第17話 ラッキーグランデ
狩りを終えた俺たちは冒険者ギルドに戻った。
魔石や戦利品を売らなければならない。ちなみに、鉱石関係は俺のアイテムボックスで管理しているのだが、少し前にまとまった数をマグダリア商店に売り払った。俺たちから買ったことは誰にも言わないことを条件に。
おかげで、C級の装備が大量に出回って相場が混乱しているらしい。
……ま、まあ、安く買えるってことはいいことじゃないかな……。
ギルドの受付で戦利品の処理をしてもらっていると、受付嬢が俺たちに話しかけてきた。
「ラッキーグランデが出たらしいですけど、お客さまはご存知ですか?」
「へえ」
そう応じる俺の横でミーシャが首を傾げた。
「ラッキーグランデ?」
「このダンジョンにだけ出てくる固有モンスターだよ。金色のハムスターだな。ただ出現がとても珍しくて、あんまり見ないんだよね」
「ネームドなの?」
「いや、ネームドじゃないな。単に発生が珍しいんだよ。1年くらい姿を見せないと思っていたら、毎月のように姿を見せることもある」
「ふぅん、ま、珍しいのはわかったけど――珍しいだけなの?」
「ドロップアイテムの『黄金のひまわりの種』が結構な高値で売れるんだよ」
「なるほどね、でもそんなに価値があるのなら、噂にする前に第一発見者で狩ればいいのにね」
「サイズが普通のハムスターと同じくらい小さくて、半端じゃなく足が速いんだよ。なので、とても倒しにくい。出てくるといつもダンジョンを走り回っているから、すぐに知れ渡るんだよな」
「……狙うの?」
「うーん……そうだなあ……」
大量に鉱石を売り払って数千万ゴールドは稼げた。金銭的には一時の危機的状況を脱しているので、別に必要性はないのだけど――
学生時代にはよく話題になったものだ。ラッキーグランデが出たぞって。当時の低レベルな俺たちでは噂をするのが精一杯だったが、それだけに憧れはあった。
いつか狩りたいと。
青春の目標のひとつに挑んでみるのも悪くないだろう。
……それに一度はラッキーグランデの出る階層に行く必要があった。なぜならそこは、俺たちをかばってくれた教師ヘイルが亡くなった場所だから。
あのモンスターが姿を見せた場所だから――
「よし、狙ってみよう」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その日、グレイルたちビッグ4はマグダリア商店を訪れた。
飛躍には装備を整えるのが手っ取り早い。まだまだ貯金の段階だが、将来的な購入計画の下見は大切なことだ。
店の入り口に到着するなり、グレイルは目を疑った。
『C級の鉱石、大量入荷! C級装備がお買い得!』
『期間限定でD級装備も緊急値下げ!』
そんな看板が店の前に立ててあったからだ。
4人は思わず顔を見合わせて、大急ぎで店へと入っていく。価格帯を調査すると、確かにD級C級の装備が10%ほど安くなっていた。
グレイルは思わず興奮してしまう。
わずか10%だが、それは無視できない金額だ。なぜなら、モンスターの装備は高いからだ。低級でも数百万はするのでかなりの節約になる。
グレイルはカウンターの店員に近づいた。
「おい、どうしたんだ、この安売りは?」
「店長が知り合いからC級の鉱石を大量に仕入れまして。それで利用者さまへの還元セールをしようとなりました。D級はC級が値崩れしている関係で、あわせて値下げしております」
「ほお」
グレイルはにやりと笑う。
(イィィィィオオオオオス! これだよ! これが俺だ! ちょうどD級の装備が欲しいなあ、と思った時期にあわせてセール! なんたる幸運! 店長の知り合いとやらに無限の感謝だな! これで俺たちは数十万を節約できる! いまだに錬金の石を集めているお前には目もくらむような大金だろう!?)
このチャンスを逃すわけにはいかない。
あまりゆっくりはしていられない――なぜなら、店には多くの冒険者たちがきている。彼らが考えていることもグレイルたちと同じだろう。
「……出るぞ」
短く言って、ピーターセンが店を出ていく。グレイルたちも後を追った。
ピーターセンが歩きながら話し始めた。
「実はな、ラッキーグランデが出たらしい」
それが何を意味するのか、この街で育ったグレイルたちはすぐ理解した。
ラッキーグランデが確定でドロップする『黄金のひまわりの種』を狙うつもりだ。
ピーターセンが話を続ける。
「大金で売れるからな……それで装備を揃えようじゃないか――俺たちビッグ4にふさわしい装備を!」
「くっくっくっく、悪くないアイディアだと思うぜ、ピーターセン!」
金だけではない。ずっとグレイルはラッキーグランデを倒してみたいと思っていた。
ラッキーグランデはたまにしか出現しない珍しいモンスターだ。そのため、出現すると学校でよく噂になっていた。
(イオスのやつもよく言っていたなあ……いつかは狩ってみたいなんてよお……。残念だったなあ、イィィィオオオオオス! せっかくラッキーグランデが出たってのに、場所はD層だあ! 魔術師に転職したばかりのお前じゃ、まだF層が関の山だもんな!)
はっはっはっはっは! とグレイルは高笑いした。
イオスだけではない。学生時代、みんなラッキーグランデを狩りたいと言っていた。全校生徒の目標を最初に達成するのは――
学生カーストの最高峰、ビッグ4にしか許されない!
「やろうじゃねえか、ピーターセン! ラッキーグランデを狩る――俺たちビッグ4にふさわしい成果を上げてやろうじゃねえか!」