戦い終わって
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山羊頭を倒した俺は休憩してからダンジョンを出て冒険者ギルドに向かった。
戦利品を売るついでに俺たちは山羊頭のことを報告した。
今までD層で見たことがない、博学なミーシャすら知らないモンスターだ。伝える価値はあるだろう。
先のエリアボス撃破の件で信頼度が上がっているのだろうか、ギルドの担当者は真剣に話を聞いてくれた。
「……わかりました。すぐ調査いたします」
それからしばらく、俺たちは宿でごろごろして過ごした。
最後こそ剣聖パワーで一気にまくったが、山羊頭との死闘で受けたダメージはとても無視できないものだった。
そうやって過ごしていると――
「お時間よろしいでしょうか」
ギルド職員が俺たちを訪ねてきた。
先日の山羊頭について判明したことを報告しに来てくれたらしい。なかなか律儀なことだ。
俺たちが戦った近くに隠し部屋があったらしく、山羊頭はその奥に封印されていたモンスターらしい。
「棺に書かれていた文字はまだ解読できていないのですが、攻撃力は1100、防御力は850だそうです」
……B級くらいだろうか。
それは確かに戦士時代の俺だと苦労するな……。
「封印されていたってことは誰かが目覚めさせたってこと?」
尋ねるミーシャに職員がうなずいた。
「そうです。財宝があるかと思っていたそうですが――すいません、名前はお話しできません。ご了承ください」
「あ、いや、まあ、それは別に」
俺はそう応えた。
その誰それさんも悪気があってしたわけではないのだろう……。ダンジョンで起こったことはお互いさま。仕方がないことだ。
「その誰かさんは無事だったんですか?」
「ええ。命に別状は」
そうか、それはよかった。
俺たちに報告を終えるとギルド職員が俺たちに頭を下げる。
「エリアボスに引き続いて――明らかにD層にいていいモンスターではありません。イオスさんたちがいなければ甚大な被害が出ていたでしょう。ありがとうございました」
「はは……いえ、大丈夫ですよ」
ギルド職員を見送った後、黙って立っている俺をミーシャが肘でつっつく。
「もしもーし? どうしたの?」
「ん? ああ……」
俺は頬をぽりぽりとかいて続けた。
「いやね、俺もこうやってギルド職員に感謝される――他の冒険者に貢献できる立場になったんだなーって」
「たいした大物ですねー、うりうり! うりうり!」
「おいおい、やめろよ」
俺は苦笑しながらミーシャのぐりぐり攻撃から逃げた。
気分がよくなった俺たちは、久しぶりに酒場に出かけて祝杯を挙げた。
「ギルドの英雄になったイオス大先生に!」
ジョッキを掲げながらミーシャが叫ぶ。
「……いやいや、言い過ぎだから。そうだな、今日の気分は……お世話になったピプタットに、かな」
「ははは! そうだね!」
俺とミーシャはジョッキをぶつけた。
ピプタットを出る――その方針は変わらない。
どうせまた戻ってくるとは思うけど、戻ってこなかったとしても俺はピプタットを忘れることはないだろう。
俺の人生の転換点はここなのだ。
落ち込んでいた俺はここで運命の上昇気流に乗れた。その鮮烈な日々は俺のなかで永遠に色あせることはない。
絶望のすべてを希望に塗り替えてくれたのがここだ。
間もなく俺たちはそのピプタットを離れて新しい世界へと旅立つ。胸躍る新しい何かを求めて。
だから、俺は小さい声でこうつぶやいた。
「ばいばい、ピプタット。ありがとう――」
翌日。
しこたま酒を呑んだ俺は昼過ぎに目を覚ました。がっつり暴飲暴食したおかげでまったく腹が減っていない。
「さて、日課をこなすか……」
俺は背伸びしながらつぶやいた。
日課――錬金の石集めだ。なんとなく習慣になっていて、1日1回は必ず行くようにしている。散歩の延長だ。
俺は手早く剣と鎧を身につける。
剣と鎧と言ってもB級装備ではなく、俺がピプタットに来た当時に身につけていた普通のブロードソードにチェインメイルだ。
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名前 :イオス
レベル:27(剣聖)
攻撃力:451(+100)ブロードソード
防御力:316(+100)バックラー/チェインメイル
魔力 :262
スキル:シュレディンガーの猫、剣聖、ウォークライ、強打Lv3、闘志Lv3
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単にF層をごりごりの装備で歩くのが恥ずかしいからなのだが。あの辺は駆け出し御用達なので……。
テーブル類の小物を腰に下げたポーチに入れていく。
そのとき――
俺はテーブルにある黒いコインをつまみ上げた。
山羊頭が消失した後に残っていたものだ。
『固定アイテムドロップのためシュレディンガーの猫は発動しませんでした』
というメッセージを受け取ったので、山羊頭を倒すとこれしか出ないのだろう。
これがなんなのか……よくわからない。
冒険者ギルドで鑑定してみたがよくわからないと言われ、ミーシャのつてを使ってピプタット魔術学院で調べてみたが――
「わからないんだってさ。材質も含めて」
と、昨日ミーシャに返された。
「学院的には面白いから売って欲しいそうだよ」
「……うーん……考えておくよ」
売ってくれって言われても、正体不明だから値段もつけられないしなあ……
ぴーんと指で弾いたコインをキャッチする。そのままポケットに入れて俺は部屋を出た。
ダンジョンに降り、俺はグレイゴーストを叩っ切る。
おお! 剣聖スキルのブーストがあるのでいつもより剣の通りがすこぶるいいな!
ころんと落ちた魔石と錬金の石をゲットした。
……この錬金の石にもお世話になったな……なにげにこいつが手に入らなければ金策面はかなり苦労しただろう。
感謝の気持ちを込めながら俺は石をポケットに入れた。
そのとき――
「……おい、お前……まさか、イオスか?」
急に声を掛けられて俺はびくりとした。
いや、違う。急に声を掛けられたからではない。俺がびくりと震えたのは――
その声に覚えがあったからだ。
まるで冷たい手で心臓が握られたかのような感覚に陥る。
振り返ると、そこには。
「イィィィィィオオオオオオス! 久しぶりだなあああ!」
俺の幼馴染み――俺を捨てた幼馴染み。
「グレイル……!」
俺の口から音がこぼれる。
剣術スキルを持った戦士グレイルがそこに立っていた。
まるで獲物を見つけた肉食獣のような笑みを浮かべて。
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名前 :グレイル
レベル:16(戦士)
攻撃力:260(+150)高品質なブロードソード
防御力:212(+125)へこんだ高品質なラージシールド/チェインメイル
魔力 :180
スキル:剣術
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