3000万の借金も返済完了!
それから2ヶ月がたち――
その日の昼、俺は泊まっている宿屋のベッドに寝転んでいた。
ベッドの下でニャンコロモチが干し肉を食べている。もちろん最高級品の干し肉だ。
ニャンコロモチの貢献を思えばこれくらい安いものだ。
「ニャンコロモチ、うまいか?」
俺が声を掛けてもニャンコロモチは答えない。俺を無視して黙々と干し肉を食べている。
……心なしか食べている最中の表情が満足そうなのは事実だが。
どうやら少しばかり幸せらしい。
俺はベッドから手を伸ばしてニャンコロモチの背中を撫でる。
さらさらとした毛並みが気持ちいい。
俺のことなどお構いなく、何の反応もせずにニャンコロモチは干し肉を食べ続けた。
そんなとき。
こん、こん。
と軽快なノックが響いた。
『イオス、いる?』
「いるよ。どうぞ」
ドアを開いてミーシャが入ってきた。
いつもならずかずかと部屋に入ってきて俺に話しかけてきたりニャンコロモチに抱きついたり騒々しいのだが、その日は違った。
静かな雰囲気を漂わせて入り口でたたずんでいる。
……その気分はわからないでもないけれど。
「終わった?」
俺が話を向けると、にししし! とミーシャが笑った。
「うん、終わった!」
「そうか……」
うんうんと俺はうなずき、言った。
「よかった」
終わったのだ。
借金返済が。俺たちの借りた3000万ゴールドの借金は利子も含めてきれいさっぱり返し終わった。
「たった5ヶ月か。早いものだな」
「学院の人たちもびっくりしてた」
モンスターの鉱石ブーストがすごかったからな……。
鉱石は8割で売ることになったのだが、あまり関係ない感じで金が貯まっていった。
8割で売った理由はピプタット魔術学院を通して売ってもらったからだ。錬金の石ほどではないが、個人がぽんぽんと手に入るものではない。冒険者ギルドに売り続けると怪しまれてしまう。
学院に頼んで複数の取り扱い先に売ってもらっているので2割を手数料として払ったのだ。
「外には出てみた?」
「まだだねー」
そこで照れたような表情を浮かべてからミーシャが続けた。
「これから行こうと思ってるんだけど、イオスも一緒にどう?」
「もちろん。ずっと待ってたんだよ」
俺がそう答えると、ミーシャはぱっと顔を明るくさせた。
「さっすが、イオスゥ! わかってるじゃーん!」
「おい、ニャンコロモチ。お前も行くよな?」
「にゃーん」
干し肉を食べ終わったニャンコロモチが気持ちよさそうに鳴く。
俺とミーシャ、それとニャンコロモチは宿を出てピプタットの外を目指した。
ピプタットは王国でも重要な拠点なので壁に囲まれている。
外部とつながっている門は開け放たれていて自由に人々が行き来していた。
「そいじゃまー、行きますかー」
「『強制』がかかったまま外に出るとどうなるの?」
「あー、身体が爆発するんだ」
それからミーシャは楽しげな声で――
「ひでぶっ!」
と変な悲鳴を上げた。
……爆発を表現したのだろうか……?
「本当に爆発するのか?」
「にししし! 冗談冗談。ペナルティにはいろいろあってね、前にこっそり街から出てみたんだよ」
「どうだったんだ?」
「頭痛だったね」
「頭痛?」
「なーんかちょっと頭痛いかなーみたいな感じだったんだけど、だんだん離れるにつれて、あ、これ本格的にダメだ、みたいになっちゃって慌てて戻った」
「大変だな」
「まあ、爆発しなかっただけマシさ♪」
ミーシャはほがらかに笑うと、
「行くぜ!」
と言って、すたすたと門の外へと歩き出した。俺とニャンコロモチも後からついていく。
門を越えた。
向こう側には建物はひとつもない。どこまでも広がる緑豊かな大地がずーっと先まで伸びている。
ピプタットに来たのは冬で今は春。心地よい日差しと風が気持ちよかった。
ミーシャはしばらく歩くと、くるくると楽しげに回り出す。
「あはははは! いいねいいね! 最高にハイってやつだあああ!」
「頭は大丈夫?」
「ひどい!?」
「いや……そういう意味じゃなくて――」
「もちろん、わかってますよぉーだ!」
ミーシャは足を止めると両手を広げて空を見上げた。
「いいね! 5ヶ月ぶりの外!」
確かに、少しばかり新鮮に見えた。
別に『強制』の魔術がなくても俺たちはピプタットにずっといただろう。
だけど、絶対に外に出るなと魔術で縛られるのと自由意志で動かないのでは気分が違う。
俺たちを縛るものは何もなくなったのだ。
広がる空のような開放感が俺たちの心を満たしていた。
「わ、た、たたたたたた!?」
変な声をあげて、ミーシャがばたんと草地に倒れた。くるくる回っていたのでバランスを崩したようだ。
とんだ三角帽子がふわりと流れて地面に落ちる。
「あいたたたた~……」
「浮かれすぎだろ」
俺はミーシャを見下ろしてそう言った。
ニャンコロモチが足取り軽く倒れたミーシャのお腹にぽんと乗る。
「おおお! ニャンコロちゃん! 慰めてくれるのかい~?」
ニャンコロモチの喉元を指ですりすりしながらミーシャが笑う。
ひとしきり落ち着いてから、寝転んだままミーシャが俺を見上げて問うた。
「ねえねえ、イオス。年収2億の男のイオスさん」
俺は吹き出した。
「いやいや、2億って。言い過ぎだろ」
「言いすぎじゃないんだな、これが!」
にししし! と笑ってからミーシャが続ける。
「鉱石を8割で売ったら1ヶ月の稼ぎが1700万だったじゃん? てことはさ、それを年収にすると?」
「12かけるから――」
……。
10をかけると1億7000万?
んんん?
それと、2をかけた3400万?
んんん?
足し合わせると――
…………。
…………。
…………。
「……2億400万!?」
冗談みたいな金額だ。
ミーシャと五分五分で分配しても1億――だと……?
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