第21話 剣聖イオスvs英雄フィラルド(下)
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雷鳴のような斬撃が俺を切り払った。
「うぐ!」
こらえきれずに俺は吹っ飛び、地面にごろごろと転がる。
フィラルドが小さく息を吐き、空を見上げた。
「日も傾いてきた。終わりにしよう」
「……すみません、フィラルドさん」
「うん?」
「時間を取らせちゃって」
「ははははは! 気にするな、誘ったのは俺だ。俺だって楽しかったよ。お前を調べるためだ、とか言ったけどな、あれは半分嘘だ。活きのいい若いやつと剣を合わせるのが趣味なんだよ!」
「そうなんですか?」
「若いやつらがね、必死な目で俺に食らいついてくるのが好きなんだよ」
「……俺の目、必死でした?」
「必死も必死。五本の指に入るくらいは必死だったな」
フィラルドはそう言って、あっはははは! と大笑いした。
「だけどな、粘り強さってのは冒険者にとって大切なんだよ。勝負が決まっていても投げ出さない心の強さと同じくな。ワンチャンはどこかに転がっているものさ」
「……今回は転がってなかったですけど」
「そうだな。なかったな!」
またフィラルドが、はっはっはっはっは! と大笑いする。
「でも、まあ、本当に先が楽しみだよ。俺が戦った中だと上から2番目くらいに筋がいい」
「……ありがとうございます」
その言葉は俺の胸に沁みた。
少なくとも俺の積み上げたものは英雄の評価――その端っこには届いたらしい。
「さて、と……そろそろ帰ろう」
フィラルドが倒れている俺を見る。
「立てるか?」
「……立てますけど、まだ身体が重いです……」
「もう少し休むか。俺は近くを歩いてくる。何かあれば大声で呼んでくれ」
そう言うと、フィラルドは飛竜バスタードソードを回収して歩き出した。
遠のいていく足音を聞きながら、俺は、はあ、と息を吐く。
祭りは終わった。
遠のく足音があれば、近づいてくる足音もある。
ミーシャがニャンコロモチを抱えたまま、倒れている俺の横にしゃがみ込んだ。
「にししし! お疲れ様!」
「ホントね、疲れたよ……」
「楽しかった?」
「夢のような時間だったよ」
その言葉に偽りはなかった。学生時代から『宵闇の光刃』は有名だった。彼らの活躍は俺たち冒険者の卵たちの胸を焦がしたものだ。
彼らはみんなこう思っている。
いつかどこかでフィラルドたちに出会えたら最高だ!
もちろん、俺もそんな学生たちの一人だった。
出会えただけでも最高なのだ。
なのに、こうやって剣まで交わせるなんて!
「……学生時代の夢が叶った感じだな」
「よかったね!」
「ああ、本当によかった」
「いつかは勝てそう?」
「……それ、今訊く?」
「にししし! 訊きたい!」
ここまで打ちのめされた。完敗もいいところだ。そんなざまで、いつかは勝てる、なんて言えるものでもない。言える資格もない。
だけど――
俺は吐息とともに言葉を押し出した。
「勝つよ」
俺はそう言った。
きっとあの人は、その言葉を待ち望んでいるだろうから。
「ま、いつかね、いつか……本当にいつか……」
……少しの弱音をこっそり添えるくらいは許してもらおう……。
そんな俺をミーシャがにやにやとした顔で見る。
「いつかですむかにゃー?」
「どういう意味?」
「ラルゴリン戦があるでしょ?」
「……あ」
しばらく争わずにすむと思ったけど、そうか、そこがあったか。俺は現役最高峰パーティー『宵闇の光刃』と獲物を奪い合って勝たなければならない。
あの強さを垣間見た後だと身の程知らずもいいところだけど……。
「へいへい、剣聖ビビってる、ビビってるぅ!」
「ま、まあ、ここまでボコられると、さすがにな……」
「そう慌てなさんなって。獲物の奪い合いは力比べじゃない。わたしたちだって勝つチャンスがあるかもよ?」
確かに。
……あの双剣使いの女を出し抜いてブレンネン・ティーゲルも狩れた。頑張れば何とかなるかもしれない。
バックスタブに炎の短剣。
俺たちにはラルゴリンを殺す矛があるのだから。
そして、その事実を誰も知らない――
「力じゃ勝てない! でもさ、いっぱい喰わせてやろうよ!」
「……そうだな」
そこで俺はミーシャの顔を見てにやりと笑った。
「軍師ミーシャの知略に期待するよ」
「にし!?」
げ、仕事振られた!? みたいな感じでミーシャが固まる。
「たはははー、ま、頑張るよ!」
「ああ……頼む。俺をせいぜいこき使ってくれ。根性だけはあるつもりだからさ」
俺はミーシャから視線を外し、空を見上げた。
もうすぐ、この夏の山に雪が降る。
――いよいよ競争の始まりだ。
この辺の、主な加筆エピソードは――
・vsフィラルド戦でイオスが剣聖スキル全開放で挑む
ですね。他にもありますが。
ただ一度かもしれない英雄に胸を借りるチャンス! 出し惜しみなく挑むイオスの意地を楽しんで欲しいですね。
なかなかラノベの打ち切り回避も大変なので、ご協力いただけるとありがたいです。