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第8話 低レベル魔術師イオス、最強魔術に挑戦する

 俺はシュレディンガーの猫レベル3が表示するスキルを順に読んでいった。


「えーと……魔術高揚レベル2、魔術(炎)レベル1、魔術(炎)レベル5、だな」


「え」


 俺の言葉を聞いた瞬間、ミーシャの表情がぴしりと固まる。

 そして、おもむろに右手を差し出した。


「イオス、杖を貸して?」


「え? どうして?」


「いいから」


 問答無用な鬼気迫る感じだった。その迫力に気圧されて俺は杖を渡す。

 ミーシャはぷるぷると震える手で杖を振り上げると――


「ええええい! すべての魔術師の怒りを喰らえええええ!」


 ぽかり!

 いきなり杖で俺の頭を叩いた。……まあ、むっちゃ軽く俺の頭に杖を乗せたくらいかの感じでだけど。

 なので痛くはなかったが、意味不明な行動が理解できず俺は混乱した。


「なななな、何!? どうしたの!?」


 すべての魔術師の怒りって!?


「魔術(炎)のレベル5は最大レベル! レベル2で魔術を極めてるんじゃなあああああああい! どれだけ魔術レベル5が遠いと思ってるの!? わたしなんてねー、わたしなんて、まだ魔術レベル1なんだよ! えーん! イオスがいじめるぅー! マウントとってくるぅー!」


 そう言いつつ、ミーシャが露骨な泣きマネをした。

 ……ああ、なるほど。ようやく意味がわかった。


 確かに俺も逆の立場で「あれ、剣聖ひいちゃった、てへ!(ペロ)」なんてやられたら、微妙にイラッとするものを感じるかもしれない。


 ちなみに、魔術(炎)レベル5は普通にとるとレベル1から順に取っていかなければならない。その場合の合計ポイントは180ポイント。

 となると最速レベル18で満了できそうだが、そうでもない。


 理由はレベル制限があるからだ。

 なので、最大のレベル5を取るのはかなりのレベルが必要になる。


 ちなみに、俺のシュレディンガーの猫でレベル制限を無視できるのには理由がある。スキルそのものにレベル制限がかかっているのではなく、スキルとスキルの間に門のようにレベル制限が挟まっているからだ。

 具体的には『スキルXXレベル1―(レベル10以上)―スキルXXレベル2』みたいな感じだ。


 俺はツリーを無視できるので取得レベル制限の影響を受けないのだ。


 ……まあ、そんな状況で俺が能天気に魔術レベル5を引いたら、本職のミーシャにしては心中穏やかではないのだろう。

 ミーシャがにこやかな――今まで見せたことがないような慈愛の表情で口を開く。


「というわけで、イオスくん。魔術(炎)レベル1を取るんだ。魔術の道は一歩から。コツコツとさ、一緒に高めあっていこうよ。ね?」


「レベル5選択!」


 ぽちっ。

 俺は魔術(炎)レベル5を習得した。


「ああああああああああああああああああああああああああ!」


 発狂したミーシャが杖をぶんぶん振ってきた。

 危ない! 危な――ぶほっ!?


「にゃああああああああああああああ!」


 なぜか興奮したニャンコロモチが俺の脇腹に頭突きをかましてきた。手加減しているミーシャとは違い、ガチなので本気で痛い。


「おおおお! ニャンコロちゃん!? わたしの無念を代弁してくれるのかい!?」


「にゃああああああああああああああ!」


 いや、お前、絶対にノリだけで動いているよな!?

 そんなわけで俺は部屋を逃げ回り、やがて息切れして部屋の片隅に座り込んだ。ふらふらになったミーシャも俺の近くでへたり込む。


「……にししし! ま、冗談だけど! おめでとう、イオス!」


「ありがとう。これで物理的ファイアアローから卒業できるよ」


「せっかくだし、炎系のレベル5魔術――プロミネンス・フラッシュを使ってよ!」


「ええ!? いきなり!?」


「見たいじゃん!」


「……まあ、俺も見てみたいんだけどな」


 そんなわけで、俺たちは標的となる新しいモンスターを探すことにした。

 ほどなくして一匹のゴブリンを見つける。


「……じゃあ、やってみるか」


 俺はミーシャから返してもらった杖をゴブリンに向けた。

 最初に使う魔術は――


「ファイアアロー!」


 俺の杖から飛び出した炎の矢が一直線にゴブリンへと飛んでいく。炎の矢は狙い違わずゴブリンに命中した。


「グギィ!?」


 怒りの声をあげたゴブリンがこちらに気づく。

 生まれて初めての魔術でちょっとばかり俺は感慨にふけりたかったが、そんな暇はない。ゴブリンが短剣を持って俺へと突進してきた。

 慌てない。ゴブリンから視線を切らず、慎重に杖の先端で狙いを定める。


 これから使うのは炎系の最高ランク魔術。


 いやがおうにも緊張してしまう。落ち着けと己に言い聞かせる。レベル5のスキルを取ったのだ。取った以上、俺にはそれを使う資格がある。

 恐れるな。

 すっと息を吸って――


「プロミネンス・フラッシュ!」


 その言葉を吐き出すと同時だった。

 俺の視界がぐらりと揺れた。

 え、これは――!?

 急激な状況の変化に俺は驚いた。視界だけではない。俺の身体もだ。全身から力が抜けていく。あっという間だった。次の瞬間には立っていられなくなって、身体がぐらりと揺れた。見えていた風景が闇に飲まれていく。


「イ、イオスウウウウウウ!?」


 慌てたミーシャの声がやけに遠くから聞こえた。

 何が、起こったん、だ――?

 そんなことを最後に考えて、俺の意識は消失した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「うーん……」


 俺は目を覚ました。開けた目に広がるのはダンジョンの天井と、心配そうな様子で俺を見つめているミーシャの顔だ。


「……おはよう、ミーシャ」


「イオス、目を覚ましたんだね!?」


 ミーシャの表情が一転、嬉しそうにほころぶ。


「気分はどう? 大丈夫?」


「……ああ、まだぼーっとするけど……アイタタタ!」


 考えようとした瞬間、急に頭痛がした。


「あ、安静にしていて、安静に! それ魔力切れだから!」


「魔力、切れ……?」


「うん。魔術の使いすぎで魔力がなくなっちゃうとそうなるの。ごめんねえ……わたしが注意しとかなきゃいけなかったのに……うっかりしてた……」


「魔力切れって……でも、俺は2発しか魔術を使って――ああ」


 そこまで言って、俺は納得してしまった。

 2発は2発でも、うち1発は炎系でも最高ランクの魔術だ。どれほどの魔力が必要なのだろう。たかだかレベル2の俺に扱えるはずがない。


「確かに、今の俺じゃ力不足だったか……」


 スキルを覚えれば資格がある――うぬぼれだったな。まだまだ修練が足りない。


「プロミネンス・フラッシュ自体は発動したの?」


「ううん。魔力が足りないから、プシューんって。なんか小さい花火みたいなのが出ただけ」


「はははは……」


 小さな花火か。それが今の俺の、実力相応ということだ。


「本職のわたしが見逃すなんて! ちょっと考えればすぐわかることなのに……本当にごめん!」


「いや……気にしなくていいよ、ミーシャ。たかだか気絶しただけだしね……」


 責める気持ちはない。知らないことに挑戦するのだ――ミーシャだって本職とはいえ、最高位の魔術は自分でも扱えないし、そもそもそれをたったレベル2の魔術師が使うなんて前代未聞だ。うっかりしても仕方がない。

 失敗を重ねて、ひとつひとつ学んでいくだけだ。学んでいけばいい。


「少し休めば落ち着くから。また頑張ろう」


「うん……」


 ミーシャが柄にもなくしゅんとしている。俺としては本当に気にしないでもらいたいのだが。……まあ、俺が逆の立場でも落ち込むかな……。

 なので、気にするな、とは言えないから、せめて気を紛らわせてもらいたいのだが――

 そのときだった。


「にゃあん」


 温かいものが俺の頬にすりついてきた。悩むまでもないニャンコロモチだ。


「なんだお前、心配してくれていたのか?」


 俺はニャンコロモチの頭を撫でる。

 そして、無意識のままにこう言った。


「そういえば、お前と出会ったのもこのダンジョンでだったな」


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shoei2

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shoei
― 新着の感想 ―
[良い点] ミーシャの動揺が良いですね。 そりゃま、イオスがいきなりレベル5の魔術を習得したら冷静ではいられませんな(笑)。 [気になる点] シュレディンガーはレベル制限を無視できるみたいですが、それ…
[良い点] ニャンコロモチとミーシャが可愛すぎる....!!! 本当にイオスは反則ですね! [一言] ニャンコロモチとイオスがどうやって出会ったのか、気になります!!
[一言] ニャンコロモチはイオスのもう1つの可能性 かつて選ばれなかった選択の行き着く先のイオスの姿 違うか
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