第11話 きれいなグレイル、新たな(中古の)盾を手に入れる
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それから1ヶ月が過ぎ、俺はレベルが14になった。
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Lv14の選択可能スキル 23:59
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クリティカルヒット+
バックスタブ
回避機動Lv3
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「すべて有用だな……」
が、俺に迷いはなかった。
「バックスタブだ」
vsラルゴリン対策に必要な要素――忍び足、バックスタブ、炎の短剣。3種類のうち、2つが揃った。
……あとは短剣か……。
「にししし! やったね!」
「うん」
俺はうなずいた後、こう言った。
「本職に戻るか」
B級モンスター炎虎ブレンネン・ティーゲルを狙うのだ。育成中の斥候では歯が立たない。
そんなわけで、俺たちは冒険者ギルドに戻って転職した。
俺は戦士、ミーシャは魔術師に。
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名前 :イオス
レベル:27(剣聖)
攻撃力:424(+510)魔狼ブロードソード
防御力:316(+440)大緑鱗スケイルシールド/青火鳥チェインメイル
魔力 :262
スキル:シュレディンガーの猫、剣聖、ウォークライ、強打Lv3、闘志Lv3、速剣Lv3、忍び足Lv5、暗殺術、バックスタブ
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久しぶりの戦士――いや、実は剣聖だけど……やはり、こっちのほうがしっくりくる。
俺もミーシャも本職装備でギルドを歩いていると、誰かが声を掛けてきた。
「おや、イオスにミーシャじゃないか」
俺たちと同じくらいの年齢の男がそこにいた。
愛想のいいミーシャがひらひらと手を振る。
「オソンさん、お久しぶり~」
オソン。ちょうどピプタットに到着した頃の俺たちと同じくらいのレベルの戦士だ。
オソンも冒険者でパーティーのリーダーをしている。
他のメンバーとは面識がないが、オソンとはギルドですれ違うことが多く、いつの間にやら立ち話をする仲になった。
「君たち、戦士と魔術師? うん? 斥候と戦士じゃなかったか?」
「あははははは――」
俺は頭をかいた。
「実はこっちが本職なんですよ」
「ほぅ……?」
不思議なものを見るような目で俺を見て――
「……その若さで青火鳥チェインメイルに魔狼ブロードソードの持ち主だ。きっといろいろと謎を秘めているのだろうね」
う、何かを探られている……。
「いや、……それほどでも……」
俺がしどろもどろに答えていると、ミーシャが割って入った。
「ねえねえ、オソンさん。オソンさんのほうは最近どうなの?」
「ん? 俺たちかい?」
「前に剣術スキル持ちが仲間になった、って言ってなかった? どんな感じ?」
「ああ! 彼はね、素晴らしいよ! 強さも人格も! 全冒険者のお手本と言っていい! あんな好人物がいるなんてね!」
そんな剣術スキル持ちもいるのか……。
俺にとって剣術スキルとは、イコールでグレイルだ。粗野で横暴、天上天下唯我独尊のイメージしかない。
ミーシャが手を叩いた。
「よかったね、オソンさん! わたしたちの知ってる剣術スキル持ちは性格がゴミすぎる人間失格だからさ、心配していたんだよ! そんなまともな剣術スキル持ちもいるんだね!」
「私も会うまで性格が心配だったが……謙虚で仲間のために働く素晴らしい男だよ。聖人だね」
……本当にグレイルとは対極にいる人物のようだ。グレイルに爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいだ。
「ただ――」
そのとき、オソンが浮かない顔をした。
「いいやつだけに残念なことがあってね。彼の使っていた高品質のラージシールドが壊れてしまったんだよ」
「え!?」
「仲間をかばって攻撃を受けた拍子にね。……本人は笑って、もともとガタがきていた中古品だから気にするなと言ってくれたけど」
オソンはこう続けた。
「……彼にはこれからも頑張ってもらいたいから、高品質なラージシールドをみんなで金を出して買おうか、と話しているんだ。……なかなか駆け出し冒険者には厳しい金額だけどね……」
……なるほど。
俺にミーシャがこそこそと耳打ちした。
「ねえねえ、イオス。わたしの高品質なラージシールド、オソンさんたちにあげたらどうかな?」
悪くない考えだと思った。
……ミーシャはしばらく戦士をしない。そして、俺たちにとってはそれほどの大金でもない。役立ててくれるならありがたい。
「いいんじゃないか」
俺はそう言うと、オソンにこう伝えた。
「ちょっと待っててください」
2人から離れると、人気のない場所へと移動した。そして、アイテムボックスから『高品質なラージシールド』を取り出す。
バカでかいものだが、何でも入るように俺はバックパックを伸縮性のある口の大きいものに変えていた。袋に入りさえすれば俺のシュレディンガーの猫で圧縮できるのだ。
そして、オソンの元へと向かい、
「これをどうぞ」
高品質なラージシールドを差し出す。
「こ、これは――!?」
「性格のいい剣術使いさんに。プレゼントです」
「あの、オソンさん、落書きだけはごめんね?」
申し訳なさそうにミーシャが盾の一角を指さす。
そこにはミーシャが描いた(絶妙に下手な)猫の絵があり、『にゃー!』という吹き出しまでついている。
酒に酔ったミーシャが「ニャンコロちゃんを描いてあげる~」とかノリで描いた絵だ。
「これ、落ちないインクで描いちゃったから消えないんだよね……」
「いやいや! 大丈夫! 彼はそんな小さなことは気にしない! 君たちの優しさに感謝するだろう。そんな男だ!」
……心の広い剣術使いっているんだな……。
「差し上げます」
「ありがとう! 確かに彼に渡すよ!」
嬉しそうに盾を受け取ったオソンに、俺はこう付け加えた。
「あ、そうだ。その剣術使いさんに俺たちのことは内緒にしておいてください。気を使わせると悪いので」
そう言うと、俺とミーシャはギルドを後にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
グレイルは宿でむしゃくしゃしていた。
なぜなら、愛用の『高品質なラージシールド』が壊れてしまったからだ。
ただ、壊れてしまっただけなら我慢もできるが、うすのろの仲間をかばって変な体勢で受け止めた影響とあっては腹立ちもする。
クルアアアアアアアアアア! お前がのろのろしているから俺の盾が壊れただろうが!? 弁償しろ、あああああああん!?
と叫びそうになったが、グレイルは瞬間的に思い出した。
(きれいなグレイル!)
グレイルはにっこりほほ笑んでこう言った。
「お前が無事でよかった」
おかげでパーティーでの株は爆上がりしたが、グレイルのストレスは消えていなかった。
そんな不愉快な気分を抱えて悶々としていると、誰かがグレイルを訪ねてやってきた。
『グレイル、いるか? オソンだ』
オソンは部屋に入るなり、グレイルに盾を差し出した。
「プレゼントだ」
「こ、これは――!?」
「高品質なラージシールドだ。親切な人にもらってね」
「お、お、おおおおおおお!」
グレイルは興奮の声を上げた。
(俺はやっぱり持っている!)
とてもきれいな盾だった。中古らしいが、あまり使い込んだ様子はない。以前のもののように『へこみ』もない。
失ったものが、パワーアップして帰ってきた!
(イィィィィィオオオオオオス! これだよ! これが持っている男、グレイルの強運だよ! お前のような不幸体質にはわかるまい! 寝ているだけでラージシールドが落ちてくる男、それが俺だ!)
ご機嫌な様子でグレイルはラージシールドを手に取った。
「……そうだ、オソン。親切な人とは誰だ?」
オソンは即答せず、少し考えてからこう答えた。
「名前は俺も知らないんだが、男女の組み合わせだ。男は青火鳥チェインメイルに身を包んだ戦士、女は魔術師だ」
――!
グレイルは胸にナイフを刺されたかのような衝撃を味わった。
青火鳥チェインメイルの戦士!?
その男への、炎のような憧れは今もグレイルの胸に残っている。
魔術師の女との組み合わせとなると別人のはずがない。
(……運命だ……まさか、ピプタットを離れたこの地で運命が交錯するなんて……!)
グレイルはうっとりと盾を撫でながら――
そして、気がついた。
盾に描かれた猫の落書きに。
同時に思い出す。グレイルが2人組の後をつけていたとき、彼らが猫を帯同していたことを。
オソンが口を開く。
「ああ、すまない、グレイル。それは落書きでな――」
オソンの言葉をグレイルは手で制した。
「大丈夫だ……この『落書き』、消すなんてとんでもない! これがいいんだ! この落書きが『いい』んじゃないか!」
グレイルは慈愛に満ちた目のまま、優しげな手つきで猫の落書きを触る。
(……間違いない! 本当に! この盾をくれたのはあの2人組!)
しかも、彼らから渡されたお古の盾となると――
(憧れの男が愛用していた盾ってことか!?)
おまけにサイン付きだ。
グレイルは気を失いそうだった。なんて自分は幸運なのか!
(イィィィィィオオオオオオス! 俺はついに憧れの人のアイテムをゲットしてしまったぞ!? 青火鳥チェインメイルの戦士さまだ! 一生お前にゃ縁のないハイスペック冒険者さまのお古だ! どうだ、うらやましいだろう!?)
その日、グレイルはどこまでも上機嫌だった。
この辺の、主な加筆エピソードは――
・ニャンコロモチのステータス調査
・戦士ミーシャの初陣
ですね(両方とも、素敵なイラスト付き!)。他にもありますが。
あと『きれいなグレイル』と『盾を愛でるグレイル』もイラスト落ちしております!
なかなかラノベの打ち切り回避も大変なので、ご協力いただけるとありがたいです。