第12話 ニャンコロモチの正体は?
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俺とクルーガーは校舎内にある訓練場で向かい合った。お互いに刃を潰したブロードソードを構えている。
勝負のルールはシンプル。
クリーンヒットを先に与えたほうが勝ち。
「行くぞ!」
クルーガーが一気に間合いを詰めてきた。
年は20代後半の戦士クルーガーのレベルはおそらく30くらいだろう。攻撃力は400か。
一方、剣聖である俺の攻撃力は424。さらにボーナスがついて577。
……手を抜かないと決めた以上、負けるはずがない。
クルーガーが振り下ろした剣を、俺は軽く打ち払う。
「むっ!?」
クルーガーの表情が変わった。剣から伝わる圧の重さに気づいたのだろう。クルーガーがさらに何度も打ち込んでくるが、いずれも俺には届かない。
「イオス、お前!?」
俺は力強い一撃でクルーガーの刃を打った。クルーガーの体勢が大きく崩れる。
そのまま間合いを詰めた俺はクルーガーの足に足払いをかけた。
「うおっ!?」
尻餅をつくクルーガーの鼻先に俺は剣を突きつける。
「……勝負あり、ですかね」
「クリーンヒットするまでが勝負だろうが!」
クルーガーはそう威勢よく言ったが、それだけだった。身体をばたりと地面に横たえる。
「――なんてな。ははは、勝てる気がせん。強くなったなー……イオス」
「ありがとうございます」
「卒業生に負けたのは初めてだが――悪くはないな。親父がいつも嬉しそうに言っていたんだよ。勝った日よりも嬉しそうに負けたことを話していた。その気持ちがわかるよ……」
クルーガーは満足げに口元を緩める。
……そうか。
送り出した生徒たちが大きく育っていることが、彼らの喜びなのだろう。そうなってくれた生徒たちの背中は彼らの誇りなのだろう。
……俺はもう少しでそれを汚すところだった。
わざと負けなくて、本当によかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
翌日、俺とミーシャとニャンコロモチはダンジョンを歩いていた。
クルーガーとは学校での仕事が終わってから合流する予定だ。俺たちは先行して日課のグレイゴースト狩りを片付けることにした。
「にししし! いよいよだぞ、ニャンコロモチ! 君とイオスが出会った場所までもう少し! そこに至ったとき、君に去来する感情はなんだろうね!?」
なんてミーシャが声を掛けるが、ニャンコロモチは「はて? 吾輩は人語などわからぬが?」という様子で、特に反応もなくトコトコ歩いている。
「クールだねえー!」
ミーシャがけらけらと笑った。
もともと、俺たちがアンバーマーにやってきた理由は力場をまとう猫――ニャンコロモチの謎に迫るためだ。
普通の猫、力場をまとったりしないからなあ……。
なぜか俺とステータスが同じ(っぽい)のも……。
そんなわけで、まずは俺とニャンコロモチが出会った場所に行ってみようという話になったのだ。
ミーシャが口を開く。
「しっかし、びっくりしたなぁー。イオスとニャンコロモチがダンジョンで出会っただなんてね。これでまた謎が増えたよね!」
「どんな謎?」
「普通の猫はダンジョンにはいない!」
「確かに。猫型モンスターくらいだな――うん?」
それから、俺は深く考えずにこう続けた。
「ニャンコロモチ――実はモンスター説は?」
「うふふふ、可能性としてなくはないよねー」
「でも、調べる方法がないか……」
倒してリトリーバーを近づければ判明するかもしれないけれど。
いやいやいや! できないから!
悩む俺にミーシャがあっさり言った。
「え、あるけど?」
「あるの!?」
「リトリーバーを近づける」
「それ以外で!」
「……!? なんで!?」
心底からびっくりしているミーシャの様子に、俺が心底からびっくりしてしまう。
「だって、ニャンコロモチを倒さないとダメだろ?」
ミーシャは怪訝な様子で小首を傾げた後、ああ! と納得した。
「違うよ! 倒さずにリトリーバーを近づけるんだよ?」
「え?」
「倒さずにリトリーバーを近づけると、そのモンスターの種類を教えてくれるの。表面にある画面に『グレイゴースト』とか出てくるんだよ」
「そんな機能、あったの!?」
俺は慌ててリトリーバーを引き抜いた。こいつ、意外と高性能なんだなあ……。
ミーシャが話を続ける。
「ニャンコロちゃんの場合、新種かもしれないから名前は出ないかもしれないけれど――モンスター判定はできたはず」
「ほー」
俺はすたすたとニャンコロモチに近づいた。
「ニャンコロモチ。ちょっと調べてさせてもらっていい?」
「にゃう」
ふん、お前も物好きだな。まあ、好きにするがいい、という感じでニャンコロモチが動きを止める。お前、本当は人語わかってるんじゃない?
俺はしゃがみ込んでリトリーバーを近づけた。
画面の中央に『判定中』という文字が出る。その下にある進行率を表すパーセンテージが少しずつ上昇している。
……解析は時間がかかるのだろうか……。
それを眺めながら、俺はいろいろと考えてしまう。
もしも……ニャンコロモチがモンスターだったらどうしようか。モンスターは倒すべき敵。俺はニャンコロモチを倒すのだろうか……。
い、いやあ……難しいよなあ……。
そんなことを考えると判定結果が出た。
結果を見て、俺はほっと息を吐く。
「……モンスターじゃないってさ」
「えっへっへっへ! よかったねえ、ニャンコロちゃん!」
どや! という雰囲気を漂わせるニャンコロモチをミーシャが抱え上げて頬ずりする。
俺はゆっくりと立ち上がる。
「ま、ひとつ謎は解けてよかったか」
「イオス、何を言っているの? 謎は解けていないんだよ?」
「そうなの?」
「もともとの話は、普通の猫はダンジョンにいない、だよ」
「ああ、そうだった……」
その点については何も解決していないな……。
ミーシャがニャンコロモチの顔を覗き込んで話しかける。
「ま、君はモンスターじゃない猫なんだろうけど……普通の猫じゃないってことかな? いやはや、謎が深まる一方だねえ。君は何者なんだい?」
「にゃう?」
ミーシャの問いかけに、猫なので言っていることがわかりませんが? という感じでニャンコロモチが首を傾げる。
……いやあ……こいつ絶対にわかってると思うんだよなあ……。
そんなわけで俺たちは再び歩き始めた。
それほど進まないうちに――
「あ!」
ミーシャが声を上げる。
ふよふよと漂っているグレイゴーストがそこにいた。
「見せてください、イオス先生! 人類史上初の男の力を!」
「人類史上初の男の力?」
「剣聖にしてファイアアローを使える男ですよ!」
「ああ……」
その設定、まだ生きていたんだ。
まあ、俺だって見てみたい。わくわくしていたのは事実だ。
「やってみるか!」
俺は右手をグレイゴーストへと向けた。
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名前 :イオス
レベル:27(剣聖)
攻撃力:424(+510)魔狼ブロードソード
防御力:316(+440)大緑鱗スケイルシールド/青火鳥チェインメイル
魔力 :262
スキル:シュレディンガーの猫、剣聖、ウォークライ、強打Lv3、闘志Lv3、速剣Lv3、忍び足Lv5、暗殺術、バックスタブ、魔術(炎)Lv5、焦点具不要
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俺はすっと息を吸い込み、そして、言った。
「ファイアアロー!」