グレイル、中古の高品質のラージシールドを手にしてご満悦
「ったく、クソどもが……!」
グレイルは不機嫌につぶやきながら、ピプタットの街並みを歩いていた。
念願のEランクには上がったものの、せっかく加入させた新入りの3人組が抜けてしまい戦力がダウンした。
おかげでE層で稼ぐには戦力が怪しい。またF層でこつこつ稼ぐ日々に逆戻りしてしまった。
(……あの3人組め……! 俺の剣術があったからEランクに上がれたってのによ! 恩を仇で返しやがって! 俺はランクを駆け上がる男なんだぞ! 時間を無駄にさせやがって!)
いらいらしたグレイルはミルマス武具商店へと足を向けた。
グレイルは戦士だ。
強い武器や防具を見ると胸が高鳴る。その武器や防具を身にまとって無双する姿を想像すると高揚感を覚える。
魔狼ブロードソードに青火鳥チェインメイル――
Bランク装備を身にまとって暴れたらどれだけ気持ちいいだろう!
もちろん、そんな夢が現実になるはずなどない。
だから、せめて夢想するのだ。
ストレスが溜まっていらいらしたときは高級な武器や防具を見て己の無限大に広がる可能性に想いをはせる。
(……そうだ! 俺はまだまだ強くなる! いい武器と防具を見て目を鍛えておかないとなあ!)
店へと入った。
「いらっしゃいませ」
どうせ買う気など最初からない。店員など相手にせずグレイルは店内をうろうろと歩いた。
強い武器。
強い防具。
その光景はグレイルを気持ちよくさせた。
そんなとき――
「ファブラス武具リサイクルでーす。『高品質なラージシールド』を引き取りに来たんですけどー」
カウンターあたりからそんな声が聞こえた。
「ん? 新入りさん? 困りますね。業者は裏口からどうぞ」
「ああ! すいません!」
慌てた様子で反応すると、業者の男が店から出ていく。
(おいおい、こりゃあ……)
グレイルは、にちゃああ……と笑うと男の背中を追いかけた。
男はミルマス武具商店の裏口でスタッフから一枚の盾を受け取っていた。
「まいどあり~」
そう言って、来た道を戻ろうとする男の前にグレイルが立ちはだかった。
「よう」
「あんた何者だ?」
「お前さ、今ここで高品質なラージシールドを引き取ったのか?」
男は担いでいたラージシールドにちらりと視線を送った後、ぶっきらぼうにこう答えた。
「……あんたには関係ない話だ」
そのままグレイルの横を通り過ぎようとしたが――
「いや! 関係なくはないね!」
グレイルは腕を差し出して男の進行を妨げる。
「……それよお、俺に売ってくれないか?」
「は!? どういう意味だ?」
驚きながらも男は足を止めてグレイルを見た。
その表情は険しいが――
(脈ありじゃねえか……!)
グレイルは内心で舌なめずりをする。
男は中古専門の武具を扱う店の人間なのだろう。ミルマス武具商店はピプタットでも一流店だ。扱う商品は新品のみ。客から引き取った中古品を扱うわけにはいかない。
よって、こういう形で外部の取引先に卸しているのだろう。
この男にしてみれば商品に利ざやをつけて右から左に流すだけ。在庫の処分は早いに越したことはない。
(高品質なラージシールド――新品なら15万ゴールドってとこか)
グレイルは一瞬で価格をはじき出した
「……そうだな。7万ゴールドってとこでどうだ?」
「はあ!? 7万!? 話にならないね! こいつは店頭で11万で売るつもりのものだ。どきな!」
「……そいつは11万で売れるものかな?」
「なんだと?」
「その盾――結構な激闘をくぐり抜けているのかな。あちこちがへこんでいるよな? 補強してもごまかしきれない。さすがにケチがつくと思うぜ?」
さらにグレイルは話を続ける。
「それに補修だ。売る以上はメンテナンスして品質保証もしないといけない。せいぜい売れて10万か? 経費はいくらだ?」
グレイルは男の肩にぽんと手を置いた。
「補強も補修もいらない。それを俺が7万で今すぐ買ってやろうって言ってるんだ。何もしなくて儲かる。楽な商売だな、ええ、おい?」
男はじっと考えているようだった。しばらくしてから、ぽつりとこうつぶやく。
「……8万なら」
「よぉし! 買った!」
グレイルは8万ゴールドを押しつけて高品質なラージシールドを奪い取る。
「……じゃあな。不具合があっても俺は知らないからな」
男はそう言うとそそくさと立ち去っていった。
高品質なラージシールドを持ち、グレイルは大笑いした。
「あはははははは! さすがだ、さすが俺! 無為な日々でもチャンスを逃すことなくパワーアップ! 新品に比べて7万ゴールドも得をしたぞ!」
しばらく足止め――そう思っていたのに。
こんなにも早く俺は強くなってしまうなんて!
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名前 :グレイル
レベル:16(戦士)
攻撃力:260(+150)高品質なブロードソード
防御力:212(+125)へこんだ高品質なラージシールド/チェインメイル
魔力 :180
スキル:剣術
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己の抜け目のなさにグレイルは酔っていた。
そして腹の奥底から叫んだ。
「イィィィオオオオス! 高品質なラージシールドなんて手に入れちまったよ! 高! 品! 質! お前には縁がないだろうがな! 俺のお古でよければ使わせてやるよ!」
自分の言葉に酔いしれながら、さらにグレイルは続けた。
「俺は歩き続ける! 先に進み続ける! 再会することがあれば、はるかに小さくなった俺の背中を見て悔しがるがいい! 俺はもうお前よりもはるかに強くなったぞ!」
それは幼馴染みへの明らかな勝利宣言だった。
振り回したラージシールドがぎしりと嫌な音を立てたが、グレイルは少しも気にしなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ん?」
俺は思わず足を止めた。
「どしたの、イオス?」
そんな俺をミーシャが振り返る。
「いや、何か名前を呼ばれた気がしたんだけど――」
かすかに小さな声が――遠くから。
気のせいだろうか?
「気のせい気のせい。ほらほら、さっさと行くよ!」
ミーシャはひらひらと手を振り、前に視線を向ける。
ピプタット・ダンジョンへ。
傷も癒えて準備も整った俺たちは今日からいよいよD層へのアタックを開始する。
「D層か……」
身震いする。おそらくまだ安全圏だろうが、初めての場所という事実は俺に緊張を強いる。
「にししし! がっぽがっぽ稼いじゃおう!」
「かなり稼げるかな……?」
「E層でも1回25万だったでしょ? もっとじゃない?」
もっとか……。
これに毎日の錬金の石ボーナスで11万ゴールド追加。
……最近ちょっと金銭感覚が緩んでいるのが本当にやばい。7万ゴールドくらい、ま、いいか! みたいに思ってしまうことがある。
ダメだな……。
7万ゴールドをありがたく思っていた貧乏時代の気持ちは忘れないでおこう。
「行こう、イオス!」
「ああ。そうしよう」
俺たちはダンジョンの中へと入っていった。
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