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第26話 氷の衛士ラルゴリン、現る

「いやいやいや、待て待て待て待て!」


 そう言ったのは光刃の斥候ダリルだ。


「おい、小僧! お前だけでどうやってラルゴリンを倒すんだ!?」


「俺だけだから倒せるんですよ」


 にやりと笑ってから俺は続けた。


「忍び足で近づいて、炎の短剣で、バックスタブを決めれば勝ちですよね?」


「戦士のお前に斥候の俺から教えてやるよ! 金属鎧なんてつけて忍び足なんてできないだろ!?」


「意外とそうでもないですよ」


 俺は『忍び足』を発動して歩いた。足音はおろか金属鎧の音も鳴らない。

 そんな俺を見た瞬間、光刃の3人は――


「「「きもい!?」」」


 え!?


「にしし! きもい!」


 ミーシャ、お前またか!?


「にやぁ!」


 たぶん、きもいって言われた気がする!?

 そこでダリルがいきなり叫んだ。


「はああああああああああああああ!? 待て、待て待て待て!? 金属鎧が鳴らないって、お前、それ忍び足Lv5か!?」


「はい」


「それに加えてバックスタブまで覚えているのか!?」


「はい」


「……金属鎧を装備してるってことは斥候じゃなくて、戦士――なのに高レベル忍び足? え? ていうか、レベルいくら?」


「あ」


 ……しまった……。うっかり見せてしまった……。普通はない組み合わせのような気がする……。

 詰め寄るダリルの肩をフィラルドが叩いた。


「ダリル、他の冒険者の能力に踏み込むのはよくないぞ」


「……そうだな」


 ばつが悪そうな様子でダリルが矛を収める。

 フィラルドが俺を見てこう続けた。


「……ま、謎めいた少年なのは確かで俺も興味津々だがな」


「はははははは……」


 光刃にそうまで言ってもらえるとは光栄だ。

 俺は話を戻した。


「もしラルゴリンが現れたら、俺が倒します」


「……わかった。だけど、油断はするな。忍び足もバックスタブもそれだけで勝てるものではないからな」


 フィラルドの言葉に俺はうなずく。

 そう、それだけで勝てるのなら楽なんだがな。結局、スキルは武器と同じ。どう運用するかは使い手次第。

 油断すれば死ぬ。


「鉱石魔術の知見に、俺たちのフォローか――」


 そうつぶやくとフィラルドはアイリスを見た。


「な、連れてきてよかっただろ?」


「それは認めるけど、お得意の行き当たりばったりを自慢されてもねえ……」


 アイリスは額に手を当てると、はあ、とため息をついた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 俺はひとり、雪の夜を駆けた。

 忍び足を使う関係で単独行動以外にない。ミーシャとニャンコロモチはフィラルドたちに預けた。

 黒と白の世界を、俺の腰で輝くライト・スティックがぼんやりと照らしている。


 ずっと続く同じような光景が――

 不意に切り替わった。


 !?


 足下に妙なものが浮かび上がっている。それは真っ赤な円弧だ。なだらかな曲線が白い雪原を走っている。

 その向こう側は異質だった。

 複雑な紋様が浮かび上がっている。

 まるで魔術陣のようだ。

 いや、魔術陣なのだろう。ミーシャが言っていたじゃないか。


 ――狙った範囲には大きな魔術陣が浮かび上がるし。


 少なくとも、石碑を狙っているというミーシャの予想は当たったわけだ。

 つまり、ここから向こう側は鉱石魔術の効果範囲。

 発動すれば俺なんぞ一撃で消し飛ぶだろう。


 ……だが、退くわけにはいかない。


 フィラルドと約束したからだ。

 俺ごときが英雄と並び立つのだ。命のひとつも賭けずにどうする!

 フィラルドたちを信じるだけだ。

 彼らなら商会の企みを阻止してくれるはず!


「行くぞ!」


 己を叱咤するようにつぶやき、俺は前へと踏み出した。

 そして再び走り出す。


 しばらく進むとまた風景が変わり始めた。


 石壁のような遮蔽物の数が増えてきた。

 おまけに、あちこちに灯る魔術の明かりも。

 ……うん? もう石碑のすぐ近くだと思うのだが、前はこんなものはなくて草っ原だと思うんだが……。

 確か、フィラルドは『ラルゴリン出現と同じくして石碑も現れる』と言っていた。

 おそらく、この辺の遮蔽物も同じく出現するのだろう。

 明かりがあるのはありがたい。こんな暗い夜に明かりを持っていたら目立つからな。

 俺はさらに奥へと進み、フィラルドが『この辺に石碑が出る』と教えてくれた場所へと向かう。


 ……おそらくこの辺だと思うのだが……。


 予想どおり、俺は石碑を見つけた。

 正確には打ち砕かれた石碑の残骸だが。

 そして、石碑の近くに倒れている誰かを見つけた。魔術師風の服を着た男だ。

 どうやらミーシャの読みは当たったようだ――


「おい、大丈夫か?」


 俺は魔術師の背中を揺らす。魔術師は、うっと声を漏らして身体を震わせたが、それだけだった。

 ……死んではいないが、動けないか……。

 ミーシャは言っていた。ラルゴリンをおびき出すために自由を奪われているのでは、と。

 周りを見回すと、ちらほらと倒れている冒険者たちの姿がある。

 ……順番に声を掛けてみるか。ひとりくらい会話できる程度に回復しているかもしれない。


 俺はうつぶせに倒れている茶髪の男に近づいた。

 戦士だろうか。右手にブロードソードを、左手にラージシールドを持っている。


 ……ん?


 ぼんやりとした明かりを反射した盾の表面には――

 え、あれは……!?

 下手な猫のイラスト、そして、にゃー! の吹き出し。


 酔っ払ったミーシャが自分の盾に書いていた落書きじゃないか。


 あの盾は知り合いであるオソンに譲ったはずだ。オソンはパーティーに加入した『頭がまともな剣術スキル持ち』に渡すと言っていたはずだ。


 ということは、巻き込まれたのはオソンのパーティーで――

 あそこに倒れているのは、噂の頭がまともな剣術スキル持ちか?


 ……どんなやつなんだろう。


 俺は少し興味を持って足を踏み出す。

 そのときだった。


 ――!?


 あまりにも圧倒的な気配が、まるで俺の全身にのしかかってきたかのようにくっきりと感じられた。山を包み込む強い冷気すらもぬるく感じさせる、永久凍土を思わせるような絶対的な悪寒。


 俺はすぐさま近くにある石の壁に身を潜めた。

 壁からそっとのぞき見る。


 少し離れた場所に何かがいた。魔力の明かりを受けてその異様が浮かび上がる。


 それはフルプレートに身を包んだ重装甲の騎士だった。左手には半身を覆うような巨大な盾を持ち、右手には大きな戦鎚を持っている。

 真っ青な氷で造り上げられた騎士。

 だがきっと、その氷の硬度は鋼鉄をはるかにしのぐのだろう。


 ついに、その姿を現した。

 氷の衛士ラルゴリンが――


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shoei
― 新着の感想 ―
[気になる点] グレイルとはすれ違いが続きますね(笑)
[一言] 気がつく直前にカットインかぁ・・・・知ったら知ったで笑えそうなのに
[一言] そういえばグレイルは前のダンジョンに続いてモンスターに印付けられてるな ラルゴリンのは倒せば消えるのだろうか それとも行く先々でモンスターに印付けられてコレクターになるのだろうか
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