第3話 そうだ、装備をととのえよう!
俺たちは街――フラストでもっとも大きい武具商店へと向かった。
その途中、俺はミーシャに尋ねる。
「ミーシャって冒険者学校じゃなくてピプタット魔術学院に通っていたんだよな?」
「そうだけど?」
「職業の訓練ってしたの?」
冒険者学校では『冒険者としての基礎訓練』をおこなう。
それにより全基礎職業の基本を学ぶのだ。戦士の俺だが、魔術の基礎は勉強していたりする。
そのおかげで転職ができるのだが。
ミーシャが答えた。
「もちろん、してるよ? 剣とか、ちゃんと練習したよ」
ぶんぶんとミーシャが武器を振る仕草をする。
意外だった。
「魔術学院でそんなことしてるの?」
「冒険者用のコースがあってね。それをとっていたの」
「魔術学院にそんなコースが……」
「……まあ、ピプタット魔術学院でそんな人も珍しいから、あんまり人はいなかったけどね……」
三角帽子を触りながら、ミーシャが照れたように笑う。
「ミーシャはどうして冒険者用のコースなんてとっていたんだ?」
ピプタットでの話を総合すると、かなり教授からの覚えもめでたい優秀な生徒のようだが。
ミーシャが答える。
「そりゃ、昔から冒険者って面白そうだなーって思っていたからさ」
「で、なってみてどうだった?」
「うーん……前のパーティーのときは微妙だったけど――」
そこで一気に声を跳ね上げてミーシャが続ける。
「今は面白いね!」
にししし! とミーシャが笑った。
「イオスのおかげで楽しいよ! 冒険者になってよかった! ありがとね!」
「はは、そう言われると嬉しいな」
少し照れた感じで俺は応じた。
いや、実際に照れたのだが。まさかいきなり礼を言われるとは思っていなかったからな……。
そんな会話をしながらラバスト武具商店までやってきた。
「いらっしゃいませ」
出てきた店員に会釈して、俺たちは店を物色した。
「おお~! ……剣やら斧やら槍やらがいっぱいだね……!」
興奮した様子でミーシャが並べられた武器を見つめている。
「ミーシャに俺の装備を貸せればいいんだけどな……」
残念ながらそれはできない。
モンスターの鉱石で作成した装備には『血判』をおこなう。つまり、所有者の登録だ。俺の武具は俺しか使えない。
ミーシャが俺に振り返った。
「イオスはどの装備をそのまま使うの?」
「魔狼ブロードソードと大緑鱗スケイルシールドはそのままだな。鎧だけは別のを買おうかな」
速さが信条の斥候は金属鎧を装備できないのだ。
レザーアーマーか。
問題はどれくらい高性能なものを買うかだ。今回もレベリングは加速させたい。ならいい装備を買うか。
「ミーシャは何を買うの?」
「うーん……」
ミーシャは頭をかいた後、
「武器と盾は買わないとダメだけど――」
ローブの襟元を引っ張ってこう続けた。
「このローブ、どうしようね?」
トロルの鉱石で造ったD級装備だ。ローブといえど防御力は高い。量産品のプレートメイルなど比べものにならないだろう。
ちなみに、ローブであろうと革の鎧だろうとモンスターの装備を造るには『モンスターの鉱石』を使う。
金属じゃないのに?
どこに使うの?
という感じだが、粉々に砕いた鉱石を特殊な液体に溶かし、武具の素材となる布や革に染み込ませたりするらしい。
……俺も鍛冶職人ではないので詳しくは知らないが。
「ローブで戦う戦士も悪くはないと思うけど――せっかく転職するんだ、戦士っぽい装備にしたらどうだい?」
「だよねー!」
嬉しそうにミーシャがうなずく。
……それから、あーだこーだと悩んでミーシャの装備が決まった。
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名前 :ミーシャ
レベル:1(戦士)
攻撃力:110(+150) 高性能なブロードソード
防御力:107(+160) 高性能なプレートメイル/高性能なラージシールド
魔力 :105(+0)
スキル:4大を統べしもの、魔術(水)Lv1、魔術(火)Lv1、魔術(風)Lv1、魔術(地)Lv1、魔術(無)Lv1、魔力回復Lv1
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斧はやっぱりやめたらしい。
ガチガチの鎧に身を固めたミーシャは、いつもの三角帽子も取り払っているので同じ人物には見えない。
着慣れていない感じでそわそわしているミーシャを見ていると、なんだかおかしくなってくる。
「気分はどう?」
「ううう……なんだかあちこちがこそばゆい……」
ミーシャはそう言って照れたように笑った。
装備は高性能系でまとめた。レベル1の戦士にしては破格の装備なのは間違いないのだが――
「もうちょっと上でもよかったんじゃ?」
俺たちは結構な金持ちなんだから。
ミーシャは首をひねる。
「うーん……でも、戦士装備ってかさばるから、ここでのレベリングが終わったら売ろうと思ってるんだよね」
「なるほど」
「必要になればまた買い直せばいいからさ、そんな大層なものはいらないかな」
それはそれで一理ある。が――
「そう言われると、俺もあんまり高いものは買えないなあ……」
「にししし! イオスは気にしなくていいよ! イオスが本気装備してくれるから、わたしが遊び装備にできるわけだし! 他の職業でも使い回すことを考えて買えばいいんじゃない?」
そうだな……。
俺は店員に話しかけた。
「すみません、B級装備のレザーアーマーはありますか?」
「B級のレザーですか――」
店員が俺を案内した先にはこげ茶色の頑丈そうな革の鎧が置かれていた。
「こちらは『暴牛レザーアーマー』となります」
暴牛。確か巨大な暴れ牛だったか。ちょっとした刺激で怒り狂い周囲を破壊し尽くすモンスターだ。
値段は一四〇〇万。
なかなか強烈な価格だが、将来のために払っておくとしよう。
「これをください」
俺のステータスはこうなった。
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名前 :イオス
レベル:1(斥候)
攻撃力:109(+510)魔狼ブロードソード
防御力: 96(+315)暴牛レザーアーマー
魔力 :117
スキル:シュレディンガーの猫、剣聖、ウォークライ、強打Lv3、闘志Lv3
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これに大緑鱗スケイルシールドが加わるので装備の防御力は+110を加えた+425になる。
……レベル1が使っていていい装備じゃないな、これ……。
まあ、さくさくレベルアップするための先行投資だ。気にしないでおこう。
こげ茶色の革鎧に身を包んだ俺を見て、ミーシャが口を開く。
「その装備も似合うね!」
「ありがとう」
装備を切り替えると心がわきたって仕方がない。
……とはいえ、今日は時間的に中途半端。もう休んで、明日から頑張るのが筋だろう。
「ミーシャ、明日はガンガンいこうな!」
「うん、もりもりレベルアップしよう!」
にっこりと笑って戦士ミーシャが返事をする。
こうして俺たちのレベリングが始まった。