第2話 そうだ、転職しよう!
俺たちは拠点となる宿を確保すると冒険者ギルドへと向かった。
理由は――
「うううう! わくわくするねぇ! 転職かあ!」
ミーシャが興奮気味に言った通りだ。
俺たちはこれから転職する。
スキルのつまみ食いができる俺はいろいろな職業を渡り歩きながら、優良スキルを拾い集めるのだ。
ミーシャに転職するメリットはないのだが、転職しないとレベル差の関係で俺とパーティーが組めなくなるためだ。
「……ごめんな、ミーシャ。つきあわせて」
「ええ!? 別に気にしないでいいって!」
にししし! とミーシャが笑う。
「それにね、わたしは結構ノリノリなんだからさ!」
「そうなの?」
「ずっと魔術師だったからね! 剣をぶんぶん振り回して暴れるの、すっごく楽しみなんだ!」
目をキラキラさせて物騒なことを言っている。
……まあ、気持ちはわかるが。
俺もスキル集めとか関係なしに少しわくわくしているのは事実だ。
「じゃあ、ミーシャは戦士なんだ?」
「そうだねー。防御系スキルでもとっておこうかなって。気休めにはなるでしょ?」
それからミーシャはこう続けた。
「本当は『神官』とかがいいんだろうけどねえ……」
「そうだなあ……」
俺とミーシャは同時にため息をついた。
回復魔法が使える神官はパーティーの要だ。いるのといないのとでは安心感が大きく変わる。
だけど、俺たちは神官に転職できない。
神官は『神への信仰』がなければダメだからだ。俺たちに信仰心は――
ミーシャが妙な節をつけてこんなことを言い出した。
「あなたはぁ、神さまをぉ、信じますかぁ?」
「信じてないな……ミーシャは?」
「信じてないねぇ……にししし!」
というわけで、俺たちに神官になる資格はない。
「イオスはさ、やっぱり斥候になるの?」
「そうだな。暗殺者のスキルをとりたい」
斥候の上位職、暗殺者。短剣のエキスパートだ。短剣も『剣』なのでスキル『剣聖』と相乗効果がある。
おまけに、その意志はさっきの話でより強固になった。
ネームドモンスター、氷の衛士ラルゴリン。
――背中に『バックスタブ』を叩き込むと一撃で倒せたことがあるらしい。
バックスタブは暗殺者スキルのひとつ。
……俺にもラルゴリン狩りのチャンスがあるかもしれない。
そんな話をしつつ、俺たちは冒険者ギルドにたどり着いた。
カウンターに向かい、受付嬢に話しかける。
「転職したいんですけど」
「転職ですね。それでは五万ゴールドお支払いください」
……お金かかるんだ。
支払いを済ませると、
「それでは冒険者カードを」
と言って受付嬢が手を差し出してきた。
冒険者カードは氏名やランクの書かれたカードである。ギルドで手続きをするときは何かと求められる。
出すときにひやりとした。
あれ……俺の職業って剣聖だけど、まさかカードに書いていたりしないだろうな……?
D級冒険者で剣聖とか前代未聞である。
おそるおそる目を向けると、職業欄には『戦士』とだけ書かれていた。
おそらく、この欄には基礎職までしか表示されないのだろう。剣聖――上位職への転職はギルドを通さずにできる。なので、ギルド側としては把握できないのだ。
「確かに受け取りました」
受付嬢は淡々と受け答えると、俺のカードをカウンターにある機材へと差し込んだ。
「イオスさま、どの職業を希望されますか?」
「斥候でお願いします」
「承知いたしました」
言うなり、受付嬢が機材の画面を操作した。
直後、俺は身体に異変を覚えた。己の身体を包んでいた『強さ』がほどけていく感じというか。まとっていた透明な鎧が消えていく感じというか。
なんとも心細い感覚に襲われる。
これが転職――今まで培っていた力を失うということか。
受付嬢がカードを引き抜き、俺に差し出した。
「カードとステータスをご確認ください、イオスさま」
受け取ったカードを見ると、職業欄には確かに『斥候』と書かれていた。
ステータス欄も確認する。
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名前 :イオス
レベル:1(斥候)
攻撃力:109(+510)魔狼ブロードソード
防御力:96
魔力 :117
スキル:シュレディンガーの猫、剣聖、ウォークライ、強打Lv3、闘志Lv3
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確かに斥候に変わっていた。
レベルも1だ。
……レベル1。戦士だけは冒険者学校でレベル10まで上げて卒業している。なので、とてもなつかしい感覚だ。
続いてミーシャが転職した。
「戦士でお願いします!」
かくして戦士ミーシャが出現した。
……見てくれは魔術師のままだから何も変わっていないけど……。
だが、ステータスを確認していたミーシャが、
「んん!? んんんん!?」
と変な声をあげている。
「どうしたんだ?」
「あのね、杖の色が灰色になってる!?」
「杖?」
ステータスの装備欄のことだろう。俺は魔狼ブロードソードだけを持ち歩いているが――その色はいつもと変わらない。
「装備で上がっていた数値も0になってるよー……」
そこへ受付嬢が割り込んできた。
「あの、お客さま。魔術師の杖は戦士だと装備できません。だからではないでしょうか?」
「にし!? そうなの!?」
なるほど、装備できないものだと灰色表記で数値の補正もなくなってしまうのか……。
おそらく、ミーシャのステータスはこんな感じだろう。
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名前 :ミーシャ
レベル:1(戦士)
攻撃力:110(+0) 凶妖精スタッフ
防御力:107(+140)凶妖精ローブ
魔力 :105(+0) 凶妖精スタッフ
スキル:4大を統べしもの、魔術(水)Lv1、魔術(火)Lv1、魔術(風)Lv1、魔術(地)Lv1、魔術(無)Lv1、魔力回復Lv1
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俺はミーシャに言う。
「どっちみち装備は買い換えなきゃいけないんだ。今から見にいこうじゃないか」
「ああ、そうだね!」
一瞬で立ち直ったミーシャが愛想よく応じる。
「行こう行こう! 斧にしよっかなー、どうしよっかなー!」
「え、斧なの?」
俺たちはギルドを出て武具屋へと向かった。