第20話 剣聖イオスvs英雄フィラルド(上)
俺は宵闇の光刃のフィラルドと模擬戦をすることになった。
俺の言葉にフィラルドが口笛を吹く。
「そうこなくっちゃ!」
そう言うと、飛竜バスタードソードを差し出した。
「それじゃ、剣を交換しようか?」
「え?」
「さすがに、A級冒険者である俺のほうがいい武器を使ってちゃダメだろう?」
確かに、飛竜バスタードソードの性能は魔狼ブロードソードを大きくしのぐ。
だが――
「え、いや、だけど、血判があるから、自分の武器以外だと使えないですよね?」
モンスター由来の武器や鎧は血の契約をしないと使えない。他人の剣を使っても、攻撃力はゼロなのだ。
フィラルドがにやりと笑った。
「そこがいいんじゃないか!」
「どういうことですか?」
「お互いの武器の攻撃力がゼロになる。お互いのな。つまり、武器による性能差がなくなるんだよ」
ようやく俺は理解した。
なるほど、より『自己のステータス』で勝負するわけか。
「わかりました」
俺は飛竜バスタードソードを受け取った。
フィラルドが笑う。
「持ち逃げしないでくれよ?」
「俺には重すぎて無理ですよ」
俺も笑いつつ、代わりに魔狼ブロードソードを差し出した。
……本当に重い。
俺の右手に飛竜バスタードソード――A級武器がある。一流を超えた超一流だけが持てるランク。おまけにそれは俺の憧れの戦士が持っていたもので。
いろいろな感情が俺の胸に去来する。
フィラルドが俺に剣を向けた。
「さあ、始めようか」
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名前 :イオス
レベル:27(剣聖)
攻撃力:424(+0)飛竜バスタードソード
防御力:316(+440)大緑鱗スケイルシールド/青火鳥チェインメイル
魔力 :262
スキル:シュレディンガーの猫、剣聖、ウォークライ、強打Lv3、闘志Lv3、速剣Lv3、忍び足Lv5、短剣術、バックスタブ
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名前 :フィラルド
レベル:73(剣士)
攻撃力:903(+0)魔狼ブロードソード
防御力:611(+660/+210)岩巨人プレートメイル、凶眼鱗ラージシールド
魔力 :465
スキル:光輝刃、剣術、?
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攻撃力への補正を換算すると、スキル剣聖を加味した俺の攻撃力は577。スキル剣術を加味したフィラルドの攻撃力は――
963!
「行くぞ!」
フィラルドの斬撃が俺を襲った。
俺は剣で受け止めたが――伝わる威力の強大さに剣が弾かれる。
……これが、レベル差か……!
圧倒的な格の違いが、剣にのしかかってくる。
俺のクラスは剣聖、フィラルドの剣士より上位だ。スキルのプラス補正は大きく上回っているはずなのに――!
遠い!
遠すぎる!
これが積み上げた力の差か!?
フィラルドが剣を振るうたび、俺は為す術もなく追い詰められていく。やがて――
「うぐっ!?」
俺の腹をフィルラドの剣がひと打ちした。
激痛に俺は顔をしかめる。
武器による攻撃力はゼロのはずなのに、その威力は確かに俺の防御力を貫いてダメージを与える。
……強いな、やっぱり……。
フィラルドが俺に声を掛けた。
「勝負あり、だな?」
どちらかがクリーンヒットしたら決着――そういうルールだ。
「……そうですね」
悔しかった。
負けたことが、ではない。ここで終わってしまうことが。
一方、フィラルドは――
「……うーん、攻撃力はレベル40と少しか? だが、体さばきが甘いな。レベル30もないような……アンバランスな感じだな……どういうことだ……?」
ぶつぶつとつぶやいていた。
むちゃくちゃ分析されている!?
ふふふふ、とフィラルドが俺を見て笑う。
「食い足りない顔だな……。まだ痛い目にあいたいなら、もう少し付き合おうか?」
……終わっていなかった。
俺は剣を構え直した。引く理由などありはしない。はるかに強い男の剣を受けられる機会! そこに背を向けるわけにはいかない。
そして――せめて、一度くらいはフィラルドの余裕を剥ぎ取りたい!
「お願いします!」
俺は再びフィラルドに挑みかかった。
何度も打ち据えられた。フィラルドはときに強く、ときに流れるように俺の攻撃をさばく。
歴戦の剣士が積み重ねた技は俺をまったく寄せ付けない。
あっと思った瞬間、俺はフィラルドの剣を喰らった。
少しばかり強くなったと思っていたが、全然だ。目の前にいる男が積み重ねたもののなんと高きこと。これがいずれは最強に至る男の剣か。本当に届くのか、いつかここに? 本当に至れるのか、いつかここに? 疲労と痛みが俺の耳元でささやく。そんなことは無理だ。お前の器を知れと。
ああ、そうだな。そんなことできるはずがない。そこに至れるものは運命に決められたもの。俺がそんな人間のはずが――
なんて思えるはずがない!
「どうした? もう終わりか?」
フィラルドがふわりと笑うたびに、俺は闘志を燃やす。
「まだです!」
どんな疲労も痛みも、まだ俺を止めることはできない。この一秒一秒を噛みしめたい。勝ち目のない戦いでも挑みたい。今はまだでも、いつかはたどり着くために!
その想いを、気持ちを俺は捨ててはいない!
捨てられない!
「おおおおおおおおおおおおおおおお!」
そんな気持ちとともに打ち出した俺の剣は――
やはり、フィラルドの一撃にあっさり弾かれる。
「悪くはない」
最後まで崩さなかった余裕の表情でフィラルドが総括した。
「将来が楽しみだ。せいぜい頑張れ」
雷鳴のような斬撃が俺を切り払った。