第5話 イオスは斥候レベルが2になった!
俺とミーシャは連日のようにF級モンスター相手に経験値稼ぎをしていた。
俺たちのレベルは1。F級モンスターといえども経験値は多い。
だが、ピプタットのときほど効率はよくないのだけど。
理由は――
「えい!」
ミーシャの一撃がゴブリンを斬り伏せる。その横で俺は別のゴブリンを『ただのブロードソード』で倒した。
そう、ミーシャを戦わせるためだ。
俺が魔狼ブロードソードで戦うと一瞬で終わってしまうため、装備を弱くしている。
……一応、何かあったときのために魔狼ブロードソードは持ち歩いているけど。
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名前 :イオス
レベル:1(斥候)
攻撃力:109(+100)ブロードソード
防御力: 96(+425)暴牛レザーアーマー、大緑鱗スケイルシールド
魔力 :117
スキル:シュレディンガーの猫、剣聖、ウォークライ、強打Lv3、闘志Lv3
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「ごめんねー、イオス。レベリングが遅くなってさ」
「別にいいよ」
俺は笑って首を振った。
「こういうのもいいんじゃないか? 楽しくていいよ」
作業って感じじゃないのがいい。立ち回りとか戦士としてのアドバイスをミーシャにできるのは純粋に楽しい。
「にししし! そうだね」
それに、それほど効率が悪いわけでもない。
理由は俺のスキルにある。
俺の素の攻撃力はわずか209とミーシャ以下だが、スキル剣聖と闘志Lv3のおかげで351まで上がっている。
「そうだ、ミーシャ。魔術は使わないの?」
俺の戦士スキルが使えるように、ミーシャの魔術師スキルも使えるはずなのだが。
魔術を使いながら戦う戦士――
カッコいい!
「あー、それね……実は使えないんだよね」
「使えない?」
「ほら、魔術師の杖あるでしょ? あれがないとね」
「え、そうなの?」
確か戦士に転職したとき、ミーシャの杖は装備不能になっていた。
「となると、戦士って魔術が使えないわけ?」
「うーんとね、魔術師の高位スキルに『焦点具不要』ってのがあるんだよね。それをとると杖がなくても大丈夫になる」
「ほー」
「微妙なスキルって言われてるんだけどね。魔術師は杖持っていればいいし、他の職業がとるには高位すぎて無理だし。だけど――」
「俺のシュレディンガーの猫なら話は別か」
「そう!」
指をびしっと俺に向けてミーシャが言う。
「そいつをとれば、魔術を使って戦える華麗な戦士の誕生だ!」
カッコよすぎるな……。
次の転職先は魔術師にしようかな……。
いやー……シュレディンガーの猫すごいな……普通じゃできない職業の連鎖が簡単にできて面白い。夢が広がりすぎる。
というわけで、必要なのは地道なレベルアップだ。
まずは斥候を頑張ろう。
スキル暗殺術を狙うぞ!
というわけで次のゴブリン3匹を倒したとき――
「お、レベルアップした」
俺たちは晴れてレベル2になった。
広げた俺の手にミーシャがぱぁん! と手を打ち鳴らす。
「やったねー! シュレディンガーの猫で出たスキルは?」
映し出された光景は――
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Lv2の選択可能スキル 23:59
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暗殺術
速剣Lv2
回避機動Lv1
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「ぶふぉ」
俺は思わず変な声を出してしまった。
「暗殺術と速剣Lv2と回避機動Lv1……だな……」
まさかいきなり狙っていた『暗殺術』が出てくるとは……。
俺の想いがスキルを引き寄せるらしいから、それほど変ではないのだけど……。
「えええええええ!」
ミーシャが大きな声を上げる。
「すごいじゃーん、やったじゃーん! とるっきゃない!」
「……い、いや……とれない……」
「どうして?」
「俺はレベル2でスキルポイントが20しかないから……」
残念ながら、暗殺術をとるにはポイントが足りない……。
なんてこったあああああああああ!
「出るのが早すぎる!」
「あっはっはっはっはっは!」
俺のそんな惨状を見て、ミーシャが大笑いする。
「イオスの想いが強すぎたね! 暗殺術ほしー暗殺術ほしー! 今はまだもうちょっと気持ちを弱めないとダメなんじゃない?」
「ホントね。ホントそうだよね」
そこまで欲しいって思ってたんだ、俺……。
まあ、欲しいことは欲しいんだけど。
なんだかもったいないことしたな。
ミーシャが口を開く。
「で、他のスキルはどうなの?」
「うーん、他のは最大レベルじゃないしね……。別にとらなくてもいいかな……」
まだレベルは2だ。上がる余地はある。焦らなくてもいいだろう。
と言うか、ここで下手に使ってしまうと、また暗殺術が出てきたときにポイントが足りないと困る。
今は温存のときだろう。
俺はスキル選択をキャンセルした。
「ま、次の機会があるさ」
場所を移動しようかと振り返ると――
日だまりで身体を丸めているニャンコロモチが眠たげにあくびをしていた。
お前はお気楽でいいな……。