物理の数値は裏切らない
俺たちはピプタットでも有数のミルマス武具商店にやってきた。
大きな店の中には剣を初めとした武器とぴかぴかの鎧がずらりと並んでいた。
さすがに大都市の大商店、品揃えがすごい。
ちなみに、俺のステータスはこんな感じだ。
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名前 :イオス
レベル:15(戦士)
攻撃力:250(+100)ブロードソード
防御力:205(+100)バックラー/チェインメイル
魔力 :175
スキル:シュレディンガーの猫
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ブロードソードが10万ゴールド、バックラーは木の盾を金属で補強したものなので3万ゴールド、チェインメイルは25万ゴールドだったか。
装備だけで総額で約30万ゴールド。
冒険者は初期費用が意外とかかる。学生時代に働いて貯めた金とギルドからの借金で買った。もちろん、借金は返済済みだ。
俺は棚に置いてあったブロードソードを手に取った。
・高品質なブロードソード/攻+150/18万ゴールド
俺の剣よりも性能がいい。値段的にも悪くはない。
……欲しいな……。
にこにことした笑みをたたえた男性店員が近付いてくる。
「そちらの剣は名高い工房で造られたものでして、すばらしい逸品です。お目が高いですね! お値段もこなれておりますしお買い得だと思いますよ!」
おお、お目が高い……。
気分が良くなった俺は購入にぐらりと気持ちが傾いた。
「ミーシャ、これどうかな?」
「いらない」
横にいたミーシャが一言で切り捨てた。
「ええ!? でもさ、俺たちの予算的には――」
「ま、常識的な予算は考えずにさ?」
にやりと笑うとミーシャは店員に向かって言った。
「この店にある一番いい武器と防具を教えてくれないですか?」
びくりと店員さんが驚きで身体を震わせる。
少し対応に困っているようだった。
……それはそうだろう。
俺もミーシャもダンジョン帰りで冒険者の装備そのままだ。どう見ても低レベル&低コスト装備。
その俺たちが、こんな大きい店にある最高の装備を見せてくれ、と言ったら、冷やかし以外に考えられない。
怒られたりするのか?
「……承知いたしました、お客さま」
どうやら店員は『お客さま』として尊重することを選んでくれたらしい。にこりとほほ笑むと俺たちを案内してくれた。
ランクB装備
・魔狼ブロードソード/攻+510/1100万ゴールド
・風魔ラージシールド/防+150/800万ゴールド
・青火鳥チェインメイル/防+330/1600万ゴールド
「こちらがそれぞれ、当店でもっとも高いアイテムとなります」
……さすがに目玉が飛び出そうな価格だ。
合計金額3500万……。
この辺になると、いわゆる普通の装備ではなくて、モンスターの名前を冠した装備になっている。
低ランク冒険者の俺はまだ見たことはないが、中級以上のモンスターのドロップアイテムに『鉱石』があるらしい。魔狼ならば『魔狼の鉱石』のような。それを武具の鋳造時に組み込んで、強力な装備を産み出すのだ。
「いかがでしょう、ご予算的には?」
「たはー、きついっすねー」
はははとミーシャが笑う。
「3500万って、ピプタットで家が買えちゃいますよね?」
家が買えるレベルか……。
シュレディンガーの猫で頑張って錬金の石を回しても、相場の下落を考慮すると1年で2000万が限界。約2年かかる計算だ。さすがに遠すぎる。
「1ランク下げるとどれくらいになります?」
嫌な顔ひとつせずに店員が新しい装備を見繕ってくれた。
ランクC装備
・跳兎ブロードソード/攻+450/900万ゴールド
・氷牙ラージシールド/防+120/600万ゴールド
・石王プレートメイル/防+290/1200万ゴールド
それでも合計2700万か……。
「やっぱりお高いですね……」
俺はそう言った。
「どうしても高品質なものとなると、モンスターの鉱石を使ったものとなります。あまり数が出回りませんのでお高くなりますね」
店員がきっぱりと言う。
俺はミーシャに話しかけた。
「やっぱりさ、普通の価格帯のものでコツコツいこうか?」
「うーん……それじゃ、あんまり意味ないよね……」
言っている意味がわからなくはないが。来店時のコンセプトが『金で殴る』だからな。
ミーシャはぺこりと店員に頭を下げた。
「相場がわかりました。ありがとうございます」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから10日間、俺たちはグレイゴーストを倒して10個の錬金の石を手に入れた。
冒険者ギルドには持ち込んでいない。
「少し売るのは控えよう」
ミーシャがそう言ったからだ。
武器を見にいく前に目立つのを避けようと言っていたのを俺は思い出した。
「怪しまれるのを避けるためだよな」
「……うーん……それだけでもないけどね……」
ミーシャの返事は歯切れが悪かった。何かを考えているかのようだった。
10個の錬金の石が貯まった時点で、ミーシャは俺に言った。
「この石、借りていってもいいかな?」
「構わないけど?」
「悪いんだけど、しばらくイオスだけで石集めしてくれない? わたしは用事があるからさ」
へらへらとミーシャが笑う。
「大丈夫大丈夫! 持ち逃げとかしないからさ。心配しなさんな!」
もちろん、俺はそんなこと毛ほども疑っていない。
俺は石をミーシャに預けた。
それから俺は黙々とひとりで錬金の石を集めた。黙々――などとストイックな表現を使っているが、実のところ、ただグレイゴーストを倒すだけなので一日のほとんどが暇だった。
そうやって、追加でもう10個の石を集めたときだった。
「あああああ! もう疲れたあああああああああ!」
宿の俺の部屋をミーシャが訪ねてきた。
入ってくるなり、テーブルにばしん! と紙を叩きつける。
ミーシャは俺と別行動をとってからは宿にほとんど姿を見せない生活をしていた。
げっそりした顔を見ると、かなり忙しかったのだろう。
何をしていたんだ?
「ちょっとさ、イオス! わたしに足りない成分があるんだよ!」
「成分?」
「ニャンコロモティウム! 主にかわいいでできています!」
「お疲れさん。好きなだけ、かわいがりなよ」
俺の言葉を聞くやいなや、俺の足下で寝転がっているニャンコロモチにミーシャが特攻した。その背中をさすさすと撫でながら、ああ、幸せ~とうっとりしていた。ニャンコロモチは仕方がないなあ、という感じで目を細めている。
興奮しているミーシャに俺は声を掛けた。
「忙しいみたいだけど、どうしたの?」
「テーブルにある紙を見てよ。その話をまとめてきたの!」
テーブルの紙?
そう言えば、ミーシャが来るなり紙を置いていたな……。
立ち上がって紙をのぞくと――
『卒業生ミーシャに金3000万ゴールドを貸与する。ピプタット魔術学院』
そんなことが書かれていた。その後に細かい条件やらなんやらがずらずらと書かれている。
……金3000万ゴールド!?
とんでもない大金だ。
「これはなんなんだ……?」
「まだ契約前だからさ、安心してよ」
ニャンコロモチを抱き上げながら、ミーシャが俺に笑いかける。
「何かと入り用だからさ、借りちゃった方がいい気もして。イオスはどう思う?」
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