表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/99

スキル剣術

「俺たちは今日でパーティーを抜けるよ」


 3人の言葉を聞いた瞬間、グレイルは不機嫌な声を吐き出した。


「あああん!?」


「もうお前のやり方にはついていけない。ここで抜ける」


「ふざけんじゃねえぞ!」


 グレイルは近付くなり、新入りである戦士の襟首をつかんだ。


「てめぇ! クソの役にも立たずに足を引っ張っていたくせによおおおおお! おこぼれでEランクに上がった瞬間、抜ける!? 誰のおかげでここまでこれたと思ってるんだ! 剣術スキルを持つ俺のおかげだろうが! 剣術を持つ、俺の!」


「それだよ! その態度がもう嫌なんだよ!」


 戦士はグレイルの手を払った。


「なんでも俺のおかげ! 俺のおかげ! 失敗したら足を引っ張りやがって! お前のせいだ! もううんざりなんだよ!」


「な――!?」


 グレイルの頭が瞬間的に沸騰する。

 男を殴り飛ばそうとこぶしを握ったが――やめた。前に女シールダーを殴ろうとして痛い目にあったのを思い出したからだ。

 それにここはピプタット冒険者ギルド。新しい拠点と決めたのだ。騒ぎを大きくして目立つのはよくない。


 代わりにグレイルは大声を上げた。


「ああ、出ていけよ! さっさと消えろ! 何の役にも立たないお前たちなんぞいるか! ゴミが!」


「そうさせてもらうよ」


 新入りの3人たちは振り返りもせずにグレイルのもとを離れた。


「ちっ!」


 グレイルは大きな舌打ちした。


「ったくよぉ! 恩知らずな連中だ! お前たちもそう思うよな!」


 グレイルが神官と斥候に同意を求める。

 2人は反応の悪い返事をして首をひねるだけだった。


「……はっ! ケチがついちまったな。気分転換に呑みにいくか? Eランクに上がった祝いだ。あの恩知らずどもの悪口でもさかなにしてよお!」


「……いや、今日は疲れた。俺は休ませてもらうよ」


「俺もだ」


 2人はそう言って断ると、グレイルとは目すらあわせずに冒険者ギルドを後にした。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「あ、いたたたたたたた……」


 ジャイアント・リザードマンを倒した翌日、昼まで眠りこけた俺はそんなことをつぶやきながら目を覚ました。


 昨日の傷が痛むわけではなくて――

 単純に二日酔いだ。


 死地を切り抜けた開放感、100万ゴールドの臨時収入、Dランク内定の心地よさ――

 すべてが最高すぎて俺とミーシャはしこたま酒を呑んだ。

 それだけでは飽き足らず、宿に戻ってからも部屋で買ってきた酒を飲み明かした。最上級の干し肉を与えたニャンコロモチも実にご満悦だった。


 今日はごろごろとしていたい気分だが……。

 そうも言っていられない。


--------------------------------------------------

Lv22の選択可能スキル 3:24

--------------------------------------------------

ウォークライ

強打Lv2

剣術

--------------------------------------------------


 レベルアップ後に現れたこいつの謎を解かねば。

 制限時間とおぼしき部分が昨日の残24時間から目減りしている。ゆっくりとはしていられないだろう。

 俺は手早く身だしなみを整えると、ミーシャが泊まっている隣の部屋へと向かった。


「ミーシャ、少し時間いいか?」


『……んー? なーにぃ~?』


 俺がノックすると、部屋から起きたばかりの声がした。


「相談したいことがあるんだけど」


『いいよ~……。でもちょっと待って……まだ充電が足りない……』


「別に急がないから。下で食事をすませた後、部屋で待っているよ」


 俺は食堂でスパゲティを平らげると、部屋でミーシャが来るのを待った。

 ミーシャが現れたのは選択可能スキルの残時間が2時間を切った頃だった。


「お待たせ~、イオス」


 ドアを開けながら、ミーシャが手をひらひらと振りながら入ってくる。


「おはよ~、ニャンコロモチ!」


「にゃあん」


 とことこと寄ってくるニャンコロモチの頭をミーシャが撫でる。そのまま、ひょいと抱え上げた。


「にししし! 君はかーいねー! かーいねー!」


 それから、ニャンコロモチをじっと見てこう訊いた。


「昨日はありがとうね。でも君はなんなんだい?」


「にゃん?」


 はて? なんのこと? という感じでニャンコロモチが首を傾げる。


「このこのぉ~! わかっているくせにぃ~!」


 ミーシャは上機嫌な様子でニャンコロモチに頬ずりをした。

 ……まあ、ニャンコロモチの正体は俺も気にはなるのだが。

 とりあえず喫緊きっきんの問題はそれではない。


「――なあ、ミーシャ。実はさ、シュレディンガーの猫のスキルがレベルアップしたんだ」


「え、マジで!?」


「ああ。新しい効果は――」


--------------------------------------------------

シュレディンガーの猫

--------------------------------------------------

閉鎖空間にある猫1匹の存在を曖昧にする。

ドロップ状態にあるアイテムの存在を曖昧にする。

レベルアップ時に取得できるスキルの存在を曖昧にする。

--------------------------------------------------


「『レベルアップ時に取得できるスキルの存在を曖昧にする』だ。どう思う?」


「……うーん……。ドロップアイテムと一緒だと判断すると――」


 ミーシャはニャンコロモチを抱えたままベッドにぽすんと座る。


「スキル選び放題とか?」


「……昨日レベルアップしただろ?」


「うん。……え、まさか?」


「そう。そのまさかなんだよ。スキル選択が出ている。ウォークライ、強打Lv2、そして――」


 最後のひとつを口にしようとした瞬間――

 俺の胸中に様々な感情がわき起こった。それは本当に多種多様で俺は俺自身の心を表現できなかった。


「剣術だ」


 剣術――

 戦士の攻撃力をブーストし、上位職『剣士』の条件となるスキル。

 いや、俺にとっては別の意味のほうが強い。

 俺を追放したグレイルが持っていたスキル。何度も何度も俺に対してひけらかしたスキル。


 俺とグレイルの間に横たわる格差の象徴。

 俺が決して埋められなかった能力の差異。


 つまり、俺がそれをとれば――

 俺はグレイルと対等になれる。


ランキング挑戦中です!


面白いよ!

頑張れよ!


という方は画面下部にある「☆☆☆☆☆」から評価していただけると嬉しいです!


応援ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

シュレ猫3巻、発売します(3月30日)!

shoei2

コミック版シュレ猫、発売中です(2021/11/30)!

shoei
― 新着の感想 ―
[一言] 剣術が普通にやっててもとれるならほかをとったほうがいいのかな?
[一言] レベル1を飛び越してレベル2の強打。自信がつきそうだし全体的に役立ちそうな剣術。 これは悩んで悩んで決められずに、どっちを選んでも後悔しそうな事に気づく。苦悩の果てに全ての重圧から逃げて第…
[気になる点] ゲームなどの知識からある程度の予想はつくけど、スキルの効果を書いて欲しい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ