装備の新調(超パワーアップ!)
ミルマス武具商店に向かう前、俺たちは錬金の石をまたひとつゲットした。
「これ1つで11万ゴールドか……」
石をつまみながら俺はつぶやく。
「いまだに現実感がないな」
「にししし! これから3000万の買い物をするってのに、辛気くさい顔しなさんなって!」
本当にそうだ。
慣れるのかな、これ……いや、慣れていいのかな……。
日課を片付けると俺たちはミルマス武具商店へと向かった。前回と同じ店員が俺たちを迎えてくれる。
「いらっしゃいませ」
店員に向かって俺は言った。
「魔狼ブロードソードと青火鳥チェインメイルを買いたいのですが」
「はい、承り――」
とても丁寧な仕草で応じかけた店員の動きが止まった。
「は?」
おそらくは名店の優秀な店員なら滅多に見せないであろう表情を俺に向けた。
自分の失言に気づいたのだろう、店員は態度を改めた。
「失礼いたしました。すいません、聞き間違えてしまったようなのでもう一度お願いいたします」
「魔狼ブロードソードと青火鳥チェインメイルを買いたいのですが」
俺は一言一句そのまま繰り返した。
店員は表情こそ変えなかったが、その目が動揺に揺れる。
まあ……そうだろうな……。
以前の来店時と同じく俺たちの装備は低ランク貧乏装備だ。そんな人間が高級装備を『買いたい』だからな……『見せてください』の前回とは次元が違う。
「大丈夫ですよ。お金ならありますから」
ミーシャが言い切る。
そこまで言われると店員も対応しないわけにもいかないのだろう。
「はい、承りました」
今度は途切れずにそう言うと、俺たちをカウンターへと案内する。
俺たちが待っていると2つのものを運んできた。
「こちらがご希望の商品でございます。間違いはありませんか?」
鞘に入れられた1本の剣を俺は手に取った。
魔狼ブロードソード。
1100万ゴールドの高級品だ。
すらりと抜き放つ。紫色の刃は磨き抜かれていて指紋1つついていない。
刃を見ているだけで背筋に緊張が走る。
恐ろしく斬れそうな刃だ。
魔狼と呼ばれる巨大な狼を倒して入手できる鉱石で造ったブロードソードだ。
素早い動きで獲物へと近づき、鋭い牙と爪で蹂躙する。
まさにその強さがそのまま落とし込まれたかのような剣だ。振るえばぞっとするほどの強さを俺に与えてくれるだろう。
剣を鞘におさめる。
次に隣の青火鳥チェインメイルを見た。青い鎖かたびらで所々に火の粉のような赤い模様が描かれている。
こちらも1600万ゴールドのとてつもない金額だ。
炎を喰らい、炎を吐く。
象ほどの大きさで青くきらめく羽毛に身を包む巨鳥。
鎧に触れた。
金属製の硬さはあったが――俺が着ているものとは明らかに違う強靱さが指先から伝わってくる。
Bランクの魔獣――腕利きの冒険者が命を賭して戦ってようやく狩れる相手だ。
剣が、鎧が。
まるで俺に語りかけてくるようだ。
――Fランクのお前ごときに俺たちを扱う資格があるのか?
そんな声が。
いや、本当にそう思っているのかもしれない。
なぜなら、魔獣の石から生成された剣は生きていると言われているから。そこに意志の残滓があると言われているから。
俺に資格は?
ない。
魔獣の武具はそれを狩った者にこそふさわしい。それを金の力で手に入れようだなんて――
恥ずかしくないのか?
俺は深呼吸した。心を落ち着かせる。
今はまだ届かない。今はまだ充分じゃない。
でも――
いつかなる。なればいいのだ。
この剣と鎧にふさわしい冒険者に。
「これをください」
「承知いたしました。……2700万ゴールドとなりますが、お支払いは大丈夫でしょうか?」
「もちろん」
そう言ってミーシャが前に進み出る。そして、一枚のカードを店員に差し出した。それはミーシャが口座を持っている銀行が発行しているカードだ。
大きな買い物をする場合はカードを使って決済するのが普通だ。
「ありがとうございます」
丁寧な仕草で受け取った店員はカードを脇のボックスに差し込む。
「記名をお願いいたします」
店員に促されて、ミーシャはカウンターの上にある黒い板を指でなぞり、すらすらと自分の名前を書く。
すると、ボックスが軽い音を立てた。
「ありがとうございます、確認できました」
店員はボックスにある数字のボタンを押していく。
27,000,000。
という数字がボックスに表示された。
「お支払いはこちらになります。問題ないようでしたら、決済をお願いいたします」
「……うーん」
そこでミーシャが首をひねった。
「どうしたんだ、ミーシャ?」
ミーシャは俺をじっと見た。
「せっかくだし……ねえ、店員さん? ラージシールドおまけしてくれない? さすがにバックラーじゃ格好がつかないしさ」
俺は受け流し専用の小さな盾を愛用しているのだが。
店員はふふっと笑うとこう答えた。
「構いませんよ。それくらいお安いご用です」
おお……。
10万ゴールドはするものだが。
それだけの買い物ということか。
「やったね! 言ってみるもんだ!」
決済が終了した。
今この瞬間に2700万ゴールド――家が買えるような値段を決済したと思うと心底からびびってしまう……。
「確かに」
店員が俺にナイフを差し出した。
「それでは、血判を」
血判――それはモンスターの武具を身につけるための儀式だ。
モンスターの武具はそのままだと装備しても意味が無い。使用者が血の契約をおこなうことで性能を発揮するのだ。
その行為を血判と呼ぶ。
血判による所有者になれるのは1人だけ。つまり、この武具は俺専用のものとなるのだ。
血による契約。
これこそが、モンスター武具が生きていると噂されるゆえんだ。
店員が剣と鎧を指先でなぞって印を描く。それぞれにかけられていた保護魔術が解除された。
俺はナイフで指先をぴっと切り、2つの武具に押しつけた。
きれいに磨かれた金属を汚すのは気が引けたが、問題はなかった。俺の血はまるで蒸発したかのように――いや、違うな。吸い込まれたかのように消えてしまった。
「おめでとうございます」
店員ぱちぱちぱちと手を叩く。
「魔狼ブロードソード、青火鳥チェインメイル。ともにお客さまのものとなりました」
「やったねええええええええええええ!」
俺よりも先に隣のミーシャがバカでかい声で大喜びした。
「ねえ、ねえ、イオスゥ! 今すぐ装備してきてよ!」
「え、今すぐ……?」
「そりゃ見たいでしょ! ねえ、ねえ!?」
パトロンはミーシャだ。ご意向は無視できない……。
というわけで、俺はその場で装備を変えることになった。
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名前 :イオス
レベル:15(戦士)
攻撃力:250(+510)魔狼ブロードソード
防御力:205(+390)高品質なラージシールド/青火鳥チェインメイル
魔力 :175
スキル:シュレディンガーの猫
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俺の素のパラメタより装備のほうが強い……。
ていうか、おまけしてくれたラージシールド、高品質なやつなんだけど……。どれだけ気前がいいんだ……。
「いやー! やっぱカッコいいね、イオスくん!」
「そうかな?」
「うん! 似合うよ!」
ミーシャは口元を緩めると、にししし! と笑った。
「明日からさ、ガンガン行っちゃおうよ! ね!?」
「ああ。頑張ろう」
胸がわくわくして仕方がない。
明日からどんな日々になるのだろう。俺たちはどこまで行けるのだろう。
シュレディンガーの猫と新しい装備が切り開く世界。
それはどんなに輝いているのだろうか――
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