第11話 イオス、古巣を訪れる
コミックス1巻、発売中(電子:発売中、本屋さん:11月30日)!
前回までのあらすじ:杖を持たずに魔術が使えるスキル『焦点具不要』を覚えたイオスは、ダンジョン内にある、ニャンコロモチと出会った思い出の『隠し部屋』を訪ねることに。あと、グレイルがグレイル2.0になった。
スキル『焦点具不要』を覚えた日、俺たちは少し早くダンジョン探索を切り上げた。
そのまま冒険者ギルドに向かい、ミーシャとともに本職へと転職する。
戦士――いや、剣聖と魔術師に。
「ううううう! 重い!」
軽戦士の力を失ったミーシャにはチェインメイルの重量はきついのだろう。
俺は持ち歩いていた『凶妖精装備』をアイテムボックスから取り出してミーシャに引き渡した。
マグダリア商店で作成中の炎虎ローブとラルゴリンの盾はまだ受け取っていない。
ラルゴリンの盾はネームドモンスターの鉱石だけあって加工が大変らしく「いろいろな資材の発注と、知り合い連中の手も借りないとダメだ」とのことで時間がかかると伝えられている。炎虎ローブはそれほどかからないらしいが、しばらくは低層でレベリングの予定だったのでラルゴリンの盾と一緒の受け取りでいいと伝えている。
……でも本職でレベリングするなら炎虎ローブは欲しいな……あとで状況を確認するか。
俺も魔術師用のローブを脱いで普通のチェインメイルに着替える。
青火鳥でもよかったのだけど、これから行く場所を考えると、ちょっと気合が入りすぎているというか、見せびらかしている感じがして……。
冒険者ギルドを出て、俺は口を開く。
「さて、それじゃ次は――」
「『焦点具不要』ゲット記念! 呑みにいこう!」
「悪くはないけど、その前に行かなきゃいけないところがあるんだよ」
俺は遠くに見える建物を指さした。
「アンバーマー冒険者学校に」
「面白そうだね!」
ノリノリで言いながら、ミーシャが首を傾げる。
「……でも、どうして今からなの?」
「俺たちが行く場所は『立ち入り禁止』の場所なんだよ。立ち入りの許可をもらわないと……」
「え? 学校に?」
びっくりしたような声をミーシャが出す。
「学校がダンジョン内の管理をしているの? 普通は冒険者ギルドでしょ?」
「……そこだけは例外で――発見者が『学生』ってのと『学術的な価値』があるかららしいんだよね」
確か、発見直後はいろいろな学者たちがやってきて調査していたはずだ。
学者さんたちとのやりとりは学校のほうが得意だろうと、そこの管理は学校側の担当となった。
ミーシャが楽しげな口調で話を続ける。
「ふぅん、学生が発見したんだ?」
「……俺なんだけどね」
「え!? すごい!?」
「……たまたまだよ。運がよかっただけさ」
なんて控え目に応じてはいるが、当時の俺は興奮しまくりだった。隠し部屋を見つけて興奮しない冒険者などいない。
「でもさ、イオス。立ち入り禁止区域に普通の冒険者である、わたしたちが行けるの?」
「うーん……そこが難しいところなんだよね」
俺は鼻の頭をかきながら苦笑する。
「ま、俺のコネに期待しててくれ」
「コネ! にしし! 3000万の借金ができるくらいのコネかな!?」
「いやー、お金は貸してくれないだろうなあ……」
俺、ミーシャと違って平凡な学生だったし。
でもまあ、発見者の俺が立入禁止区域に入るくらいなら通せるんじゃないかな……。
そんなわけで、俺たちはアンバーマーの冒険者学校にやってきた。
「おおおおおお! ここがイオスの原点かああああああ!」
「そんな大層なものじゃないよ。……このやりとり、街に来たときもやったな」
「にしし! バレた?」
時刻的には、ちょうど放課後のはず。建物の周辺には『今日一日も終わったなあ』感の出している学生たちがちらほらと見える。
俺たちは校舎へと入っていき、事務の窓口を訪れた。
俺は冒険者カードを見せて、
「ここの卒業生のイオスと申します。教師のクルーガーさんと面会したいんですが」
と依頼する。
事務員は戻ってくると、俺にこう言った。
「クルーガーが来るまで部屋でお待ちください。案内いたします」
……よかった。今日いきなりで会えるとは思っていなかったので、面会の約束だけでも充分だと思っていたんだけど……。
俺とミーシャは事務室近くの部屋で並んで座る。
「クルーガーさんって?」
「俺の担任だった人だよ」
「おお! イオスの恩師ってわけだね!」
「恩師……、まあ、そうだな」
なかなか照れくさい言葉だ。もちろん、いい先生だったとは思うのだが、クルーガーにはそれとは別の特別な感覚がある。
前に俺が見た夢に出てきた、俺を守って死んだ老教師ヘイル。クルーガーはその息子なのだ。
クルーガーはそのことで俺を責めることはなかった。
――仕方がない。ダンジョンで起こったことは仕方がないんだよ、イオス。お前たちが責任を覚えることはない。俺はお前たちを守って死んだ父を誇りに思うよ。
そんなことを言って。
……俺はその言葉にふさわしい冒険者になれているだろうか。
ドアが開いた。
「おっ、イオスじゃないか」
30前後くらいの若い男が入ってくる。クルーガーだ。
「立派になって――と言いたいところだが、まだ2年だ。変わらんな」
「先生こそ。お元気そうでよかったです」
「そちらの女性は?」
「魔術師で、仲間のミーシャです」
俺の紹介を受けてミーシャがにこにこ笑顔で頭を下げた。
クルーガーが俺たちの対面に座る。ミーシャの装備をさっと上から眺めて、
「なかなか順調そうじゃないか」
と嬉しそうに言った。
ミーシャの装備がD級だと気づいたのだろう。俺たちの世代でD級装備は充分に優秀だ。
クルーガーが思い出したように付け加える。
「ところで、グレイルはどうしたんだ?」
気にするのは当然か。在学中、俺とグレイルはずっと一緒にいたし――卒業時にパーティーを組んだことも知っているのだから。
「……いろいろあって、今は別でやっています」
「そうか」
うんうんとクルーガーはうなずいただけで深くは聞かなかった。冒険者学校の教師として多くの生徒たちを送り出したクルーガーだ。『いろいろ』を詮索するようなマネはしない。
「それで、イオスは俺の顔が見たくてここに来たのかな?」
「それもありますけど……」
俺は薄く笑ってからこう続けた。
「実は2層にある立入禁止区域に入りたいと思ってるんです。許可をいただけないでしょうか?」
「あそこか……まあ、発見者であるお前には『いつでも入っていい権利』をあげたい気分ではあるんだが、あそこは重要区域に指定されているからなあ……普通の冒険者であるお前に特例を許すと他の連中に示しがつかない部分もある」
「……うーん、やっぱり無理ですか……」
クルーガーの言葉はつれない流れだった。ある程度は予期していたが、厳しかったか……。俺のコネではこの辺が限界らしい。
と俺は思っていたが、クルーガーは違う方向に話を進めた。
「ま……でも、俺がついていくなら構わないだろう」
「え、ホントですか!?」
「ちょうど明日は結界のチェック日で俺が担当なんだよ。運がいいな、イオス。本当なら、申請と承認だけで半月はかかる代物だぞ?」
「助かります!」
「ただし、条件がある」
クルーガーのいきなりの言葉に俺は冷や水を浴びせられたような気分になった。
「条件、ですか?」
「ああ」
じっと俺を見てから、クルーガーはにやりと笑った。
「俺と手合わせしてくれないか、イオス? 成長した生徒の腕を見る楽しみに付き合ってくれよ?」
自身も戦士であるクルーガーらしい要請だった。
「大丈夫です。お願いします」
俺としても望むところだ。
……とはいえ、悩むこともある。今の俺はクルーガーより強いだろう。教師として忙しいクルーガーの能力は2年前から変わっていないはず。
一般的な成長曲線的に、俺がクルーガーを抜いているのはおかしい。
それにクルーガーも、エリートだったビッグ4ならともかく普通の生徒である俺に倒されては気分もよくないだろう。
ここは手を抜いて花を持たせるのも――
クルーガーが口を開いた。
「俺の死んだ親父の趣味はな、卒業後に訪ねてきた生徒の剣を受けることだった。その日のことをいつも楽しそうな様子で話していたよ。……イオス、お前は俺の生徒であり、親父の生徒でもある。天国の親父にお前の強さを見せてやってくれ」
「……わかりました」
くだらないことに悩んでしまった。
俺は俺自身を恥じる。
心は決まった。手を抜くなんてとんでもない。
クルーガーが己を死んだ父の代理だと言うのなら、あなたが命を賭けて守った生徒はここまで強くなったのですよ――それを伝えることこそが、俺の責務だろう。
【告知】シュレ猫のコミックス1巻が発売されます。
11月28日より、Amazon他、電子書籍にて発売(もう買えます)
11月30日より、全国書店にて発売
原作者は発刊前に本がもらえるんですけど、営業トーク抜きで面白いです。『漫画』としての演出が楽しくて何度も読み返しています。
絵が素敵ですね。整っていて見やすいと思います。背景もきっちり描かれているので、世界観が伝わってきます。
作画がしっかりしてくれているのは、原作者としてありがたい限りです。
でも、絵だけじゃないんですよ。本作がいいなーと思うのは『漫画として面白いこと』です。
すごく迫力ありますよね。ただ、このシーン、原作にはないんですよ。原作のエピソードを少し改変して、見せ場をうまく追加してくれています。
こんな感じで『漫画としての面白さ』『漫画としての演出』が前面に出るように構成されているので、読んでいて楽しかったです。
漫画ならではの、小説にはない面白さがあるのもオススメの理由ですね。
あとは絵の力でしょうか。
こんな素敵なミーシャさんの表情は、わたしの筆力では表現できません。ありがとうございます!
コミックス1巻のエピソードとしては『グレイルが中古の盾を手に入れるまで』となります。
5話構成で、どれも面白いと思いますが、個人的に好きなのは、ジャイアント・リザードマン討伐後の5話目です。絵がつくとこんなにコミカルなんだ! とずっと笑っていました。
原作既読でも楽しめるのは保証します。なぜなら、世界で一番シュレ猫の原作に詳しい作者でも面白かったから!
ぜひお買い上げください! お願いいたします!(土下座)
※※※今回は2日に1度の更新なので、次は30日に更新します。