スキル剣術
「俺たちは今日でパーティーを抜けるよ」
3人の言葉を聞いた瞬間、グレイルは不機嫌な声を吐き出した。
「あああん!?」
「もうお前のやり方にはついていけない。ここで抜ける」
「ふざけんじゃねえぞ!」
グレイルは近付くなり、新入りである戦士の襟首をつかんだ。
「てめぇ! クソの役にも立たずに足を引っ張っていたくせによおおおおお! おこぼれでEランクに上がった瞬間、抜ける!? 誰のおかげでここまでこれたと思ってるんだ! 剣術スキルを持つ俺のおかげだろうが! 剣術を持つ、俺の!」
「それだよ! その態度がもう嫌なんだよ!」
戦士はグレイルの手を払った。
「なんでも俺のおかげ! 俺のおかげ! 失敗したら足を引っ張りやがって! お前のせいだ! もううんざりなんだよ!」
「な――!?」
グレイルの頭が瞬間的に沸騰する。
男を殴り飛ばそうとこぶしを握ったが――やめた。前に女シールダーを殴ろうとして痛い目にあったのを思い出したからだ。
それにここはピプタット冒険者ギルド。新しい拠点と決めたのだ。騒ぎを大きくして目立つのはよくない。
代わりにグレイルは大声を上げた。
「ああ、出ていけよ! さっさと消えろ! 何の役にも立たないお前たちなんぞいるか! ゴミが!」
「そうさせてもらうよ」
新入りの3人たちは振り返りもせずにグレイルのもとを離れた。
「ちっ!」
グレイルは大きな舌打ちした。
「ったくよぉ! 恩知らずな連中だ! お前たちもそう思うよな!」
グレイルが神官と斥候に同意を求める。
2人は反応の悪い返事をして首をひねるだけだった。
「……はっ! ケチがついちまったな。気分転換に呑みにいくか? Eランクに上がった祝いだ。あの恩知らずどもの悪口でも肴にしてよお!」
「……いや、今日は疲れた。俺は休ませてもらうよ」
「俺もだ」
2人はそう言って断ると、グレイルとは目すらあわせずに冒険者ギルドを後にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あ、いたたたたたたた……」
ジャイアント・リザードマンを倒した翌日、昼まで眠りこけた俺はそんなことをつぶやきながら目を覚ました。
昨日の傷が痛むわけではなくて――
単純に二日酔いだ。
死地を切り抜けた開放感、100万ゴールドの臨時収入、Dランク内定の心地よさ――
すべてが最高すぎて俺とミーシャはしこたま酒を呑んだ。
それだけでは飽き足らず、宿に戻ってからも部屋で買ってきた酒を飲み明かした。最上級の干し肉を与えたニャンコロモチも実にご満悦だった。
今日はごろごろとしていたい気分だが……。
そうも言っていられない。
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Lv22の選択可能スキル 3:24
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ウォークライ
強打Lv2
剣術
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レベルアップ後に現れたこいつの謎を解かねば。
制限時間とおぼしき部分が昨日の残24時間から目減りしている。ゆっくりとはしていられないだろう。
俺は手早く身だしなみを整えると、ミーシャが泊まっている隣の部屋へと向かった。
「ミーシャ、少し時間いいか?」
『……んー? なーにぃ~?』
俺がノックすると、部屋から起きたばかりの声がした。
「相談したいことがあるんだけど」
『いいよ~……。でもちょっと待って……まだ充電が足りない……』
「別に急がないから。下で食事をすませた後、部屋で待っているよ」
俺は食堂でスパゲティを平らげると、部屋でミーシャが来るのを待った。
ミーシャが現れたのは選択可能スキルの残時間が2時間を切った頃だった。
「お待たせ~、イオス」
ドアを開けながら、ミーシャが手をひらひらと振りながら入ってくる。
「おはよ~、ニャンコロモチ!」
「にゃあん」
とことこと寄ってくるニャンコロモチの頭をミーシャが撫でる。そのまま、ひょいと抱え上げた。
「にししし! 君はかーいねー! かーいねー!」
それから、ニャンコロモチをじっと見てこう訊いた。
「昨日はありがとうね。でも君はなんなんだい?」
「にゃん?」
はて? なんのこと? という感じでニャンコロモチが首を傾げる。
「このこのぉ~! わかっているくせにぃ~!」
ミーシャは上機嫌な様子でニャンコロモチに頬ずりをした。
……まあ、ニャンコロモチの正体は俺も気にはなるのだが。
とりあえず喫緊の問題はそれではない。
「――なあ、ミーシャ。実はさ、シュレディンガーの猫のスキルがレベルアップしたんだ」
「え、マジで!?」
「ああ。新しい効果は――」
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シュレディンガーの猫
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閉鎖空間にある猫1匹の存在を曖昧にする。
ドロップ状態にあるアイテムの存在を曖昧にする。
レベルアップ時に取得できるスキルの存在を曖昧にする。
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「『レベルアップ時に取得できるスキルの存在を曖昧にする』だ。どう思う?」
「……うーん……。ドロップアイテムと一緒だと判断すると――」
ミーシャはニャンコロモチを抱えたままベッドにぽすんと座る。
「スキル選び放題とか?」
「……昨日レベルアップしただろ?」
「うん。……え、まさか?」
「そう。そのまさかなんだよ。スキル選択が出ている。ウォークライ、強打Lv2、そして――」
最後のひとつを口にしようとした瞬間――
俺の胸中に様々な感情がわき起こった。それは本当に多種多様で俺は俺自身の心を表現できなかった。
「剣術だ」
剣術――
戦士の攻撃力をブーストし、上位職『剣士』の条件となるスキル。
いや、俺にとっては別の意味のほうが強い。
俺を追放したグレイルが持っていたスキル。何度も何度も俺に対してひけらかしたスキル。
俺とグレイルの間に横たわる格差の象徴。
俺が決して埋められなかった能力の差異。
つまり、俺がそれをとれば――
俺はグレイルと対等になれる。
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