第9話 イオスたちのレベリングDay(下)
「暗殺術が出てきたな」
「おおおおおおおお!」
ミーシャが興奮した声を上げた後、こう言った。
「ポイント足りてる?」
「ぎりぎり」
鍵開けを迂回しておいてよかった。取っていたら、また「足りない……」になるところだった。
これを取るとポイントがゼロになるが――
もともと斥候をしていたのは『暗殺術』を取るためだ。やはりここもまた初志を貫徹させるべきだろう。
というわけで、俺は暗殺術をマスターした。
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暗殺術
効果時間:常時
リキャスト:なし
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・武器が短剣である場合、攻撃力/50の固定ダメージを与える
・武器が短剣である場合、攻撃力+10%
・上位職業『暗殺者』に転職可能(Lv20以上)
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これが暗殺術の能力だ。
特徴的なのは『固定ダメージ』。これは防御力を貫通して与えるダメージだ。
攻撃力が防御力を超えない限り、決してダメージが通らないのが世の常識だが、この固定ダメージ攻撃は相手の防御力が無限であろうと、必ずダメージを通す。
それは獲物を確殺する暗殺者の意地だろう。
……この『攻撃力/50』の固定ダメージがどれほどの威力なのかはよくわからないが。
「強くなった感じ?」
ミーシャの問いに、魔狼ブロードソードを掲げて俺は答えた。
「いや……全然。だって、短剣が条件だからね」
「ああー、確かに!」
うんうんとうなずいてからミーシャが続ける。
「短剣、買うの?」
「……そこまで急いでいないから――」
少し考えてから、こう言った。
「自分たちで作ろうか?」
「え?」
「この大緑鱗スケイルシールドみたいにさ、敵を倒した素材で作るのはどうだろう?」
俺の言葉を聞いた瞬間、ミーシャが目を輝かせた。
「いいね、それ!」
「いいだろ? ここら辺のC級かB級モンスターあたりを狙うか」
「にししし! 楽しくなってきた! あ、どうせなら氷の衛士ラルゴリン対策も兼ねたもののほうがいいかな?」
「そうだな」
「氷には炎! 炎属性の短剣を狙おう! この辺だと、炎虎ブレンネン・ティーゲルかな!?」
……すごいな……ぽろっと言葉をこぼすだけでミーシャが次々に話を進めてくれる……。
「よーし! いろいろ調べてみるね!」
「やってくれるのなら助かるよ」
話はまとまった。また新しい獲物を狩ろうと歩き始めたとき――
「あ、そうだ、イオス」
「なに?」
「目的の暗殺術を取っちゃったけど、斥候は今日で終わりなの?」
「いや、まだだ」
俺は首を振った。
「少なくともバックスタブは取りたいな」
「バックスタブ?」
首を傾げるミーシャに俺は説明した。
「斥候の上位スキルのひとつなんだけど……背後からの攻撃が『不意打ち』扱いなのは知ってるよな?」
「うん」
不意打ち――直近の例だと、ジャイアント・リザードマン戦だ。シュレディンガーの猫で姿を隠したニャンコロモチが背後から攻撃して大ダメージを与えた。
『相手に気づかれることなく』『後背から攻撃する』と不意打ちとして扱われ攻撃力が大きく増加する。
バックスタブとは不意打ちを強化するスキルである。
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バックスタブ
効果時間:次の攻撃
リキャスト:なし
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・不意打ち判定時、プラスの補正がかかる
・不意打ち成功時、攻撃力+100%
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1つ目の効果は『不意打ちの判定が甘めになる』という意味だ。どの程度かは不明だが、ほんの少し相手の気がそれただけ、とか、後背ではなく少し斜めから、とかでも成功になる。
2つ目の効果は、そのままずばり攻撃力が2倍。決まれば一撃で勝負を決する力がある。
「――氷の衛士ラルゴリンの弱点は背中。それを刺し貫くのがバックスタブだ」
「おお!」
エース冒険者『宵闇の光刃』が動く以上、俺たちの刃が氷の衛士ラルゴリンに届くとは思えない。
だけど――万が一はある。
それに向けて準備するのはとても楽しいものだ。
「頑張ろう、ミーシャ」
「にししし! うん!」
俺たちはそれからもレベルアップを続け、この2ヶ月でレベルを10まで上げたのだった。
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名前 :イオス
レベル:10(斥候)
攻撃力:190(+510)魔狼ブロードソード
防御力:150(+425)暴牛レザーアーマー、大緑鱗スケイルシールド
魔力 :180
スキル:シュレディンガーの猫、剣聖、ウォークライ、強打Lv3、闘志Lv3、速剣Lv3、忍び足Lv5、暗殺術
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◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
フラストの街へと向かう道を2人の若い男女が歩いていた。
男の名前はギルテア。鮮やかな金髪の持ち主で涼しげな様子の美男子だ。漆黒のプレートメイルをまとい、その上に白の外套を羽織っている。背中には大きな両手持ちの剣を背負っていた。
ギルテアの隣を歩く女はリステア。こちらも同じ色の金髪の美女だ。こちらは白いレザーアーマーを身につけ、その上に黒の外套を羽織っている。
年の頃は20半ばくらい、名前と同じく美しい顔もよく似ていた。男女の別を差し引けば、鏡で映したかのように。
なぜなら2人は双子だから。
「姉さん、いい加減、やる気を出しなよ」
「……出るわけないじゃない? いくらネームドとは言え、ラルゴリンなんて雑魚の相手。そもそもなんでわたしたちなわけ? 組織の暗殺者にやらせればいいじゃない? 後ろからサクッて」
「ラルゴリンを刺すには『忍び足Lv5』がいるからね……」
そこまで取得している暗殺者は少ない。
おまけに――
「新兵器の試験が主眼だからさ、今回」
鉱石魔術レッドベリル――
モンスターの鉱石を触媒として放つ超高威力魔術。今までは理論と実験の領域にしかなかったが、ついに実戦投入の段階までこぎつけた。
「それが、もう、め・ん・ど・く・さ・ああああああああい!」
リステアが大声を上げた。
「百歩譲ってわたしたちで倒すとしても、あんな硬いだけのドン亀、正面からすりつぶせばいいでしょ!?」
「まあ、そうだね」
「なのに倒し方まで指定されたらやる気でませーん。BからC級の、炎系の鉱石を大量に集めて新魔術ぶっ放すとか……!」
「モンスターの鉱石は出にくいのがね」
ギルテアは小さく息を吐いて肩をすくめた。
ギルテアは腰ほどの高さまであるキャリーバッグをごろごろと転がしている。その中には組織――『商会』から渡された無数の鉱石が入っている。
すでにレッドベリル発動の最低条件は満たしているのだが、その威力は投入する鉱石の数によって決まる。
よって商会の責任者はギルテアたちに命じていた。
――現地でも鉱石を集めて最大の威力で実験するように。
仕事が増える末端の組織員としてはせつない限りだ。
リステアが口を開く。
「この辺だと炎虎ブレンネン・ティーゲルかな。雑魚雑魚。乱獲しちゃうか。絶滅させちゃおう」
「モンスターは瘴気からわくから絶滅しないけどね」
「わかってるわかってる。こう、気持ち的に? みたいな?」
リステアの調子はどこまでも軽い。天才肌がゆえだが、たまにその脇の甘さがギルテアには不安だ。
「……姉さん。『宵闇の光刃』も動いているんだ。あまり気は抜かないほうがいい」
「ふふん、そうね。確かにちょっと脅威かも……フルメンバーだったらね」
つまり、フルメンバーではない。
本来なら6人の光刃は諸用で別行動をとっていて、ラルゴリン討伐には半数の3人しか現れない――その情報をギルテアたちは商会から教えられている。
「3人じゃお話にならないわー。だって、わたしたちのほうが強いんだから!」
あははははははは! と笑いながらリステアが続ける。
「邪魔をするなら、この地が光刃の墓場になるだけよ」
ただの事実を口にして、リステアの口元はにやりと笑った。
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名前 :ギルテア
レベル:81(暗黒騎士)
攻撃力:1072(+870)黒竜グレートソード
防御力:667 (+630)黒竜プレートメイル
魔力 :667
スキル:暗黒の目覚め、両手持ち+、?
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名前 :リステア
レベル:81(怪盗)
攻撃力:910(+710/+780)白竜の杖剣、黒竜ダガー
防御力:657(+580) 白竜レザーアーマー
魔力 :839(+710) 白竜の杖剣
スキル:トリックスター、双剣術、?
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