インタビュー
自身で制作したボイスドラマ(https://youtu.be/-j0mb2zC-GA)を小説にしたものです。
「じゃあ、インタビュー始めるよ?」
「う、うん…!」
「そんなに緊張しなくて大丈夫だよ?」
「いや、でも…急に小説が人気になってインタビューを申し込まれたり、サイン会をお願いされたり…頭がパンクする…」
「君はいつも通り、君らしくしてくれれば大丈夫だから」
「それに顔も映らないから」と言われてから、青年は膝の上できゅっと握りしめた。
インタビュアーが言ったとおり、青年は緊張していたのだ。青年が初めて出版した小説が話題となり、今からインタビューを受けるのだ。インタビューはもちろん、自身の作品がこれだけ注目されているという状況も信じられずに震えていた。
それまでは趣味でインターネットに投稿していた小説。少ないながらにも読者は存在していたが、ここまで有名になるとは本人も思ってはいなかったのだ。
「じゃあ、録音も始めるね?」と言ってインタビュアーが録音を始める。
インタビューは雑誌に掲載されるのではなく、動画投稿サイトに投稿されるようだ。インタビューの雰囲気が変わる。仕事を始めるときのインタビュアーの雰囲気だ。
「インターネットを中心に莫大な支持を集め、書籍化もされて作家デビューということですが、どのような想いを持って執筆したのでしょうか?」
「は、はい…この作品は僕の原点を詰めた作品です」
「原点、ですか?」
と、不思議そうにインタビュアーが首を傾げた。
「話していて気付かれてしまうと思うんですけど…僕はずっと引っ込み思案でした」
「全然、そんな風には思わないよ?」
その言葉に、青年は少し恥ずかしそうに顔を逸らす。
「な、なあ…」
「ちょっとからかっちゃった」
「…」
青年は黙り込んで下を見てから、インタビュアーをきゅっと睨みつけた。インタビュアーは「ごめんごめん」と手を仰ぐ。
「でも、緊張はほぐれたでしょ?」
ここはカットするからというジェスチャーをするインタビュアーの顔を見て、溜め息を吐き、俯きながらインタビューに答え始める。
「…この作品は僕の原点を詰め込んだ作品です」
インタビュアーの顔を見ると、先程とは異なり、真剣な顔に戻っていた。
「引っ込み思案で誰にも相談ができなくて、一人でずっと悩んで…」
小説の表紙に触れる。
「そのときにアニメの主人公みたいに手放しで人を助けられる存在が居てくれたらって」
小説のページを捲る。
「そうしたら、僕みたいなやつにも手を差し伸べてくれるんだろうって」
「それは小説の主人公のことですか?」
「はい、現実はそんなに甘くないぞって言われても小説だったらと思って…こう、熱血主人公とは全然違うタイプになってしまいましたけど…」
「でも、それこそ、作品の個性ですよね!」
「あ、ありがとうございます」
これ、本当に同一人物なのだろうかと仕事モードになったインタビュアーに若干押され気味になっている作家にインタビュアーは続けて質問を投げかける。
「私も作品を読んだのですが、作品の作り手としてこの作品のテーマ、伝えたいことはどのようなことでしょうか?」
「えっと…あまり深く作品について語るっていうのは中々恥ずかしいですし、作品を手に取ってくれた方が感じてくれたことを大切にしてほしいって考えているんですけど、君の代わりは居ないってことは伝えたいです」
「やっぱり素敵!」
「えっと…ここもカットだよね?」
「あ、うん…」
インタビュアーは顔を赤くした。
青年の恋人として、小説のファンとして出た言葉はインタビューには必要のないものだったからだ。