第3話 装備の新調!(グレイル2.0編)
「――俺が絶好調だった場所、ようやく戻ってきた」
グレイルの口元が自然とゆるむ。
その声色には大きな感慨がこもっていた。
この街にはいい思い出しかない。なぜなら、優良スキル『剣術』を持つグレイルは冒険者学校で『イケている生徒』だったから。あの頃のグレイルは輝いていて、スクールカーストのトップ層に入っていた。
この街にいるだけで、周りから羨望の目を向けられていた時期を思い出して気分がよくなってしまう。
「最高だったなあ、あのときは」
ここにグレイルが戻ってきた理由、それは――
己の自信を取り戻すためだ。
イオスと別れてから、どうにも運の巡りが悪い。やることなすこと裏目に出ている自覚がある。
だから、グレイルは戻ってきた。栄光に包まれたこの場所に。
選ばれしものグレイルにふさわしい場所に。
ここなら、グレイルにまとわりついた不運も振り払えるだろう。ここから始めるのだ。英雄になるべき男グレイルの新しいスタートを!
「楽しみだ」
その後、グレイルは下町の宿へと向かった。
街の中央から離れた、少し薄汚れた感じの古い宿へ。
カウンターで受付をすませて部屋へと入る。
部屋の半分以上をベッドが占めている狭い空間だ。だが、グレイルはなんとも思わない。フラストでもピプタットでもそれ以前も、同じような部屋だった。
それが駆け出し冒険者にとっての当たり前なのだから、気にするのがおかしい。
部屋を確保すると、グレイルはすぐさま宿を出た。
そのまま、アンバーマーでもっとも大きい武具屋『マグダリア商店』へと向かう。
武器を一本、作ってもらうためだ。
新しい武器を新調する――戦士である以上、グレイルも内心の興奮を抑えられない。
武器を作るならアンバーマーでと決めていた。
この最高だった場所で新しい力を手に入れて戦士グレイルは大きく羽ばたくのだ!
(イィィィィオオオオス! アンバーマーは最高だぞ! ここで俺は生まれ変わる! ちょっとばかし星の巡りが悪かったが――まあ、クソスキル持ちのお前ほどじゃない。お前はどこで何をしている!? いい加減、底辺から脱出できたか!?)
上機嫌なまま、グレイルはマグダリア商店のドアを開けた。
カウンターへと近づいていく。
「おい、こいつで武器を作って欲しいんだが」
そう言って、グレイルは荷物入れから取り出したものをカウンターに置いた。
モンスター――ブレード・マンティスの鉱石を。
フラストの周辺でレベル上げをしていたとき、偶然にも遭遇したDランクモンスターだ。それを討ち取って手に入れたのがこの鉱石だ。
オソンたちはグレイルにこの鉱石を託してくれたのだ。
店員はちらりと鉱石を見てから口を開いた。
「これは、なんの鉱石ですか?」
「ブレード・マンティスだ」
「なるほど、一応、鑑定いたしますね」
店員はたいして驚いた様子もなく、淡々とした様子でカウンターの機材を使って鉱石を調べる。
「確かにブレード・マンティスの鉱石ですね。それで、こちらをどう加工しますか?」
「バスタードソードを作ってくれ」
ブロードソードではなく、バスタードソード。
それがグレイルの出した次世代型グレイル――『グレイル2.0』の有り様だ。
バスタードソードは重量の関係で片手で持つと取り扱いが難しく命中率が悪くなる欠点がある。だが、その代わり、両手で持てる。
両手で持てば攻撃力が上がる――
(ブレード・マンティス戦、戦士たちで刃を通せたのは俺だけだった)
グレイルの剣術スキルがもたらす攻撃力+60のボーナス。それがオソンたちの命を救った。
やはり『攻撃力』は偉大だ。
攻撃力が相手の防御力を超えない限りダメージを与えられない以上、攻撃力の値は少しでも高くするべきだ。
生まれ持った才能によって優れた攻撃力を持つ以上、それを伸ばすのは責務であろう。
(……グレイル・オブリージュってやつだな……)
仕方がない。グレイルは選ばれしものなのだから。弱者にはできないことをしなければ。
グレイルはやれやれと己の運命を受け入れた。
「承知いたしました。武器の性能ですが、こんな感じになります。大丈夫ですか?」
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刃螳螂のバスタードソード
攻撃力:+220
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「大丈夫だ」
すでに下調べしていたから知っている値だが――何度見ても、にやけてしまう。
グレイルが持つ高性能なブロードソードの攻撃力が+150。+70もアップしてしまう。おまけに両手持ちすればさらにアップ。
(……やばい、俺強くなりすぎだな……)
そんなグレイルに店員が無惨な現実を告げる。
「加工費ですが、200万となりますが、大丈夫でしょうか?」
「もちろんだ」
グレイルはあっさりうなずいた。
思い出すのも忌々しい、あの白ソフトレザーのドS女だが、ひとつだけいいことをしてくれた。
かなりの前払金をグレイルたちに支払ってくれたのだ。
オソンたちは別れる前に、それを六等分ではなく、グレイルに半分渡してくれた。
「俺たちは5人で1組みたいなもんだし――引退して田舎に帰るからな。グレイル、お前は何かと入り用だろう。大切に使ってくれ」
おそらく、オソンたちは最初から前払金でグレイルの剣を作るのに使おうと考えていたのだろう。オソンたちの引退によって最後まで成し遂げられなかったが。
何に使って欲しいとまでは言われなかったが――
そんなこと言われなくてもわかっている。
「決済してくれ」
グレイルは取り出したカードを手渡した。
店員が決済用の機材にカードをかざして処理をおこなう。
「ありがとうございます。それではこれより加工に着手いたします。また一週間後に来店をお願いいたします」
用件は片付いた。
早く一週間後にならないかとグレイルは胸がときめいて仕方がない。グレイル2.0への道のりはそれだけではない。そこからが始まりなのだ。
店の外に出て、グレイルは晴れ渡った空を見上げる。そして、きっとどこかで同じ秋の空を見ているであろう哀れな幼馴染みの姿を思い出して心で叫んだ。
(イィィィィィオオオオス! 俺はついにモンスターの鉱石による武器をゲットしちまったぞ! Dランクの武器だ! Dランク冒険者になるのも近いかもな!? はっはっはっは! またしても差がついちまったな! いつになったら追いついてくれるのかな? ダメダメのイオスくぅん!?)
グレイルは周りの目も気にせず、上機嫌に笑いながら宿へと戻っていった。
ちなみに、ブレード・マンティスの鉱石のくだりは書籍2巻で加筆しております。