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令嬢は可愛いものがお好き

作者: 橘おと

頭からっぽにして軽く読んでください。

もしかしたらそのうちおまけができるかも。

公爵令嬢ジェシカは自他ともに認める程、とても恵まれた人生を歩んでいる。

公爵家の血族を現すブラックオニキスのストレートヘアーを靡かせ、他国の王族である母方の血を強く引き継いだサファイアブルーの眼は、キラキラとシャンデリアの輝きにも負けず劣らず眩いばかり。

瓜実型の小さな顔には、完璧なパーツが絶妙なバランスで配置され、彼女の父と同じ位置にある小さなホクロがコケティッシュな雰囲気を醸し出している。


両親と二人の兄は領地経営やそれぞれの職務に勤しみ、社交界でも王族に次いで影響力のある一族。

政略結婚であった両親だが、息があったのか子ども達ですら辟易するような仲の良さを見せつけ、兄妹達もまた結束が堅い。

大抵のわがままや贅沢を許される立場でありながら心持ちは謙虚で、センスの光る本人に見合ったものを使用人と選ぶ能力や、幼い頃から驚くほど勉学に勤しむ真面目な性格は、彼女を完璧な貴婦人と盛り立てていった。


だが、ある一点。

その一点だけが、彼女の疵とならざるを得なく、この現状を作り出したとも言えるだろう。






「ジェシカ嬢!君との婚約は破棄させて貰う!」


デビュタントの令嬢子息が朗らかに楽しむ王宮のパーティーで、第三王子パウロは壇上よりジェシカに向けて宣言した。

その腕には砂糖菓子のような少女が笑顔で寄り添っている。

会場の貴族達のざわめきはそれぞれが小さいものでありながら、ざわざわと不穏な空気を醸し出しながら、様子を伺う。

下手をしたら王族と公爵家の仲違いに繋がるかもしれない状況に、自分たちの行末を考える者。

もしかしたら漁夫の利を狙えるかもしれないと虎視眈々と状況を鑑みる者。

我関せずと、迷惑そうに眉を顰める者。

様々な人々の視線を受けながら、段下でシャンパングラスを傾けていたジェシカは、そっとグラスを給仕に預けると、にっこりと満面の笑みを浮かべた。


「殿下有責での婚約破棄、お受けいたしますわ」

「な…っ!?」


ざわめきが大きくなる。

ハッキリと、殿下の責でと彼女は指摘した。

これは貴族だけでなく、婚約破棄を申し立てた本人であるパウロにも予想外の言葉であった。

なぜならば、ジェシカはいつも、パウロを甘やかす立場だったからだ。


「なぜだ!なぜ僕が悪いと言うのだ!?」

「私には有責になる原因はございませんもの」

「⋯っい、いつもおまえは僕の言う通りにしてきたくせに!なんでこんな時ばかり⋯!あ!嫉妬か!?本当は僕と離れたくな」

「可愛くないんですもの」

「⋯は?」


ドヤ顔でこれみたりと嘲笑しかけたパウロの言葉を、一級品の扇子を強く開く音で叩き切る。

そして、いつもの言葉とは真逆の言葉をパウロに告げた。



「パウロ殿下、私は可愛いものが好きですの。これはいつも申しておりますわね?可愛い可愛いと、貴方様に毎日のように伝えておりましたが⋯それは、見た目ではございませんのよ?あくまで中身が伴っての『可愛い』ですわ!」

「!?」



これにはパウロだけでなく、会場にいる貴族全てが驚愕した。

ジェシカの『可愛いもの好き』は有名であったからだ。

公爵家と縁を繋ぎたい王家が『見た目が可愛いが中身はわがままな第三王子』を、五歳年上のジェシカの婚約者に裁定する程。

ジェシカ自身も王家の思惑は感じとっていたこともあり、パウロを可愛がっていた。

だが、ジェシカは決してパウロを『可愛いもの』以上には見ていなかった。

わがままな弟を仕方ないなぁ、と溺愛する姉のような気持ちでしかなかった。

だからこそ、ジェシカ本人へのわがままは、はいはいと受け流せたし、逆を言えばずっと楽しみにしていたデビュタントを邪魔されたことで、パウロを『可愛い』と思えなくなったのだ。


「デビュタントを楽しみにしていた私達の気持ちを、なんとしてくれるのですか⋯っ!」



紳士淑女の最高潮の『可愛い』お披露目を同じ立ち位置で満喫することは、ジェシカの人生で一番の楽しみだったから。



そして、サファイアの瞳からポロリと宝石のような雫が落ちたことで、会場は阿鼻叫喚の嵐となった。


















後にこの出来事を人々は『宝石の落ちた夜』と呼んだ。

大変ロマンチックな名称だが、張本人であるジェシカは身悶えするほど恥ずかしく、夫から抱きしめられながらその話をされる度に、真っ赤になって「もうやめて」と震えるばかり。

ジェシカの夫となった第二王子アルベルトは、無邪気な笑顔で「どうして?」と首を傾げて抱きしめる腕の力を強めた。


「私はあの時、『可愛いもの好き』の貴女の気持ちに同感したんだよ!ジェシカの可愛さで、私も目覚めたんだから!」


素直で無邪気に抱きしめてくるアルベルトに、ジェシカはふるふると震えることしか出来ない。

アルベルトは素直で無邪気な『可愛い』と言われる性格をしており、「見た目がダメだったなら中身で勝負だ!」とばかりに王家が打診した結婚であった。

大惨事となったデビュタント『宝石の落ちた夜』は伝説となり、少しでもパウロのやらかしを払拭する為に婚約時期も早々に結婚することとなった。

勿論公爵家は憤慨し、ジェシカの意見を優先させてくれた。

ジェシカとしても婚約破棄となった立場であったし、自身がやらかしたことでその後の人生はろくでもない結婚しか思いつかなかったことで、それならば『可愛い性格』のアルベルトとの婚姻は良いものだと思ったのだ。


「ジェシカは見た目も中身もとっても可愛い!大好きだよ!」

「⋯私も、アルベルト様を愛しておりますわよ」


それは当然本音だけれど。



(『可愛い』は性悪と紙一重だったのかもしれませんわね⋯)


少しだけ後悔していなくもない。

それでいてなんだかんだ幸せなジェシカであった。

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