2.帰宅
急に喋りかけてきたあの2人を無視した後、僕は急ぎ足で家に帰っていた。
僕は虐められていない限り、学校が終わるとすぐに帰宅している。
僕は学校に居場所がない。それは当然、虐められているからだ。だが、家にも居場所がある訳でもない。それでも僕は急いで帰宅する。なぜなら、母さんが心配だからだ。
だから僕はいつも、急ぎ足で帰る。
今も陸上の競歩の選手並の速度で歩いている。
「んー、ちょっと盛りすぎたかな?」などとバカなことを考えていると
「危なッ」
石に躓いて、転けそうになった。
「危ない、危ない。こんなところで転けるとかほんとに恥ずかしいから勘弁だわ。」
などと思いながら、下を向いて石をこれでもかと言うほど警戒しながら歩いていると、今度は、
「ゴンッ!バタン!!」
と勢い良くバス停に突っ込み、バス停と共に道に倒れた。
「痛ってぇ。おいおい、マジかよ!僕、バス停と一緒に転けてるよ!石で躓くよりも恥ずかしいな!」と大声で言おうか迷ったが、転けたこと以上に羞恥を知らしめると冷静に判断し、心の中に留めておくことにした。
「たく、今日はツイてないな。」
また歩き出す。
「グチョ」
「なっ!」
今度は犬の糞を踏んだ。
「ちょ、もう、ふざけんなよ。」
「はぁ」
あまりの不運に、ため息をついた。
「うんこ踏んじゃったじゃん。まだ猫の方がマシだよ。なんて、こんなこと言うと動物愛護なんちゃらってとこになんか言われちゃうな。はぁ、靴にうんこ付けて歩くとかもう歩くうんこじゃん。うんこマンじゃん。」
と心の中で考えていた。
「僕、何考えてんだろ。ただのアホじゃん。」
また競歩の選手並の速度で歩き始めた。
こんなことを繰り返しているうちに家に着いた。
「ただいま。」と言い家に入るが、誰からも返事はない。
僕は手洗いうがいを入念に済ませてから、母さんのいる2階の部屋へ行った。
部屋に入ると中は電気がついておらず、カーテンの隙間から夕日の光が微かに入っている程度で、辛うじて物の形がわかる程度の明るさだった。
母さんの部屋は6畳半で、窓際にベッド、その脇には腰くらいの高さの本棚があり、本棚の上には母さんの趣味だった編み物のキットが置いてあった。
母さんはその中でベットに寄りかかるように座っているのが見えた。
「母さん、ただいま。」
しかし、母さんは返事をすることもなく、
「あの人が帰ってくる。あの人が帰ってくる。」
と震えながら怯えるようにして、何回も呟いていた。
「チッ」
舌打ちが自然と出た。何も感じなくなった僕が唯一感じることの出来る怒りだった。母さんをこんなにした、あの人に対するとてつもない怒りだった。
「遅くなってごめんね。お腹すいたでしょ?何か作るよ、ちょっと待ってて。」
母さんからの返事はない。ただただ震えていた。
僕は怒りを抑えながら台所へと向かった。
台所は1階にある。2階は母さんがいるので掃除を欠かさずしているが、1階は酒瓶や、ビール缶がゴロゴロ転がっていて、ゴミ屋敷のような状態だった。
冷蔵庫を開ける。中は当然の事ながら、酒だらけだった。一昨日買った野菜が酒に隠れるようにして入っていた。僕はその野菜を食べやすいように1口大に切ると、フライパンに油を引き、手際よく野菜炒めを作った。料理は得意ではないが、1度作ったものは何も見ずに作れると言う特殊能力を持っているのでそれなりに料理はできる。
「ふっ、特殊能力だって。」
自分の思ったことに思わず笑ってしまった。
味噌汁はインスタントのものを使い、ご飯はチンご飯だ。それらをお盆に乗せて母さんの所へ持っていった。
「母さん、ご飯作ったよ。ほら、口開けて。はい、あーん。」
僕は母さんにご飯を食べさせた。
「母さん、美味しい?」
反応はない。でも心做しか微かに微笑んだように見えた。
「か、かず、と?あ、あり、が、とぉ。」
「母さん!僕がわかるの!ううん。大丈夫だよ!だから母さんも頑張って!僕があのクソ野郎を何とかするから!あともうちょっとの辛抱だから!」
しかし、もう母さんは何の反応もなかった。
僕は泣きそうになりながら
「あともう少しの辛抱だから、、、。」
と呟き僕は1階へ降りていった。
あいつがもうすぐ帰ってくる。僕は今日、あいつを、あの男を殺すつもりだ。
僕は台所からそっと包丁を手に取り、体の後ろ側に隠し持った。
夜8時過ぎ、家のドアノブが回った。あの男が帰ってきた。
さぁ、2話でまさかの急展開来ました!なぜ、和人の母があんなことになってしまったのか。なぜ何も感じなくなった和人が、怒りを感じたのか。なぜ和人は、いつも馬鹿なことを考えているのか。この後、だんだんと解き明かされていきます!今後の展開に乞うご期待ください!
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