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第15話 問・炎虎ブレンネン・ティーゲル狩り

 リステアはギルテアとともにブレンネン・ティーゲルの巣を荒し続けた。

 2人で交互にダンジョンに入り、活動時間を倍にした。

 さらに超高速でダンジョンを踏破して瘴気の被曝ひばく量を減らして休養期間を削っている。

 おかげで、かなりの頻度でリステアたちはダンジョンにもぐれた。


(……くくくく! ブレンネン・ティーゲルごときに時間がかかるザコは大変ね!)


 ダンジョンを疾走しながらリステアは口元で笑う。

 やがて、目の前にブレンネン・ティーゲルたちと戦う冒険者たちの姿が目に映った。

 獲物――!

 瞬間、リステアはダンジョンを疾駆した。


「あいつだ!」


「くそ、今度こそは!」


 リステアの接近に気がついた冒険者たちが必死にブレンネン・ティーゲルへの攻撃を強める。

 その無駄なあがきがリステアには滑稽だった。


「あっはっはっはっは! 遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い!」


 高笑いを上げつつ一気に距離を詰めていく。


「くっそ、ふざけんじゃねえ!」


 戦士がブレンネン・ティーゲルに背を向けてリステアの進行方向に割って入った。

 盾を構えて、リステアを止めようとしている。


「ははははははっ!」


 くだらない! 愚者が必死に考えた抵抗がそれか!

 リステアは飛んだ。

 とん、と戦士の肩に着地、そこを足場にして方向転換――矢のような勢いでブレンネン・ティーゲルへと襲いかかる。


 リステアの、白と黒の双剣が閃いた。

 ブレンネン・ティーゲルの背中を無数の斬撃が切り裂く。


 着地したリステアが慣性を殺しきったとき、すでに赤い虎はむくろに変わっていた。


「て、てめえ……またかよ!?」


 中年の、40を超えている感じの冒険者がうなる。


「また、みたいね。覚えてないけど」


 リステアは笑う。

 本当に覚えていなかった。ザコの顔などめったに覚えない。中年のB級――頑張っている方だが、20半ばでA級上位のリステアには興味がない。


「さ、邪魔よ、邪魔」


「いい加減にしろ! 邪魔ばかりしやがって!」


 つかみかかろうとする男の手を、リステアはつかんだ。

 瞬間――

 だん! 勢いよく男の身体が反転して地面に倒れた。


「つあっ!?」


「邪魔だっつってんでしょ。死にたいなら止めないけど?」


 冷たく言い放つと、動けなくなった他の冒険者たちを無視してリステアはブレンネン・ティーゲルにリトリーバーを近づけた。

 ころん――

 転がったのは『ブレンネン・ティーゲルの大牙』と魔石。

 リステアは盛大にため息をついた。


「ゴミね、あげるわ。よかったわね、楽して稼げて」


 うふふふふ、と笑い声をこぼすとリステアはさっさと次に向かう。

 歩きながら斥候スキル『聞き耳』を発動した。ダンジョン内に響く音を拾い上げる。どこで戦闘が起こっていても、リステアの耳は逃さない。


「……聞こえる聞こえる――!」


 リステアの耳は新たなる戦いの音をとらえた。

 その口元に、新たなる獲物を見つけた笑みが浮かぶ。


「ほらほらほら! ゆっくりしてると鬼が出るぞ……!」


 リステアは駆け出した。

 だが、音の聞こえる場所にたどり着いても――


「ん?」


 ブレンネン・ティーゲルの姿はどこにもなかった。

 壁際に三角帽子をかぶった女魔術師が立っているだけ。

 女魔術師がにこにこした表情でリステアに話しかける。


「こんにちはー、どうしたんですか? 血相変えて?」


 リステアは首を傾げた。


「お久しぶりね」


 基本的に冒険者など眼中にないリステアだが、女魔術師のことは覚えていた。男と女と猫という変わった構成――あと、男が若さのわりにB級装備だったからだ。


「……今日はひとり? お友達はどこかしら?」


「ブレンネン・ティーゲルと戦ってますよ!」


「どこで?」


「どこでしょう?」


 女魔術師がにやりと笑う。

 その表情には、己の詐術さじゅつを誇る輝きがあった。


「はっ!」


 リステアは笑った。その表情を歪ませてやれればどれほど楽しいだろうと思いつく。

 つかつかとリステアは女魔術師へと近づいた。


「少しは考えたわね、子供だましだけど――何も考えていないよりはずっといい」


 リステアは手をダンジョンの壁に伸ばした。


「だけど、残念ね。わたしは視覚的にとらえているのではなくて、耳で聞いているのよ」


 リステアには聞こえていた。

 壁の向こう側から響く戦いの音が。

 リステアは壁を叩く。こん、と向こう側に抜ける音がした。


「魔術アースウォールを使って臨時の壁にして遮断――そんなところかしらね?」


 リステアが指摘した瞬間、女魔術師の顔がさっと青くなる。その表情の変化がリステアには心地よかった。

 女魔術師が叫ぶ。


「イオス!」


「遅い!」


 闇色のダガーを引き抜くと、リステアは壁めがけて高速の斬撃を叩き込んだ。

 魔術によって造られた偽の壁は一瞬にして瓦礫と化す。

 悔しそうに女魔術師が唇を噛んだ。

 リステアは開かれた向こう側へと踏み出す。


「あっはっはっはっは! わたしをごまかせると思って?」


 そこはさほど広くない、壁に囲まれた空間だった。

 青火鳥チェインメイルに身を包んだ男と猫がいる。明らかに男はさっきまで激闘を繰り広げていた様子だった。

 だが――

 それだけだった。

 リステアは左右に目を向けるが、ない。


「……? ブレンネン・ティーゲルはどこ――?」


 リトリーバーでドロップアイテムに変換した?

 いや、そんなはずはない。ついさっきまで激闘を繰り広げていて――ブレンネン・ティーゲルは荒々しい音を立てていたから。

 まだ仕留めるには時間がかかるはず。

 男がリステアを見た。


「……そんなのはいないよ。俺は訓練していただけだから」


 ぎりっとリステアは歯を噛んだ。

 できそこないの嘘だ。そして、あえて下手な嘘をついている。リステアを挑発するために。

 だが、ブレンネン・ティーゲルがいないのは事実だ。

 そして、その謎がリステアにはわからない。何かしたのだろうが、何をしたのかがわからない。いらだちを、ため息にして吐き出した。


「……まあ、いいわ」


 そう言うと、リステアはきびすを返して歩き出す。

 しばらくすると――

 また同じ場所から戦う音が聞こえてきた。


「ちっ!」


 舌打ちと同時、再びリステアは走り出す。今度は逃さない!

 再びリステアが舞い戻ると、壁は再建されていて女魔術師が前に立っていた。


「あれ、また来たんですか?」


 女魔術師と話をするつもりはなかった。

 そのままの勢いで壁へと突っ込む。


「イオス!」


 女魔術師が叫ぶと同時、リステアは再び壁を切り刻んだ。蹴り飛ばして中に飛び込むと――


「……何か?」


 青火鳥チェインメイルの男がそう言う。

 狭い空間には男と猫だけしかいなかった。

 またしても、ブレンネン・ティーゲルの姿はどこにもない。

 そんなはずはないのに!?

 リステアが鋭く地面を踏みつけた。


「あなたたち! 何をしたの!?」


「訓練って言っただろ?」


 男は首を傾げて笑い、こう続けた。


「ちょっとしたスキルの練習だよ」



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shoei
― 新着の感想 ―
[気になる点] ヒト科猫サピエンスとかなんとかはどうなるんか!?
[一言] 『世界とは君たちが思うよりも曖昧あいまいだ。壁の中にいるブレンネン・ティーゲルが今も本当に存在するかどうか、それは壁を壊してみるまでは確定しない。有るとも、無いともね』
[一言] 炎虎…虎は確か猫科だから…あっ(察し)
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