第2話 装備の新調!(イオス編)
「盾は悪くないですけど……盾の、固有スキルって?」
聞き返す俺に店長が教えてくれた。
「特にネームドに多いんだが、装備そのものにスキルがついてくるんだよ。ラルゴリンだと、えーと……確か、こんな感じだ」
店長がメモ用紙にスペックを書いてくれる。
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氷壁
効果時間 :氷が砕ける or 溶けるまで
リキャスト:1時間
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・盾に氷をまとう。一時的にボーナス防御力を+100する。
・氷は攻撃を受けると徐々に砕ける。ボーナス防御力は『敵の攻撃力/100』減じる。
・ボーナス防御力が0以下になった場合、氷は砕ける。
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俺は問うた。
「これは?」
「ラルゴリンの盾に与えられる固有スキルだ」
……武器や防具にスキルが付くのか……。知らなかった……。
「盾だと『氷壁』、鎧だと『凍気』だな。性能は『氷壁』のほうがいい」
「武器は?」
「ラルゴリンの場合、武器は固有スキルがつかない。鉱物には適正ってのがあってな。攻撃が優秀なもの、防御が優秀なもの――それに合わせて装備を作ってやるのが鉄則だ」
……なるほど。
「ラージシールドの性能はどんな感じなんですか?」
「こうだな」
店長が紙にスペックを書く。
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氷衛士のラージシールド
防御力:+205
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炎を帯びた攻撃の攻撃力を-5%する
特殊スキル:氷壁
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じっと性能を眺める俺に、ミーシャが話しかけてくる。
「ラージシールドなの? どうせだったらさ、ラルゴリンが持っていたデッカいシールドにしてもらえば? 防御力も高そうだし」
「タワーシールドは普通の戦士は装備できないんだよ。シールダーとか防御寄りの前衛だけだね」
「そうなんだ……残念! 大盾のイオスを見てみたかったなあ!」
「それはそれで面白いけどな」
戦士としての今後の育成方針として、防御系スキルも考えている。今は攻撃系ばかりとっているからな……。状況次第では剣聖からしばらく防御系の職業に転職するのもありだ。
……だけど、それはずいぶん未来の選択だ。タワーシールドにしてもらう必要はないだろう。
店長が口を開いた。
「で、考えはまとまったかい?」
「そうですね……俺は悪くないと思うけど、ミーシャはどう思う?」
「固有スキルの『氷壁』がすごいと思うから、盾でいいんじゃないかな」
「やっぱ、すごいの?」
「すごいよ! だって、盾って鎧に比べて防御力が低いじゃない?」
「そうだな」
俺の青火鳥チェインメイルで+330、大緑鱗スケイルシールドが+110。BランクとCランクの差を加味しても、鎧のほうが高いのは事実だ。
ミーシャが話を続ける。
「その盾の防御力がさ、+100も上がるなんてすごくない?」
「……なるほど……」
Bランクの盾からAランクの盾に乗り換えても防御力は100も上がらない。そんな破格の防御力が一時的にでも使えるのは強力だろう。
「盾で防御力が100も差があるのは、どのランクからどのランクだろう……」
俺の独り言に、黙して座っていた店長が答えてくれた。
「盾ならCランクの下からAランクの下くらいだな」
さすがは専門家だ。
Cから、C+、B、B+、A――つまり、盾の防御力+100は4ランクもの差があるのか!? それはとんでもないな。
店長が口を開く。
「お嬢ちゃん、ナイスな答えだ。長く使うことを考えれば盾が正解だと俺も思うぜ。……ラルゴリンの特性は防具――それも盾寄りなんだよ」
「にししし! ほら、イオスくん、決まりじゃない?」
「……そうだな。わかったよ」
これでラルゴリンの鉱石の使い道は決まった。
なので、俺はこっそりと決めていた別のことを口にした。
「その代わり、これはミーシャのために使うことにしよう」
そう言って、俺は荷物入れから赤い鉱石を取り出した。
フラストの街を出る直前にブレンネン・ティーゲルを狩って手に入れた鉱石だ。
「これでミーシャのローブを作る」
「にし!?」
「Bランク装備――もう俺は揃えてしまったからさ。これはミーシャしか使う人がいないんだ。これでミーシャの防御力を上げよう」
「うーん、売ってお金にしたほうがよくない? ラルゴリンの装備を作るのもお金がかかるしさ?」
「お金は気にしなくていいよ」
いつも自分のことを後回しにする彼女に、俺は続ける。
「自分で言ってたじゃないか、ミーシャ。いい装備を使わないと歩みが遅れてしまうって。そっくりそのまま返すよ。ミーシャの防御力が低いと俺が心配になって戦いに集中できないんだよ」
「……ふふ、そっかー」
少しだけ目を閉じてからミーシャが言う。
「心配なんだ?」
「心配だよ。ミーシャに何かあったら俺は嫌だからね」
俺とミーシャが見つめあう。数秒後、ミーシャがうふふふ、と笑った。
「確かに心配かけるのはよくないね。よーし! ミーシャさんもBランク装備に変えよう!」
そんなわけで、ラルゴリンの盾とブレンネン・ティーゲルのローブを作ることが決まった。
店長が口を開く。
「任せてくれ。腕によりをかけていいものを作ってやる」
そう言って、少し間をあけてから店長が続けた。
「……どうでもいいけどさ、お前たち、初対面の俺の前でイチャつくなよ。胸焼けするだろ」
イチャつく?
いきなりの言葉に俺とミーシャは顔を見合わせた。
そして、店長に向かって大声で抗議した。
「「いやいやいやいや! イチャついてないですから、ほんと!」」
俺たちのセリフは見事にかぶった。
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グレイルもまた、アンバーマーの街にやってきた。
「くっくっくっく……そうだよ、ここだよ。何もかもが懐かしいぜ」
グレイルは上機嫌な様子で街を眺めながら歩いていた。
グレイルもまた、このアンバーマーの冒険者学校の卒業生であった。だから、イオスと同じく、この街はグレイルにとって庭のようなものだ。
思い出の場所――
いや、そんな生やさしい言葉では表現できないほどの高揚をグレイルは感じていた。
「――俺が絶好調だった場所、ようやく戻ってきた」