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第12話 バックスタブを試してみよう!

 その日、俺たちは炎虎ブレンネン・ティーゲルを狩るために移動していた。

 がしゃ、がしゃ、がしゃ、がしゃ。

 青火鳥チェインメイルを着ている俺が歩くたびに、のどかな林に金属のぶつかる音が響く。

 金属鎧を着ているから当然だが。


「ねえ、イオスゥ」


 隣を歩いているミーシャが俺に声を掛けてきた。


「イオスの忍び足って、金属鎧の音も消せるんだっけ?」


「らしいな」


 それが忍び足Lv5の効果だ。


「やってみせてよ!」


「そうだな」


 性能を試しておくこと自体は悪くない。そもそも本当に金属鎧の音が消えるの? 物理法則無視してない?

 試せばわかるか……。


 忍び足Lv5――発動!


 ……うわ……。

 今まで俺が動くたびに、がしゃがしゃと騒音が聞こえていたが、ぴたっと止まった。

 まるで布の服を着ている感じ。

 本当に音がしない。


「すっごーい!」


 ミーシャが声を上げる。


「ねえねえ、イオス!」


「うん?」


「キモい! にしし!」


「キモいって言うな!」


 ……実は俺も、やっぱりキモいと思ってるんだけど……。

 ただ、これはすごい。金属鎧の音が聞こえるのは常識だ。その『当たり前』を無視できるのはとても強力だ。

 実にいいスキルだ。

 ただ、問題は――


「ねえねえ、イオス!」


「なんだ?」


「金属鎧のかちゃかちゃ音がうるさいからさ、ずっと忍び足で歩いてよ!」


 そう来ますよね!?


「いやいやいや! 無理だから! これ、意外と疲れるからな!?」


 むちゃくちゃ集中して歩いているからね。とてもじゃないが常用できない。


「……なーんだ」


 ふふふと笑いながらミーシャが唇を尖らせた。

 俺たちは再び炎虎ブレンネン・ティーゲルを探して歩き出す。

 林を抜けて――


「ここだよ」


 ラルゴリンの出る大きな山、そのふもとにぽっかりと大きな穴が空いていた。

 ダンジョンだ。


「ここに炎虎ブレンネン・ティーゲルがいる」


「ほー」


 俺とミーシャ、ニャンコロモチはダンジョンの中へと入っていく。

 先に進むたび、俺は気温が上昇していくのを感じた。


「……なんだか、暑いな」


「熱源が近くにあるからね。……熱系のモンスターが発生しやすいのはそういう場所なの」


 ミーシャは手元にある地図を見ながらすたすた歩いていく。


「その地図は?」


「ギルドでいろいろ情報集めしてね、ブレティーの出現ポイントを教えてもらったの」


 ブレティー――ブレンネン・ティーゲルの略か……。


「ミーシャ、すごいな……手回しがいいというか……」


「にししし! もっと褒めてくれたまえよ! 相棒!」


 そんな感じでダンジョンを歩いていき――

 いた、とミーシャがぼそりとつぶやく。


「あそこ」


 入り口からそっとのぞき込むと、確かにいた。

 赤毛の虎がのしのしという感じで歩いている。吐き出した息とともに赤い炎が散った。

 なかなか迫力があるな……。

 最近、ゴブリンとかハンターリザードばかり狩ってたからな。


「さて、やるか……」


「ねえねえ」


 ぼそぼそとミーシャが俺に耳打ちする。


「あのさ、せっかくだから開幕バックスタブで攻めてみたら?」


 開幕バックスタブか……。

 確かに初手で大ダメージを与えられるのは大きい。狙える状況なら選択肢として有効だろう。


 やってみるか。


 俺はミーシャにうなずいて返すと、ブレンネン・ティーゲルが背を向けた瞬間にそろりと前に出た。

 遮蔽物はなにもない。もしもブレンネン・ティーゲルが振り返るとアウトだ。


 早く……早く近づかなければ――


 焦るが、いや、ダメだ。落ち着かなければ。焦っても忍び足は速くならない。無理に速くすれば失敗するだけ。

 落ち着け、落ち着くんだ。

 俺は己に言い聞かせてブレンネン・ティーゲルとの距離を詰めていく。


 一歩、一歩、着実に。

 あと少し、あと少しだ――


 そのとき。


 俺に背を向けたブレンネン・ティーゲルが首を持ち上げた。その鼻がひくひくと動く。

 まるで何かをぐかのように。

 嫌な予感がした。

 背中にひやりと冷たいものを覚える。


 瞬間、俺の直感は理解した。


 ――音は確かに殺しているが、においは?


 獣系のモンスターが誇る鋭い嗅覚を、俺は考えていたか?

 ブレンネン・ティーゲルの顔が横を向く。

 その目が、俺を見た。


 ……やばい!?


 そこからは速かった。ブレンネン・ティーゲルが素早く振り向くと、間髪入れず俺に飛びかかった。


「グゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 咆哮とともに。

 巨大な質量が俺の身体にぶつかる。

 ぎりぎりだった。

 俺は盾を滑り込ませてその一撃を受け止める。


「ぐう!?」


----------------------------------------

名前 :ブレンネン・ティーゲル/B

攻撃力:1200

防御力:900

----------------------------------------


 その攻撃力がぐぐっと盾越しに伝わってくる。俺はこらえきれずにすっ飛ばされた。


「うわあああああ!?」


 一気に後退する。


「イオス!?」


 ミーシャとニャンコロモチが入り口から飛び出してきた。


「すまん、ミスった!」


「大丈夫! ここから頑張ろう!」


 叫ぶなり、ミーシャは杖をブレンネン・ティーゲルに向けた。


「ウォーターブラスト!」


 ミーシャが放った水の弾がブレンネン・ティーゲルに命中する。不快そうに首を振ると、赤い虎が口から炎を吐きだした。

 ミーシャに向かって。


「――!?」


 ミーシャを守るものはいない。

 瞬間、俺は叫んだ。


「縮地!」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ある程度の距離からの縮地、バックスタブ!は可能だったのか。 (ガシャガシャガシャとか鳴るん? 鳴らなそうな予感)
[良い点] イィィィィィオオオオオオス!!が好きすぎるwwww グレイスくん憎めませんねww
[一言] 今度は匂いを消せるスキルか魔法を! どうせ本命のときもバックスタブ狙うんでしょ。
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