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第30話 戦い終わって

書籍2巻、明日(09/30)より発売します! 加筆は2万7000字!


挿絵(By みてみん)

 俺のバックスタブが決まると同時、ラルゴリンの絶叫が雪深い山に響き渡った。

 ラルゴリンの身体に走ったひびは次々と領域を広げていく。その密度を増していく。

 それが全身に行き渡ると同時――


 ぎっぱあん!


 大きな音ともにラルゴリンの全身が砕け散った。ぱらぱらときれいな氷の破片が四方に飛ぶ。

 俺は大きく息を吐いた。


 ――終わった……。


 たいして動いたわけではない――いや、むしろ意図的に動かなかったくらいだ。ゆっくり歩いて、じっと静止する。それだけなのに。

 疲れがどっと身体中にのしかかった。

 戦士時代には感じたことのない疲労度だ。重圧と緊迫感が半端なかったからな……。俺、斥候の仕事は向いていないんだな……。

 ラルゴリンがいた場所には青色の鉱石がごろりと転がっていた。


『固定アイテムドロップのためシュレディンガーの猫は発動しませんでした』


 そんなメッセージを受け取ったので、どうやらラルゴリンを倒すと確実にドロップするアイテムらしい。

 ……まあ、1年に1度しか倒せないモンスターなので、これでたまにしか出ませんだと困るよな……。

 俺は鉱石を手に取った。


 これがネームドモンスター、ラルゴリンの鉱石。

 きっといい防具になるだろう。

 鉱石を手にして、ようやく俺の胸に勝利の実感がわいてきた。


 勝った。

 なんとか勝利に手が届いた。


 だが、俺ひとりでは勝てなかっただろう。

 絶叫をあげて突撃してくれた誰かのおかげだ。彼が動いてくれていなければ、俺に打つ手はなかった。

 お礼が言いたい気分だったが、肝心の彼の姿がなかった。

 周りを見てみたが、どこにもいなかった。

 ……少し気になったが、あまり無駄にしている時間もなかった。

 フィラルドから「ラルゴリンをバックスタブで倒せたらすぐに下山しろ」と言われている。邪魔された商会の連中が、せめて鉱石だけでもと奪いにくる可能性があるからだ。


 ――ラルゴリンさえ倒せば利用された冒険者たちを放置しても危険はない。街に戻って救援を呼んでこい。


 今はフィラルドの指示を優先させるべきだろう。

 休みたい気分だが――そんな暇はない。まだまだやるべきことはたくさんある。

 俺は鉱石をシュレディンガーの猫でアイテムボックスに納めた。山を下りようと歩き出してふと気がつく。

 いつの間にか、雪がやんでいた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 グレイルが目を覚ましたのはフラストの街の宿屋だった。


「……助かったのか、俺は?」


 鎧を脱がされて部屋着を着ている。誰かがここに運び込んでくれたのだろう。

 思い出す。

 怒りにまかせてラルゴリンに斬りかかり、そう、盾でぶん殴られて吹っ飛んだのだ。

 なんだかカッコのつかない結末でろくでもない経験だったが――

 ひとつ、グレイルの胸がときめく事実があった。

 ラルゴリンにぶっ飛ばされたときのことだ。

 そのとき、グレイルは壁から姿を見せる戦士の姿を見た。

 ちらっと見ただけなので顔はよくわからなかったが、その装備は今も脳裏に焼き付いている。

 青火鳥チェインメイルに魔狼ブロードソード――間違いなくピプタットで一緒だったあの男だ。

 状況からして、あの男がグレイルを助けてくれたのだろう。

 グレイルは胸にときめきを感じた。

 部屋の隅に置いてあるラージシールドに目を向ける。猫の絵が描かれていて、にゃー! と吹き出しのある盾を。


(……愛用の盾まで譲り受けた上に、俺を助けてくれるなんて!)


 お互いに強い縁があるのだろう。

 グレイルは、ふふっと上機嫌に笑った。


(イィィィィィオオオオオス! これが俺の持って生まれた縁の太さよ! 俺とお前の縁なんてぷち! ぷち! って簡単に切れちまったけどよおおおお……俺が残したいと思った縁は残ってるんだよおおおお……悪いなあ……お前との縁は残してやれなくてよおおお!)


 そんなことをグレイルが考えていると――

 ドアが開いてオソンが入ってきた。


「お、グレイル。目を覚ましたんだな。体調は大丈夫か?」


「ああ……すこぶる快調だ!」


「それはよかった」


 オソンはグレイルが横たわるベッドの横にあるイスに座る。

 何か話すのかと思ったが――話しそうな気配をまといつつも、オソンは口を開かない。


「オソン、何か用か?」


「……ああ……病み上がりのお前に言うのは気が引けるんだが――」


 少し悩んでから、オソンがゆっくりと話し始めた。


「実はな、パーティーを解散しようと思っているんだ」


 パーティーを解散しようと思っているんだ――

 起き抜けにそんな話を聞いて、さすがのグレイルも動揺した。


「どういうことだ、オソン! 今回はしくじったけどよ、俺たちゃわりとうまくやってるだろ!?」


「ああ、そうなんだが……その今回がな……」


 オソンは大きなため息を漏らした。


「正直、肝が冷えた。生きているのが不思議だよ。絶対に死んだと思った。グレイルが寝ている間にみんなで話していたんだが、萎えているメンバーも多い」


「……あんなの、運が悪かっただけだろ?」


「今まで『できていると思っていた覚悟』ができていなかった――それに気づけたことが問題なんだ。正直、死ぬのが怖い」


 そして、オソンはこう続けた。


「せっかく拾った命だ。大切にしたい」


 はっきりとそう言い切った。

 グレイルはオソンの目に揺るぎない決意を見た。もう彼らの中で心は決まっているのだろう。


「……オソン、それで何人が続けるんだ?」


「ゼロだ。俺たちは故郷に戻る。みんな同郷なんだよ。田舎に戻って畑でも耕すさ」


「……そうか……」


「で、グレイル。お前も一緒にこないか? お前のように性格のいいやつなら大歓迎だ」


「……俺が?」


 面白い案だと思った。オソンたちはうまくやれた。きっと村でもうまくやれるだろう。ここいらでグレイルの英雄譚も終わり、ドロップアウトして平穏な人生を――

「悪いが、俺は先に進むぜ! たとえ一人でもな!」


 ためらいなくグレイルは言った。


「俺には夢がある! 俺には進むべき道がある! まだまだ俺に止まるつもりはない!」


 グレイルの言葉を聞き、オソンは深くうなずいた。


「さすがだ、グレイル。……ま、君ならそう言うと思っていたけどな。むしろ、俺は見たい。ここで止まらずに先に進む君を」


「見せてやろうじゃねえか。見ておけ。俺が大英雄グレイルになったときは、俺のことを知り合いだと自慢していいぞ」


「ははは、楽しみにしているよ」


 そう言うと、オソンは手を差し出した。


「ありがとう、グレイル。短い間だったが、君のような男と一緒になれてよかった」


「達者でな、オソン」


 グレイルはオソンの手を握り返した。


加筆2万7000字。どれくらいかというと、2巻は10万字なので、27%が増分となります。


具体的に何を加筆したかというと、例えば『ここ』ですね。グレイル視点がかなり増えていて、ラルゴリン戦で何を考えて動いていたかが描写されています。


他は――


・イオスvsフィラルド戦でイオスが剣聖モード発動

・ニャンコロモチのステータス調査

・初陣! 戦士ミーシャ!(イラスト付き)


とかです。他にもいろいろと追加していますので、お楽しみいただければと。


そうそう、今回のグレイルはイラストにバリエーションがありまして、


・カラー口絵:きれいなグレイル

・モノクロ1:落書きされた盾を愛でるグレイル

・モノクロ2:ラルゴリンに挑むグレイル


上2つは絵だけで笑えるんですが、最後のvsラルゴリンはですね、え、グレイル!? というくらいカッコいいので、ご期待ください!


あとタイトルがですね、少し変わっています。


『俺だけ選び放題、S級レアアイテムも壊れスキルも覚醒した【シュレディンガーの猫】で思うがまま! ~観測されない成り上がりと多重する勘違い~』


サブタイトルが20文字ほど減って短くなりました。文字数を減らすためだけの変更なので、特に深い意味はありません。


頑張って加筆した【完全版】、ご購入をお願いします!

本当の本当に、お願いします!(土下座)


ちなみに、大型書店にならあるかも? くらいの存在感なので、見当たらないなら通販を使っていただけるといいかもしれません。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ざまぁされる対象が主人公並みに登場して いつまで経ってもざまぁされずに毎回毎回 イィィィィィオオオオオス!て言うのも 主人公とのすれ違いにも飽きた。 最初は面白かったけど、いつになって…
[良い点] >イィィィィィオオオオオス! 連発すると冷めるけど、やはりこれがあると思わずにやける。 タイトルを忘れることはあっても、イィィィィィオオオオオス!なアレで思い出せる。
[良い点] 無事にラルゴリンを倒せたのですね!! 絶叫を上げて突撃してくれた誰か(グレイル) 助けてくれた縁のある人(イオス) お互いなんだかんだで縁は切れないようですね.... [一言] 遂に2巻…
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