのか?

 まぁ、そう思って置くか。


「とんだ残業だ、手当もらわないと」


「いいな、俺も上司に掛け合おう」


 片翼を剣として突き出し、魔物を真っ二つに切断。

 同時にもう片翼を盾として覆い、二体目の魔物の攻撃を防ぐ。

 更に強く弾き飛ばすことで建物の壁に叩き付けて命を奪う。

 張り付いた死体が地面に落ちたころ、魔物の横っ腹が切り崩された。

 傭兵仲間のお出ましだ。


「よう、アイル。お祭り騒ぎだな」


「まったくだ。でも、踊り手が不足してるってよ。魔物が退屈してる


「なら俺たちが相手してやるぜ、なぁ!」


 傭兵たちの雄叫びが響き、魔物へと得物が振るわれる。


「こうなったらこっちのもんだ。お疲れさん」


「ふぅ……一人で立ち向かった時はどうなることかと思ったぜ。あんたが来てくれて命拾いした。ありがとな」


「礼は言葉じゃなくて飯にしてくれ」


「はは! たしかにな。俺は約束を守る男だぜ」


 とりあえず、これで地上は一段落ついた。

 あとは。

 ふと見上げた空に、飛沫を見た。

 雨のように降り注いだそれは地面を濡らして跳ねる。


「シャロン!」


 シャロンが斬龍に落とされた。


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