グレイル、追放される
7万ゴールドも安く『高品質のラージシールド(へこみあり)』を入手してから3ヶ月。
グレイルは鳴かず飛ばずの日々を過ごしていた。
Eランクにあがったものの、3人しかメンバーがいないためE層では戦えない。F層で地道にゴブリンを狩る日々が続く。
経験値の増加速度ががくんと減ってしまった。
(くそが……! 足踏みしてる時間はないってのによ!)
このままだと稼ぎの効率が悪すぎる。
グレイルは仕方なく他の少人数パーティーとお試しで合流してみたが、いつも1回か2回しか続かず正式に組もうとはならなかった。
「おい、グレイル!」
味方の斥候と神官がグレイルにこう言った。
「少しは我を抑えろ! お前は悪目立ちしすぎる!」
「あ?」
グレイルは不愉快な口調でそう言って斥候と神官を黙らせた。
(ふん、嫉妬だな……)
グレイルはそう結論づけた。
目立つのは当たり前なのだ。剣術という優遇スキルを神から与えられたのだから。
優秀すぎる俺が目立つのは仕方がない。
それを抑えろ?
無能なお前たちが働かないから頑張る俺の姿が目立つんだろうが!
俺を目立たせないくらい頑張れよな!
それがグレイルの達した結論だった。
その日から斥候と神官は休むことが多くなった。
(……ったく、あいつらめ! 無断で休みやがって! 能力もなければやる気もないのかよ!)
グレイルは内心で吐き捨てる。
(捨てちまうか、あいつら?)
ふと思いついたアイディアだが、意外と悪くないと思えた。
3人で売り込むよりは1人で売り込んだほうが入りやすい。おまけにグレイルは剣術スキルを持っている。欲しいというパーティーはいくらでもあるだろう。
あの2人はおまけだ。グレイルという大樹にしがみつく憐れな生き物。グレイルの優しさに養われていた使えない連中。
その恩を仇で返しやがって!
(……そうだな、よし、あいつらは見捨てよう。それがいい)
決めた。
本来であれば天才グレイルはもっと高く遠くへ飛んでいなければならないのだ。
それができないのはゴミとつるんでいるから。
世の中には足手まといが多すぎる。
すべてを捨て去ろう。
そして、剣術スキルと同じ格のスキルを持つ連中が在籍するパーティーに所属するのだ。
グレイルの不幸は格下の連中とパーティーを組んだことだ。
活躍すればねたまれ、やる気をなくされる。
うんざりだ。
低レベルな連中といるから低レベルな日々が続く。
(俺は俺の輝ける場所――最高の仲間がいる場所にいくんだ!)
気をよくしたグレイルは久しぶりにダンジョンへと向かった。
F層でザコをぼこぼこにしてうっぷんを晴らそう。そして、すべてを忘れて――あいつらに別れを告げるのだ。
(よぉし! 今日は厄払いだ! 暴れるぞ!)
その言葉どおり、グレイルはF層のモンスターを斬りまくった。
圧倒的な強さの誇示。
グレイルは己に酔っていた。
(ははははは! やっぱり俺は強い! 最強だ!)
そうやってダンジョンを練り歩いていると――
グレイルは目を疑うような光景にぶつかった。
(え、あいつら――!?)
パーティーメンバーの斥候と神官だ。
もちろん、2人が勝手にダンジョンに入っているのは別にいい。輝けるグレイルに比べれば役に立たない己のふがいなさを恥じ、こっそり鍛練したい気持ちもあるだろう。
だが――
(2人だけじゃない……!?)
それが問題だ。
2人の前を4人の冒険者たちが歩いている。
あわせて6人――パーティーとしての最適人数だ。
(……あいつら、まさか――!?)
グレイルは一瞬で我を忘れた。頭のなかが爆発してすべての思考が吹っ飛ぶ。
彼らは休んでいたのではない。
休んだと嘘をついて――他のパーティーに参加していたのだ。
グレイルを外して。
ダンジョンに入る前、グレイルは2人を見捨てようと考えていた。お互いさまなのだが、そんなことで納得するグレイルではない。
激怒。
憤怒。
マウントグレイルで怒りの噴火がボルケーノした。
「クルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
化鳥のような絶叫を上げながらグレイルは2人に走り寄る。
突然の絶叫に驚いた冒険者たちが振り返った。そのうち、斥候と神官の表情が、しまった! という感じでひきつる。
「お前らあああああ! これはどういうことだあ!?」
斥候と神官は困った様子で互いに顔を見合わせていたが、意を決して口を開いた。
「もうお前とは終わりだ、グレイル!」
「問題ばかり起こしているお前とは組めない!」
「てめえら!」
言ってやる! 言ってやる!
俺のほうからお前たちを追放してやる!
グレイルは興奮した口調でまくしたてた。
「てめえら、ついほ――!」
「「グレイル、お前は追放だ!」」
2人のほうが先に言った。
しかも、かぶっていた。
思いも寄らない反撃にグレイルの頭は真っ白になり――すぐ赤く染まった。
今まで支えてやったのに。俺のおかげでEランクにあげてやったのに。飼い犬に手を噛まれたとはこのことだ。
「俺たちは何度も注意したはずだ。お前の態度は問題――!」
「クルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
言いつのる斥候の言葉をかき消すようにグレイルは再び叫ぶ。あまりの大きさに斥候と神官以外の4人もびくりと身体を震わせた。
「俺のおこぼれで生きていた連中が文句を言ってるんじゃねえ!」
言うなり、グレイルは斥候の襟首をつかんだ。
「ふざけたことを言いやがって! 容赦しねえぞ、てめえ!」
「――やめないか。見るに堪えない」
そんな声が横から飛び込んでくる。
4人組のリーダーらしき若い優男が不快そうな目をグレイルに向けていた。
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