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世界を救うはずの勇者が世界を支配する魔王に!?  作者: 栗山 ぽん酢
1章 この世界とのお別れ
6/8

後悔と覚悟

 和人が死力を尽くした義父との死闘の数時間前。

 一人の女子生徒が溜息をつき、悲しげな顔をしながら歩いていた。


「はぁ、どうしてこうなっちゃったんだろう。」


 落ち込みながらボソッと小言を言っていたのは、宮村幸知、和人の元幼馴染だった。


「あぁ、私のバカ。何が『大丈夫?』よ。バカなの?大丈夫なわけないじゃない……」


「ずっとカズくんを見てきたでしょ?あんな酷い虐めを受けてて大丈夫なわけないじゃない!」


 今すぐにでも自分を本気で殴りたい気分だった。


「何か私にできることはないのかな。」

「そうだ!影からカズくんのサポートをして……」

「違う。そうじゃない……」

「そうじゃないでしょ。カズくんには沢山助けてもらった。なのに、なのに……」


「どうしよう。カズくん、私、とっても弱いや……カズくんを守ってあげたいのに、傷ついて欲しくないのに、私、カズくんを守る以前に、私自身を守ろうとしてる。」


 彼女の瞳からは涙がボロボロとこぼれていた。


「ほんとに、ほんとに、私は弱いや。弱すぎるよ、カズくん」


 何度も後悔を口にし、人目も気にせず泣きじゃくりながらも家へと帰った。


「ただいま…」


「あら、サッちゃんおかえり。おやついる?」


「ううん。いらない。」


「ん?サッちゃん何かあった?」


「なんにもないよ。大丈夫。」


「そう、もうすぐご飯だから着替えてらっしゃい。」

 私は返事をして自分の部屋へと向かった。



『ガチャ』

 自分の部屋のドアノブを開けると同時に、私はベットへとダイブした。



 そして、枕に顔を埋めながら泣いた。

「カズくん、ごめんなさい。」

 そう何度も呟きながら、ただひたすらに泣いた。



 涙が枯れてきた頃に、ママが「ご飯できたよ」と私を呼びに来た。


 でも、今の私には、ご飯を食べるような気力はなかったので、「いらない」と返事をした。


 するとママは私の部屋に入ってきた。


「どうしたの?サッちゃん、学校でなんかあった?」


「ううん。なんにもないよ。」


「うそ。小学校の時と同じ顔してる。」


「ほ、ほんとになんでもないんだって。」



「娘のそんな悲しげな顔を見て、『何も無かった』で信じる親がいるわけないでしょ。それにサッちゃん、さっき泣いてたでしょ?目の周りが真っ赤よ?」



「そ、それは……」



「はぁ。わかった。言いたくないならそれでいい。でも高校に入ってからずっとそんな顔よ?今日はそれよりも酷いけど。」



「……」

 私は何も答えられなかった。


 すると、ママの手は、包み込むように私の頬に触れた。



 とても暖かかった。

 この温もりを感じた瞬間、枯れたはずの涙がまたポロポロと、溢れてきた。



「ママ。私、わたし……」



「いいのよ。泣いて。」

 私の頭をなでなでしながらそう言った。

 そして、優しくも力強い声で



「でも泣いて終わりじゃダメ。何かされてるなら対応を考えること。何か思い悩んでいることがあるなら、ママでも、誰でもいいから、信頼できる人に相談すること。わかった?」



「うん…わかった。ありがとうママ。そうしてみる。」



 鼻をすすりながら返事をすると、

「そう。頑張りなさい!」

 と笑顔で言ってくれた。



 その笑顔につられて、私も自然と笑顔になった。

「ママ、お腹空いた!」



「ママもペコペコよ!ほら、早く着替えて降りてきなさい。ご飯温めておくから。」



「うん、わかった。」



 そう返事をするとママはダイニングへと降りていった。


 やっぱりママは凄いや。娘のことなんてお見通しよね。



 ママと話してちょっとだけ肩の荷がおりた感じがした。そして、カズくんを助けるという思いは、より一層強くなったのを感じた。



 制服から部屋着に着替えるとご飯を食べに1階へ降りていった。



 食事中はママからは特に何も聞いてこなかった。話したことといえば、この俳優がカッコイイやら、近所の山田さんがこの前、ビニールテープを蛇と見間違えて、ビックリしてギックリ腰になってしまった、など他愛のない話だった。



 心がすごく暖かくなった。こんな幸せな時間がいつまでも自分の周りで続いて欲しい、そう思った。


 夕飯を食べ終わると自分の部屋に戻り、電話をかけた。


「あ、もしもし、ケンちゃん?今大丈夫?カズくんのことなんだけど……」

『タケシ』と表記していた和人くんの元幼なじみですが、「ケンちゃん」こと、「伊藤 堅守(けんじゅ)」という名前になりましたので、ご了承ください。

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