4大を統べしもの――第一門、開放(上)
俺の通常攻撃は敵に少しだけ通る。
スキル強打Lv3を乗せれば一定のダメージが通る。
つまり、強打Lv3が軸になるわけだが――
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強打Lv3
効果時間 :攻撃時
リキャスト:1分
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・発動時、攻撃力+5%
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問題はリキャスト時間だ。
このスキルは1分に1度しか使えない。なので基本的には「ない」前提で戦うことになる。
強打を乗せても硬いこの相手に――
おまけに。
ゴッ!
山羊頭のこぶしを俺は大緑鱗スケイルシールドで受け止める。盾を突き抜けて伝わってくる衝撃はとんでもないものだ。
トロルどころかジャイアント・リザードマンよりもはるかに強い。
こいつの攻撃力、1000を超えているんじゃないのか……? 俺の防御力は722。直撃だけは避けたいところだ。
スキル『ウォークライ』がリキャスト待機中なのも逆風だ。わずか5分とはいえ攻撃力と防御力に+20%の上昇をもたらすスペックは今こそ輝くのに。
あいにく少し前に使って今は使えない状態だ。まさかこんな事態になるとは思っていなかったからな……。
リキャストまでもう少しなのだが。果たして間に合うだろうか。
間違いなく俺ひとりではとても倒せない敵だ。
だけど今の俺には仲間がいる。
俺に山羊頭が追撃しようとしたとき――
「にゃん!」
ニャンコロモチが横合いから山羊頭を殴る。
あまり効いてはいないようにも見えるが、それでも山羊頭は確かによろめいた。
「ハードボディ! エンチャントパワー!」
攻撃魔術の効果が弱いと見るや、ミーシャは補助魔術を発動。
いずれも防御力と攻撃力に固定+10の効果を与えてくれる。
そう、俺はひとりじゃないんだ!
俺は山羊頭を攻め立てた。そして――
「強打!」
リキャスト可能となった強打を発動、山羊頭にダメージを与える。
怒った山羊頭が腕を振るう。それを俺は盾で受け流す。悪くない。力は強いが――攻撃は単調。
「少しずつだ! 少しずつ押し込もう!」
俺は叫んだ。
いける、俺たちの間にそんなささやかな昂揚が生まれる。
だが――
敵はそんな緩い展開を許さないようだった。
山羊頭が吠える。
その瞬間、山羊頭を中心に衝撃波が発生した。
「くお!?」
それはたいして強いものではなかったが、俺とニャンコロモチを後ろに押し戻すには充分な威力だった。
間髪いれず――
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
山羊頭が吠える。
瞬間、山羊頭の足下に闇色に輝く魔術陣が浮かび上がった。
……な、なんだ!?
魔術陣から黒いかたまりが出現した。
それは2匹の――ライオンほども大きい狼だった。
ヤバい!? 敵の数が増えただと!?
狼たちは召喚者である山羊頭と同じく漆黒の毛皮に包まれていて瞳が赤く染まっている。
「グガアアアアアアアアアアアアア!」
雄叫びを上げた狼たちが俺たちに襲いかかってきた。
「ニャンコロモチ! あっちは任せたぞ!」
俺はそう叫ぶと一体を迎撃する。
俺目がけて飛びかかったきた狼を大緑鱗スケイルシールドで受け止める。
ごっ、という鈍い音がして。
俺は盾越しから伝わる衝撃に顔をしかめる。
だが、大丈夫だ。
それほどの強さではない。山羊頭に比べればはるかにマシ、せいぜいトロルより少し強いくらいだ。
これならば!
俺は踏み込んで剣を振り下ろす。
刃も通る! 防御力もトロルとあまり変わらない。
つまりはD級相当のモンスター。それなら苦戦する相手ではない。
恐れることなど――!
「ファイアアロー! ファイアアロー! ファイアアロー!」
ミーシャの放った炎の矢立て続けに俺の前にいる狼に突き刺さる。
狼がのけぞった瞬間、俺の一撃がとどめを刺した。
狼は悲鳴を上げるとどさりと倒れて――
その身体はまるで霧のようにかき消えた。
よし!
……戦利品を回収できないのは残念だけど……。
隣を見ると、ニャンコロモチが狼と戦っている。こちらも優勢に進めているようだが――助けにいかなければ!
そのとき、
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
再び山羊頭が吠える。
「な――!?」
さっきの映像が再び繰り返される。山羊頭の足下に浮かび上がった魔術陣から再び2匹の狼が現れたのだ。
まずい――!
まだ1匹残っている。つまり、今度は3匹を相手にしないといけない。前衛の数は俺とニャンコロモチの2枚しかいない。
ミーシャが危ない――!
「下がるぞ、ニャンコロモチ!」
言うなり、俺はミーシャの前まで後退する。
ニャンコロモチも今まで戦っていた狼をぶん殴った後、俺の横まで戻ってきた。
ミーシャは魔術師だ。
俺のようなハイランク装備を身につけているわけでもない。
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名前 :ミーシャ
レベル:26(魔術師)
攻撃力:230(+100)凶妖精スタッフ
防御力:230(+200)凶妖精ローブ
魔力 :360(+320)凶妖精スタッフ
スキル:4大を統べしもの、魔術(水)Lv1、魔術(火)Lv1、魔術(風)Lv1、魔術(地)Lv1、魔術(無)Lv1、魔力回復Lv1
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凶妖精――トロルの戦利品がたくさん手に入ったので、それを使って作ったD級装備で固めている。
だが、この防御力で格上を相手にするのは危険だ。
ニャンコロモチを追ってきた2匹目を俺たちは倒す。あっという間に次の2匹が俺たちに押し寄せる。
また振り出しか――!
残念だが、振り出しどころの話ではなかった。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
さらに山羊頭が吠える。
3組目の狼たちが出現した。
……まずい!
4匹の狼を相手にするだなんて――
それにこれからも次々と狼は召喚されるだろう。このままだとじり貧だ。
そのとき、
「イオス、ありがとね」
後ろからミーシャの言葉が聞こえる。
「やっぱり君はわたしが困ったら助けにきてくれるね」
その言葉は――
俺に昔の記憶を呼び覚ました。
――君はわたしがモンスターに襲われたらいつも一番に駆けつけてくれるよね? わたしは一緒に組むなら、そんな優しさを持っている仲間がいいんだ!
俺についてきてくれたミーシャの言葉を。
「そうだな。俺はいつだってミーシャを守るよ」
「にししし! こういうのは悪くないよね、でも! 守ってもらってばっかりってのもダメなんだな!」
ミーシャはこう続けた。
「イオス、時間を稼いでよ」
そして、高らかに宣言する。
「ここが奥の手の使いどきだろうからさ!」
「……奥の手?」
「4大を開放する」
「――!」
4大――その言葉を聞いた瞬間、俺はそれが何を意味しているのかすぐさま理解した。
ミーシャが持つスキル『4大を統べしもの』のことだろう。
それが強烈な効果を持つユニークスキルだというのは噂程度に知っていたが、今までミーシャが行使したことはなかったのでそれ以上の情報を持っていなかった。
その力をミーシャが解き放つ――
「今まで出し惜しんでいたわけじゃなくてね……4大の開放は地水火風の魔術の習得が条件なの。で、それをようやく満たしたの」
ミーシャが杖を両手で握った。
「準備には時間がかかる。お願い、その時間だけ頑張って」
「任せろ」
俺は力を込めてはっきりと言った。
「絶対に守り切ってみせる」
「頼むよ、相棒」
にやりと笑うと、すぐにミーシャは顔を引き締めた。
そして、朗々とした声で高らかに叫んだ。
「4大を統べしものミーシャより、彼方に住まうもの、見えざる果てに住まうもの、波と固のはざまに住まうもの――観測者に願い申す」
かん、と杖が地面をつく音。
「今ここに汝の秘めたる偉大なる力、4大の一端を開示されたし!」
直後、ミーシャの足下に光り輝く大きな魔術陣が展開される。
どこからだろう――
どこからか無機質な女性の声が響き渡った。
『レベル1解放者――個体識別U2Y367ARの請願を受領。これより天の宝錫インスタンスの起動シーケンスを開始します』
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