第8話 イオスたちのレベリングDay(上)
この2ヶ月――
俺たちは経験値稼ぎに没頭した。
レベル3くらいまではF級モンスターを相手にしていたが、そこからはE層へとランクアップしたのだ。
さすがにレベル1桁でE級モンスターの経験値は強烈だ。レベルがもりもりと上がってしまう。
レベルが4になったときだった。
「にししし! 強打とっちゃおうかなー!」
などとミーシャがいきなり言い出した。
「強打……? 低レベルだと使えないぞ?」
「わたしもさ、使いたいんだよ! 必殺技みたいな感じで! 強打! って言いながら攻撃したい!」
そう言って、ミーシャは強打Lv1を取得した。
「で、イオスのほうは?」
「うーんと、俺はね――」
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Lv4の選択可能スキル 23:58
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回避機動Lv2
鍵開けLv5
気配探知Lv2
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「きた……鍵開けLv5」
そのものずばり、鍵をこじ開けるスキルだ。最大レベルなのでだいたいの鍵は開けられるだろう。
「きゃー、イオスがわたしの部屋に侵入してくるぅー!」
けらけら笑いながらミーシャが言う。
「便利でいいね! 取っちゃいなよ!」
俺は少し考えてからこう返した。
「……いや、ちょっと悩んでる……」
「どうして?」
「それほど使うケースがないんだよ」
普通の生活で鍵をこじ開ける必要がない。ダンジョン内も俺たちが進むような上層だと踏破済みなので閉じたドアがない。
未踏ダンジョンに挑むような猛者くらいしか使わないのだ。確か低レベルだと『鍵開け』を取らないのが斥候の育成の定石。
ミーシャが口を開く。
「でも他のスキルも微妙なんでしょ? だったら――」
「……ポイントに余裕があったらいいんだけど」
それも俺の悩みのタネだった。
まだ40ポイントしかない。戦士のときは貯めたポイントが200以上あったので有用スキルと判断したら取っていたが、今は貯めることも考えないと。
いらないものを取って、本当に欲しいスキルが取れないのでは困ってしまう。
「……流そう」
もったいないけど、流した。
そして、次にレベルが5に上がったときだ。
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Lv5の選択可能スキル 23:58
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速剣Lv3
足跡追跡Lv1
双剣術
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「速剣と双剣術か!」
思わずうなってしまった。
速剣は斥候版の『強打』。単純に攻撃力が上がるのが嬉しい。
双剣術は右手と左手で武器を持って戦うときに補正をかけてくれるスキルだ。
これは、さすがに流す選択はできない。
「双剣術! 双剣術! 男のロマンだよ!」
ミーシャが興奮気味に言った。
「……まあ、男のロマンなのは事実だな」
などと受けつつ、俺はあっさりこう結論をくだした。
「速剣Lv3で」
「ええええええええええええええええええええええ!」
ミーシャが抗議の声を上げる。
「な、なんで!? 双剣だよ!? カッコいいよ!?」
「確かにカッコいいんだけど……双剣スタイル自体が……」
両手に1本ずつ武器を持つのは難しい。利き手じゃないほうの武器に強烈な攻撃力ダウン補正が入るのだ。
双剣術があれば攻撃力ダウンが緩和されるのだが――正直、双剣スタイルにするくらいなら普通に盾を持ったほうが安定する。
双剣術を取っている斥候は『ちょっとアレ』と思われがちだ。
そんな現実的な俺にミーシャがこう言った。
「夢とロマンがないよ、イオス!?」
「貴重なスキルポイントの前には夢とロマンなんて関係ないのさ」
夢のないことを言って、俺は『速剣Lv3』を取得した。
そもそも、双剣スタイルという特殊な状況でしか活用できないスキルより、いつでも使える速剣のほうが便利に決まっている。
速剣と強打――
これからの俺を支えてくれる2本の矛だ。
さらに俺のレベルアップは続き――
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Lv6の選択可能スキル 23:59
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双剣術
忍び足Lv5
罠探知Lv2
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……また双剣術!
俺の心はロマンを求めているのだろうか――というのは横に置いておいて。
「忍び足Lv5が出たぞ」
「おおー!」
ミーシャは手をぱちぱちと叩きながら、こう言った。
「鍵開けは流したから、これもスルー?」
「いや……取ろうかと思っている」
「ふぅん、どうして?」
「初志は貫徹するべきかなと思ってさ。俺たちがここでレベルアップしている理由は?」
「ネームドモンスター氷の衛士ラルゴリンと人気パーティー『宵闇の光刃』を見るためだよね?」
「そうだ。そして――あわよくばラルゴリンを倒す」
普通なら手が出ないモンスターだが、ラルゴリンは後背に弱点を抱えていて暗殺者の『バックスタブ』が決まれば勝てる。
それを決めるためには、足音を立てずに近づく『忍び足』が必要なのだ。
「それに、この忍び足Lv5自体は戦士でも有用なんだよ」
「そうなの?」
「忍び足そのものの性能はLv4と変わらないんだけど『金属鎧でも音を立てない』のと『極端な悪地形でも平地と変わらない』効果があるんだ」
なので、実は本職の斥候はあまりLv5を取らない。
金属鎧を着ることがないからだ。極端な悪地形で忍び足をすることも少ない。
だが、俺の場合は違う。
戦士で忍び足を使うことができるようになる。金属鎧の音を殺すことができるのは大きなメリットだ。
「よし、とってみよう」
というわけで、俺は忍び足Lv5を取得した。
「ねえねえ! 忍び足してみてよ!」
「わかった」
俺は『忍び足』してみた。
……うわ……。
今まで足が地面につくたびに鈍い音を立てていたが、それがまったくない。俺、いるの!? というくらい音がしない。草地へ入っても同じだ。草を踏む音が消えている。
本当に幽霊みたいな気分だ……。
「すっごーい!」
ミーシャが声を上げる。
「ねえねえ、イオス!」
「うん?」
「キモい! にしし!」
「キモいって言うな!」
……まあ、俺も実は、ちょっとキモいと思ってるんだけど……。
だが、これはかなり有用だと思う。金属鎧の音まで殺せるとなると使える範囲が広い。
よし、気を取り直してレベルアップに励むぞ!
次のレベル7ではスキル取得をスキップして――
レベルが8になったときのことだ。
「きた」
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Lv8の選択可能スキル 23:59
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双剣術
暗殺術
気配探知Lv1
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