4.最後の朝
目覚めると、いつもの天井が目の前にあった。時計を見ると針は6時を指していた。
習慣とは恐ろしいもので、昨晩あれだけのことがあったにもかかわらず、いつもと同じ時間に起きてしまった。
このままいつものように顔を洗い、いつものように朝ごはんを2人分作ってしまった。
このまま母さんの部屋に行けば、母さんは生きているんじゃないか、そう思ってリビングの方を振り返ると、すぐに現実に戻された。
そこにあったのは、クソ野郎の亡骸と、母さんの死体だった。昨日あったことは、妄想でも、夢でもなく、現実だった。
「あぁ、母さんは、母さんはもういないのか………」
とてつもない孤独感が胸が押し潰し、それに耐えきれなくなった僕は、泣いてしまった。
しかしすぐに、僕は泣くのをやめた。
「そうだ。泣いてる場合じゃない。僕は母さんと約束したんだ。幸せになるって約束したんだ。」
そう言って顔の涙を拭うと、僕は2人分のご飯を口の中に駆け込み、食べ終わるとすぐに制服に着替えて学校に行く準備をした。
なぜ学校へ行こうとしているのかは分からなかったかが、多分この現実から少しでも離れたかったんだろう。
僕は家を出た。
「母さん、行ってきます。」
この言葉が母さんへかけられる最後の言葉とは、この時、誰も知る余地もなかった。
僕は学校へ行く前に公衆電話を探した。携帯電話が主流になった現代では、公衆電話の数が少ないらしく、見つけるのに苦労したが、通学路の途中の公園にあるのをみつけ、僕はボックスの中へと入った。
そして迷うことなく、僕は警察へと連絡した。
「もしもし、家の中で人が刺されていまして、住所は……」
僕は警察に自分の家の住所と状況を一方的に伝えると電話を切った。
なぜ電話をしたのかは分からない。
あんなクズ野郎でも人は人だ。僕は人を殺してしまったのだ。その罪悪感から、そして、母さんはもういない、という現実を突きつけられるのを避けたかったのかもしれない。
電話ボックスから出ると僕は学校へ向かった。
そこの角を右へ曲がれば学校の校門が見える、というところで嫌な奴らに絡まれた。
「あれれぇ〜?和人くんじゃなぁ〜い。俺たちに何か言うことないのかなぁ?」
突然こんなことを言われても意味がわからない。
「えっと、なんのこと、、ですか?」
そういうと彼らの顔つきが変わり、
「あぁ?てめぇ、しらばっくれんのかよ!俺らに金取られるって分かってたから財布の中に金入れなかっただろ!そのせいでカラオケ行ったら金なくて警察よばれたんだ!てめぇのせいでな!」
「完全な自業自得じゃないか。」
「あぁなんだと!?」
「ボコッ」
「ッ」
あれ?僕なんで殴られてんだ?
僕は普段は火に油を注ぐようなことは絶対にしないのだが、なぜか無意識に言ってしまったようだ。
「お前は黙ってただ殴られとけばいいんだよ!」
周りのヤツらは僕を見て笑っていたり、合いの手を入れていたりしている。
ここは通学路でもあるので登校してくる生徒もいるがみんな見て見ぬふりをして横を通り過ぎていく。
僕に味方なんていないんだ。守るべき母さんも、もういない。
「あぁ、そうか。僕はもう何をしてもいいんだ。僕が幸せになれるなら……」
僕はニヤリと笑いながら言った。
「な、なんだよ、き、気持ちわりぃんだよ!」
僕に殴りかかってきた。
「なっ」
僕には拳は当たらなかった。昨日のことがあってから、なぜだから分からないが、妙に人の動きが見えるようになった。なので軽々と避けることが出来たのだ。
「さぁ、反撃返しだ。」
まず、僕を殴ってきたやつに殴り返してやろうと、やつとの間合いをつめた。
「反撃だ?調子乗ってんじゃねぇぞ!」
やつは僕を殴ろうと必死に拳を振るってきたが、僕は軽快に避けながら間合いをつめた。
そしてやつの目の前までいくと拳を握りしめ殴ろうとした。
その時、
「こらぁ!お前ら、何やってる!」
と誰かが叫びながらこっちへ向かってきた。僕たちのことをみた生徒が先生に通報したらしい。
「げっ、先生だ!逃げろ!」
と言いいじめ集団は逃げていった。
「おい?大丈夫か?」
僕は何も反応せず、制服の汚れをパッパッと払うとカバンを持って何食わぬ顔で学校へと歩いていった。
「お、おい。ちょっと待てよ。傷見るから」
などと先生は言っていたが僕はそれも無視した。
校門から学校へ入ろうとすると、何か違和感を感じた。が、見渡しても特に何も無いので気のせいだろうと思い、僕は学校の中へ入っていった。
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