第31話 さらば、フラスト
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数日後、グレイルは一人で宿を出た。
「頑張れよ!」
「いつか村に来てくれよ!」
そう言って見送ってくれる仲間たちと別れて。
グレイルは長距離馬車の乗り場へと向かった。もともとラルゴリンと光刃が目当てで街に足を止めたのだ。終わった以上、ここにいても意味はない。
もともとの目的どおり、卒業した冒険者学校がある街へと向かうことにした。
また1人――ピプタットを出たときと同じだ。
だが、明らかに違うステージに立っているとグレイルは確信している。
レベルは上がり、青火鳥チェインメイルの男から託されたラージシールドも手に入れた。さらにはラルゴリンと相対し臆することなく一撃を叩き込んだ。
すべての経験が糧となり、男グレイルの格を高めている。
誇らしい4ヶ月だったとグレイルは総括した。
あまりにも気分がよかったから、思わずグレイルはいつもの物思いにふけってしまった。
(イィィィィィオオオオオス! 俺はネームドと戦ってしまったよ! 宵闇の光刃が戦うこのステージで! どれほど経験を積めたと思う!? どれほど先に進んでしまったと思う!? ピプタットの洞穴でグレイゴーストを狩り続けるお前には想像もつくまい! 俺とお前の間に横たわる格の違い、いつか気づいて嘆くがいい!)
グレイルは上機嫌にこう続ける。
(立ち止まっておけ、イオス! ネームドとも光刃とも縁のない無風の人生を送っていろ! よかったなあ? 俺に追放されて? そのおかげで平凡な人生を送れるのだから。俺は違うぞ。波乱と苦難を乗り越えて、必ずやお前より早くたどり着いてみせよう――)
はっきりと、己の口から強い言葉を吐き出した。
「剣聖の高みにな!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ラルゴリン退治から数日後――
「かんぱーい!」
5人の声が唱和した。
俺とミーシャ、あとフィラルドたち光刃の3人で食事会をすることになった。
もちろんAランク冒険者の主催だけあってお高いレストランだ。
いや、レストランの格式よりも――
あの宵闇の光刃とこんな時間を過ごせるなんて!
俺は少しばかり感動してしまう……。
まさか1年ほど前に追放されてどん底だった俺が憧れの人たちとこんな幸せな時間を過ごせるなんて思いも寄らない。
追放してくれてありがとう!
本当の本当に、ありがとう!
俺は料理に舌鼓を打ちながらフィラルドに尋ねた。
「そう言えば、バタバタしていて訊けてなかったんですけど、鉱石魔術を阻止した後ってどうなったんですか?」
「双子の女が爆発に巻き込まれてダメージを負ってね……かなりお怒りのようだったが、さすがに継続不能という感じで逃げていったよ」
そこでフィラルドがミーシャを見る。
「その節は助かった。お前がいなきゃ防げなかったかもな」
「にし!? えー、まあ……たははは! お役に立てたのなら嬉しいですよ!」
「……ミーシャ、何かやったの?」
ミーシャからは「防げた防げた、やったね!」しか聞いていない。
答えたのはダリルだった。
「やったも何も――こう遠距離からさ……ずきゅーん! だよ」
ダリルはクロスボウを撃つような仕草をした。
「一発で燭台を破壊してさ……あのときの、あの女の顔って言ったら傑作だったな!」
「いやー……そんなに褒められると照れますにゃー」
ミーシャは恥ずかしそうに自分の髪を撫でていた。
「な、役に立っただろ?」
「もう何度目よ、それ? はいはい、すごいすごい」
どや顔で言うフィラルドにうんざり顔でアイリスがそう答える。
俺は内心で感涙していた。
あの憧れの光刃の掛け合いを間近で拝めるなんて。やばい、俺たちだけ見たい放題だ。
「あ、あの!」
俺は慌てて割り込んだ。
「確かに俺がラルゴリンを倒しましたけど、その、鉱石って俺がもらっちゃっていいんですかね? 作戦上、たまたま俺がやったってだけで、その、みんなで手に入れたものって感じもしていて……」
「はっはっはっは!」
フィラルドが大声で笑う。
「先輩を立てるってのは実にいい後輩だ! だが、後輩に気を使わせるのも先輩として甲斐性がない! お前のものだ、遠慮するな!」
「は、はい! ありがとうございます!」
「あのー……その鉱石で作ろうとしていたの、わたしの装備なんですけど……」
じと目でアイリスがフィラルドを見る。
「ちょっと一言くらいあってもいいんじゃないんですかねー、フィラルドさん?」
「い、いや、まあ、でもさ、後輩にたかるのはまずいじゃない!?」
「確かにそうねー。お姉さん、大人だから諦めるよ……」
その後、アイリスの目が俺を見る。
「イオスくん」
「は、はい!」
「売るつもりだったら、言ってね? 色つけて買うから」
「け、検討しておきます……」
むっちゃ諦めていなかった。
申し訳ないが、売ることはない。俺だってネームドの装備は欲しいのだから。貴重すぎて何に使うか迷ってしまう……。
そこでフィラルドが話題を変えた。
「イオスたちはこの後どうするんだ?」
「街を出るつもりです。……だよな、ミーシャ?」
「うん!」
「もともと俺が通っていた冒険者学校の街を目指していたんですよ。なので、そっちの旅に戻ります」
「そうか、お互い旅立ちだな」
「そうですね」
「楽しかったよ、イオス、ミーシャ。お前たちのような面白い若手と出会えてな。また会おう。そのときはお前たちの武勇伝を聞かせてくれ」
そう言って、フィラルドが手を差し出す。
「はい、ぜひ!」
俺はそう言って、フィラルドの手を握った。そのとき、フィラルドがぎゅっと力を込めてきた。それは意外に強くて、俺は顔をしかめそうになった。
まだまだ負けないからな、ひよっこ――
そう言われたような気がした。
俺の前には広大な道が広がっている。はるか先まで伸びていて、その先を歩む偉大なる英雄たちの背中は遠い。
その距離を思えばめまいすら覚える。
彼らの積み上げた力にも、それでも現状に満足せずに高みを目指そうとする志にも。
だけど、俺は別のことも知った。
それは確かにはるかに遠くても、遠すぎることはない。絶対に届かないものでもない。
本当の本当に奇跡で――
指の先だけでも届いたからこそ、俺は今こうしてフィラルドたちと一緒にいる。
まだまだ歩き続けよう。
まだまだ積み重ねよう。
いつかは奇跡でも偶然でもなくて、必然で彼らの横に並び立てるように。
「とびきりの武勇伝を用意しておきます!」
こうして――俺たちの夏の冒険は幕を閉じたのだった。
2章エンドです! 明日から3章に入ります。
面白いよ!
頑張れよ!
という方は書籍2巻の購入をお願いします。
書籍の発刊は喜ばしいのですが、同時に『継続か打ち切りか』を問われる瞬間でもありまして、胃が痛い期間でもあります……。
どうにかして生き残りたい!
応援よろしくお願いします!