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世界を救うはずの勇者が世界を支配する魔王に!?  作者: 栗山 ぽん酢
1章 この世界とのお別れ
3/8

3.家族

前話「2.帰宅」に一部文章を付け加えました。なお、内容はほとんど変わっていないため、再度読み直したいなと思う人は読み直してください。

「ガチャガチャ」と玄関の方で音がした。

 僕は急いで右手に持っている包丁を背中側に持ち、リビングのソファーの裏に隠れた。


 あいつはいつも帰ってくると必ず、冷蔵庫の中からビールを出し、飲むということをしている。だから僕は、あいつが冷蔵庫を漁っている隙に、リビング側からそっとあいつの背後に回り、包丁で刺し殺してやるつもりだ。


「ガチャ。」

 ドアノブが周りあいつが家に入ってきた。


「おーい、お父ちゃんが帰ってきたぞ〜っと、へっへっへっ。」


「チッ、お父ちゃんが帰ってきたって言うのに出迎えは無しかよ。これは躾が必要だな。へっへっへっ」

 と足取りがおぼつかない様子で家へ入ってきた。


 幸いあいつは酔ってるようだ。僕は息を殺してソファーの裏でタイミングを見計らった。


「おーい、かずと〜、いねぇのかぁ〜?出てこないとかぁちゃん殴っちゃうぞ〜」

 虫唾が走るほどムカついた。今は気づかれないためにも音を立てないようにしているが、怒りをいつまで抑えていられるか分からない。


「はぁ、あいついねぇのかよ。つまんねぇな。オラッ!」


「パリンッ」

 何かが割れる音がした。あいつは、怒りを床に落ちていた酒瓶を投げつけることで発散したのだ。


 僕は静寂を保っていたこともあり、いつも以上に驚いたが、何とか声を発するのは抑えた。だか、体は正直に反応してしまったため、ビクッと体を震わせてしまった。すると、震わせた体がソファーに当たってしまい、ソファーの上にあったビール缶が床に転がり出した。


 まずい!

 咄嗟に手を伸ばしたが、時すでに遅し。


「カラン」


 ビール缶が床に落ちた。


「ん?なんだ?」

 あいつが音に気づいたのかこっちの方を見ている。

 まずい、バレる!僕はこのまま死んでしまうのではないかと言うぐらい鼓動が早くなった。


「おい!そこに誰かいるのか!」

 そう叫びながらこっちへ向かってきた。


 どうしよう。このままこっちに来た時に不意を着いて刺すか?いや、でも正面からでこの男に勝てる自信はない。などと考えているうちにもあいつはどんどんと近づいてきていた。

 あと2歩も歩けばこちら側が見える、という所まで来た時、

「ドンドン!」

 2階から物音がした。

「お?なんだ?この音は。こりゃあ躾が必要みたいだな。へっへっへっ楽しみが出来たぜ。」


 僕が落とした缶のことなど忘れたようで直ぐに台所へ引き返し冷蔵庫へと向かっていった。


 ふぅ。あいつがバカで良かった。それにしても母さんどうしたんだろう。こいつのことを始末したら後で見に行こう。そう思いながら、またタイミングを伺った。


「さっ、ビール、ビールっと。」

「ガチャッ」

 あいつが冷蔵庫を開けた。

 僕はそれを確認するとそっと立ち上がり、息を殺して、抜き足差し足忍び足であいつに歩いていく。


「今日はどのビールにしようかな〜」

 あいつはこれから殺されるとも知らずに上機嫌でビールを選んでいた。僕はあいつの背中に手が届く距離まで近づいていった。

 あと1歩であいつに手が届くというところまで来たその時、

「痛っ!」

 足の裏に何かが刺さった。あいつの投げ割った酒瓶の破片が足の裏に刺さったのだ。僕は声こそは出さなかったものの、咄嗟に足を上げたせいで体制を崩し、体がよろけた。

 そして、「カラン、カラン」

 体制を立て直そうとした時に、足が床にころがっていたビール缶に当たったのだ。


「誰だ!」

 あいつが音を聞いて咄嗟に振り返る。

 やつの目に映ったのは包丁を持ち、殺意の籠った目で自分を見つめる僕の姿だった。


「か、かずと!てめぇ何してやがる!」


 バレてしまった。もう不意打ちは出来ない。やるしかない、今、ここで!

「う、うぉぉぉおぉぉぉお!」

 僕はやつに斬りかかった。


 が、僕は170cmちょいの、小柄で細身な非力の陰キャ人間だ。しかし、やつの身長は180cm越えていて、更にはスマートマッチョだ。そんな奴に僕が正面から挑んで、勝てるはずもなく、呆気なく包丁を取られてしまった。


「なぁ、おい、かずと!」

「はぁはぁ、お前、俺を殺そうとしたな?」

 興奮しているのか息が荒い。

「父ちゃんを殺してどうする?あ?誰が金を出すんだ?あ?おい?」


 包丁を僕の喉元に突きつけながら言った。


「うるさい黙れ!お前なんか父さんと思ったことはない!」

 僕は声を荒らげて言い返す。

「僕の父さんは1人だけだ!4年前に死んだ父さんだけだ!」


「あぁ、そうかよ。じゃあここで死ぬか?あ?」

 包丁が少し喉にくい込みそこから血が垂れた。

 僕は咄嗟に距離を取ろうとした。すると手に何かが当たった。

「おい、逃げようとしてんじゃねぇよ!殺されてぇのか?俺を殺そうとして、殺されかけてるとかざまぁねぇなwww」


 僕はやつの目をじっとみた。


「あ?なんだよ?」


「じゃあお前が死ね!」


「バリンッ!!」

「ッ」

 僕は落ちていた酒瓶を勢いよくやつの頭に振り下ろし、酒瓶が見事に割れたのだ。

 やつは痛みで咄嗟に頭を抑えたので、僕はその隙にやつと距離を取った。


「痛ってぇな!このガキ!絶対殺す!!」

 やつは僕に鬼の形相で迫ってくる。


 僕はそこら中に転がっているビール缶やら酒瓶をやつに向かって投げつけながら少しずつ下がっていった。

 しかし、やつはそんなのお構い無しに僕の方へ歩いてくる。

「おい、待てよ。逃げんなよ。俺を殺したいんだろ?ほら、殺してみろよ」


 僕とやつの距離はジリジリと近づいてきた。

「ドンッ」

 僕の背中が壁に当たった。

「へっへっへっ。もう逃げ道ねぇぜ?さぁ、大人しく殺されろ!」

 そう。もう逃げ場はない。でも、もしここで僕が殺されたら母さんがどうなる。恐らくやつに殺されてしまう。そんなことはさせない。相打ち覚悟で挑むしかない!

 僕はそう決心して落ちていた酒瓶をわざと割り、それを右手で持った。


「お?やる気か?いいぜ、かかってこいよ!」

 僕がやつの方へ向かおうとしたその時、


「やめてぇぇ!!」


 と言う叫び声と共に、突然目の前からやつが消えた。一瞬なにが起こったのか分からなかったが、直ぐに理解した。母さんがやつに飛びかかったのだ。


「このアマ!何しやがる!クソ、離せ!」

「和人を殺させなんてしない!」

「母さん……」

 僕は母さんの所へ駆けつけようとした。その時、

「グサッ」

「きゃあ!」

 悲鳴と共に誰かが倒れた音がした。見ると倒れたのはやつではなく、母さんだった。

「へっ、お、俺を殺そうとするからそうなるんだ。」

「つ、次はお前だかずと、覚悟しろよ!」

 僕は何も考えられなかった。

「母さん、母さん、母さん、」僕は俯きながらそう呟いた。


「おめぇのかぁちゃんは死んだよ!おめぇを守ろうとした挙句、俺にあっさりとな。ハッハッハ」


「黙れ。」小さいながらも、強くハッキリと僕は言った。

「あ?なんだって?」

「黙れって言ってんだよ!」

「あ?てめぇ調子こいてんじゃねぇぞ!さっさと死ねぇ!」


 やつは僕に飛び交かってきた。しかし、その攻撃は僕には当たらなかった。僕はやつの動きよりも早くやつの背後に回っていた。自分でも驚いた。


 人というのは死に直面すると五感が研ぎ澄まされ、通常の何倍もの力が使えると聞くが、恐らくそれだろう。僕は通常の何倍も早く動けたし、勘が良かったし、何よりとても落ち着いていた。


「なっ!いつの間に後ろに!」


 やつが振り返ろうとしたがそれよりも先に、右手で持っていた割れた瓶をやつの背中に刺した。


「ぐわぁ、い、いてぇ。て、てめぇ、絶対殺す!」


「おりゃ!」やつは僕に向かって包丁を持って、真っ直ぐに突進してきた。


  僕はそれを素早く避けた。


「なっ、くっそぉ。死ねぇ!」


 やつは体を反転させて次は上から包丁を振り下ろした。僕は振り下ろされた手を掴み、強く握った。


「ぐ、ぐわ。いっ、痛ぇ。」


 やつは包丁を手放してしまった。

 僕はやつの手を抑えながら包丁を拾った。


「な、なぁ、かずと。こ、殺したりしないよな?大丈夫だよな?」


「え?何?聞こえなぁーい。命乞いするならもっと大っきい声で言わなきゃ。」


 なぜだか分からないが、僕はこの状況でさえ、落ち着いていたし、何よりこの状況が楽しかった。


「こ、殺さないでくれ!!た、頼む!!」やつは叫んだ。


「は?ふざけたこと言ってんじゃねよ。てめぇは母さんを殺した。そんな奴が命乞い?頭おかしいんじゃねぇの?でも良かったねぇ、僕が優しくて。せめてもの情けで痛みの声をあげることなく殺してあげるよ。」


 僕は口は笑っているものの目は獲物を見る獰猛な肉食獣の目をしていて何ともおぞましい顔で、そう言って、やつの喉元を掻っ切った。

「ガッ」

 やつは悶え苦しんでいる。


「え?ひと思いに殺してあげると思った?バカじゃないの?お前には母さんの味わった苦痛の倍は受けてから死んでもらわないと困るんだよ!」

 そう言って僕は次にやつの腹を刺した。


「グサッ」

「グサッ」

 何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も。


 気づいたときには、やつはもう死んでいた。

 僕は軽くなったやつの体を床に放り投げた。


「あぁ、終わったよ、母さん。」

 僕は母さんを見ながらそう呟いた。すると、微かだが母さんは動いていた。まだ生きていたのだ。僕は急いで駆け寄った。


「母さん、分かる?僕だよ?あいつはもう倒した。もう大丈夫だよ。安心して!」

「か、和人?そこにいるの?」

「あぁ。ここにいるよ母さん。」

「ごめんね、和人。」

「なんで謝るの、母さん。母さんは何も悪いことはしてない。悪いのは全部やつのせいだ。鈴木 斗哉(とうや)とかいうクソ野郎のせいだ。」


「ごめんね。」母さんはそれでも謝り続けた。


「和人。手を握ってくれない?」

「うん。わかったよ、母さん。」

 僕はギュッと母さんの手を握った。


「和人、手大きくなったわね。」

 と母さんは微笑む。


 「和人、あなたは強い子よ。どんなことがあっても挫けちゃダメ。あなたには母さんと父さんがついてる。だから、生きて幸せになりなさい。それが母さんの最後の願い。」


「母さん、最後って、何言ってるの?母さんと僕はずっと一緒に暮らすんだよ?ね?そうでしょ?母さん」

 僕は泣きながらそう言った。


 しかし母さんからの返事はなかった。


「母さん?母さんってば!ねぇ、起きてよ。お願いだよ……」


 僕は母さんを抱きしめたまま、しばらく動かなかった。

 どのくらいたっただろう。外は明かりも消え真っ暗だった。


 僕はこれまで何度も死のうと考えた。学校ではいじめられ、家ではあのクソ野郎から虐待を受け、どこにも居場所がなかった。それでも今日まで生きてこられたのは母さんがいたからだ。


 僕の父さんは、交通事故で死んだ。正義感の強い人で死因も、道路に飛び出した女の子を助けるために自分が犠牲になったそうだ。僕と母さんが駆けつけたときには辛うじて息はあったが話をできるような状態ではなかった。その後、父さんはあの世へ行ってしまった。


 父さんが行ってしまったあと、看護師の人に手紙を渡された。


 そこには、「母さんを守れ。今日からはお前が一家の大黒柱だ。立派になれよ。」と書かれていた。

 これは父さんが病院に運び込まれた直後に、看護師の人に声を振り絞って言った言葉だそうだ。だから、僕は死ねなかった。


 父さんがいなくなってから、母さんの精神は不安定になっていた。そこに漬け込むようにして家に入ってきたのがあのクズだった。あのクズは母さんに漬け入り、父さんの保険金を勝手に使い豪遊し、僕や母さんを鬱憤晴らしの格好の的として、DVを繰り返した。だから殺してやった。


「父さん、僕、母さんを守れたのかな。こんなことになってごめんね。僕も直ぐにそっちに行くよ。そしたらまた3人で仲良く暮らそう。」


 そう言って僕は床に転がっている包丁を手に取り、自分の心臓の前まで持ってきた。そして、刺そうとしたその瞬間母さんの言葉を思い出した。


「ずるいよ、母さん。僕、死ねないじゃないか。わかったよ。2人で夫婦水入らずの時間を楽しんで。僕はもうちょっとしてから行くよ。」


 僕はその後どうしようか迷ったがとりあえず寝ることにした。

3話更新遅くなってほんとにすいません。正月明けから忙しくて作業の合間合間で時間を作って書いてたんですが、ああでもないこうでもないなんてしてるうちにこんなに時間が経ってしまいました。ほんとにすいません。


この作品が面白いな、また読みたいなと思ってくださった方は高評価と共に、ブックマーク追加や、感想などを書いてくれると私のモチベが上がりますのでよろしくお願いします。また、厳しい感想も今後の成長の糧となるので全然OKです。でも誹謗中傷はやめてください。私メンタル豆腐並みなので。

それでは今後とも私と和人くんをよろしくお願い致します。

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