グレイル、暴れる
グレイルは殺意を込めた視線を優男に叩きつけた。
「なんだああああ! てめえはよおおおおお!? 関係ないやつは引っ込んでろ!」
「関係なくはないさ……パーティーの代表だからね。今のところ彼らは俺の仲間だ。見過ごすわけにはいかないよ」
「ちっ!」
グレイルは斥候を突き飛ばすと優男に向き直った。
「邪魔をするってことは覚悟できてんだろうなあ!?」
グレイルはむしゃくしゃしていた。誰でもいいからぼこぼこに殴ってやりたい気分だった。
「いいか? 俺は剣術スキル使いなんだよ。お前も戦士ならわかるよな? 剣術スキルを持つ意味が? 謝るんなら今のうちだぞ?」
グレイルは威圧しながら暗い気持ちに胸を躍らせていた。
剣術スキル――戦士としての到達点。多くの戦士の憧れ。
斥候たちと組んでいる以上、この優男のレベルもグレイルとそれほど変わらないはず。同じレベル帯の戦士を相手に剣術スキル持ちが負けることはない。
戦士ならわかっている話だ。だから、いつも他の戦士たちはグレイルに逆らえなかった。それがグレイルには気持ちがよかった。
(くくくく――お前も同じだ。恐怖で顔を青くしろ。震え上がれ。そしてごめんなさいと土下座しろ!)
だが、優男の反応はグレイルの予想と違った。
「謝る必要があるのかい?」
余裕の表情でそんなことを言う。
再びグレイルの思考が赤く染まった。
「余裕かましやがって! おい、俺は本気だぞ、勝負しろ!」
「やれやれ……血の気の多いやつだ……」
優男は苦笑してから、さらりと応じる。
「構わないよ」
戦いは決闘の手順に基づいておこなわれた。
決闘――それはただのケンカではない。お互いのリトリーバーを近づけて決闘の宣誓をしてからおこなうのだ。これをすることで互いに了承した戦いであることをリトリーバーに記録を残すのだ。
決闘の宣誓をした場合、それによって生じた損失をギルドに訴えてもギルドは決して関知しない。
決闘とはそういう手続きなのだ。
「ボコボコにしてやるからな――覚悟しろよ!」
グレイルは腰から鞘をつけたままの剣を引き抜く。本当は斬り殺してやりたいが、それを我慢する理性はグレイルにも残っていた。
「ははは、実に恐ろしいね」
男も鞘付きの剣を構える。
すでにこの時点でグレイルは勝利を確信していた。
(剣術持ちの俺に勝てるはずがねえだろうが!)
一瞬で勝負をつけてやる――
グレイルは猛然と男に襲いかかった。あまたのモンスターを屠った一撃を男へと振り下ろす。
(くらえ! これが攻撃力+100、攻撃力20%アップの力だ!)
男が反応し、その一撃を剣で受け止める。
しかし、攻撃力の差はいかんともしがたい。グレイルの一撃が一気に男の剣を弾――
「イギヒエエエエエアアアアアアアアアアアアアアア!?」
絶叫したのはグレイルだった。
剣から伝わってきた激痛に耐えきれず、グレイルはぶざまにすっころんで尻餅をつく。
「なな、なんだ、こりゃあ……!?」
「君に自慢の剣術スキルがあるように――俺にも自慢のスキルがあるんだよね」
優男がグレイルに剣を向ける。
その表面にばしりと白い火花が散った。
「大放電って珍しいスキルなんだけど――知ってる?」
優男の口元には勝利を確信した笑みが浮かんでいた。
「……何が大放電だ、クルアアアアアアアアアアアア!」
グレイルは立ち上がると再び優男に斬りかかる。
だが、その剣が優男の剣に触れた瞬間――
「アヒエエエエエエエエエアアアアアアア!?」
痛みにグレイルは身をよじらせた。
相手の剣に触れた瞬間、グレイルの剣越しに強烈な痛みが弾ける。
まるで雷に打たれたかのような――
「ははははは! 人の話は聞きたまえよ!」
優男がよろけたグレイルの腹を鞘に入った剣でひと打ちする。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
グレイルは苦悶の声を上げた。
グレイルも戦士だ。ちょっとの痛みでは悲鳴など上げない。だが、予想していないものは別だ。腹に差し込まれた痛みは鞘の一撃レベルではない。
まるで雷に打たれたかのような――
「て、てめえ……これは、なんだ?」
「おや? ようやく人の話を聞く気になったのかい?」
にやにやとした笑みを浮かべて優男が続ける。
「スキル大放電。俺の持っているユニークスキルさ。その名の通り、俺が触れたものに電撃を流し込む。つまり、俺の剣に触れると電撃を喰らうってわけだ」
電撃は金属を流れる。優男の剣をグレイルが剣で受ければ、剣から剣へと電撃が流れてグレイルを打ち据える。
つまり、グレイルは剣で相手の剣を受け止めることはできない――おまけに逆もまた許してはならない。
グレイルの剣を優男が受け止めても同じ結果になってしまう。
「……なんだよ、それは――なんだよ! それは!」
「これが本当に強スキルというものだよ。レベルさえ上げればとれる剣術ごときを自慢されてもね……」
はあとため息をついて男はこう続けた。
「剣術(笑)」
「ク、ク、ク、ク――」
グレイルは己の腹の底から声を吐き出した。
「クルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
怒りとともに勇気を呼び覚まし、グレイルは優男へと挑む。
さっきまでと同じ結末を――
グレイルはたどらなかった。
グレイルは学習した。男の剣が危険だと。ならば、その剣を避ければいい。避けて戦えばいい。
俺ならばできる!
剣術を持つ優秀な戦士である俺ならば!
グレイルの集中力は研ぎ澄まされていた。細心の注意と精密な立ち回りで男の剣をかわし続ける。
「へえ」
優男が感心した声をこぼす。
グレイルは得意になっていた。少しばかり引っ込んでいた全能感がまたむくむくと起き上がってくる。
優男が口を開いた。
「だけど、どうするんだい? そうやって逃げ続けても勝てないと思うけど?」
「うるせえんだよ!」
グレイルは取り合わない。こと戦闘において――本気で勝とうと冷静になったグレイルは間違いなく強者なのだ。
男の攻撃を避け続けたグレイルはついに隙を見いだした。
この瞬間を待っていた!
グレイルは踏み込み、鞘入りの剣を振るう。
「お前の敗因はたったひとつ! シンプルな答えだ!」
ぐつぐつと腹の底で煮えたぎる怒気とともにグレイルは叫ぶ。
「てめえは俺を怒らせたああああああ!」
鉄の鎧越しであろうと関係ない。剣術持ちの攻撃力でねじ伏せる!
すべてを打ち砕くグレイルの一撃が決まった瞬間――
「ハギョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
絶叫したのはグレイルだった。
悲鳴とともに倒れて、ごろごろと床を転がり続ける。
「あああああああああああ、あああああああああああ!」
グレイルには理解できなかった。
(なぜ!? どうして!? 勝ったはずなのに!? 俺の勝ちなのに!?)
そんなグレイルの疑念を吹き飛ばすように優男の高笑いが響いた。
「ちゃんと話を聞きたまえよ。俺の触れたものが対象なんだ。別に剣だけじゃあない」
優男は己の鎧をごんと叩く。
「鎧もだよ。鎧も帯電している」
そして、優雅な声色でこう続けた。
「つまり、最初から君に勝算はなかったってことだ」
グレイルくんが大変な状況ですが、空気を読まず――
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イィィィオオオオス! とイキリ顔なグレイルが挿絵に入るのかどうかが気になるところですね(笑)
ニャンコロモチと戯れるミーシャを見て癒やされたい……。
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書籍化おめでとう!
立て! 立つんだ、グレエエエエエエイル!
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