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Eランクの高みへ! グレイルよ、高く羽ばたけ!

「オラァッ!」


 気合い一閃。グレイルの剣がハンターリザードを両断した。


「はっ! 他愛もない!」


 レベル16になったおかげで力の増加を感じる。前よりも刃は素早く走り、易々と皮膚を切り裂く。


(くくくくく……! さすがは俺だ!)


 それに比べれば仲間たちの情けないこと。


「くぅ……あ……」


 新入りの戦士のひとりがハンターリザードの体当たりをもろに受けて動けなくなっている。神官が回復魔法をかけているところだ。


(ったく! 火力になれないんだから盾くらい頑張れよな!)


 グレイルはいらいらした。

 時間のロスが実にもったいない。今グレイルたちはEランクへの昇格クエストをこなしているところなのだ。

 このクエストには制限時間がある。

 グレイルはふところから小さな水筒を取り出した。


 ――E層の奥に湧き水があります。そこの水を採取してきてください。


 それがクエストの内容だった。渡されたのが湧き水の位置を示した地図とこの水筒だ。

 湧き水には特殊な成分が混入しているらしく、それを外部に持ち出すには魔力の込められたこの水筒を使わないとダメらしい。

 だが、水筒の魔力は一日で消えてしまう。


「失敗すると、またクエストに応募してもらわなければなりません。ご注意ください」


 クエストの応募――昇格クエストはこちらから望むものなので料金として10万ゴールドも払うこととなった。

 つまり、再挑戦となるとまた徴収されるということだ。


(ギルドのごうつくばりどもが……!)


 いらいらした。

 10万ゴールドは決して安い金額ではない。


(……俺が6人いたら楽勝だってのによお! 再挑戦になったら足を引っ張ったお前らのせいだぞ!)


 内心でグレイルは毒づいた。


「ありがとう……」


 神官に礼を言い、戦士が立ち上がろうとするが、


「……つあっ――!」


 腹を押さえてうずくまる。


「おい、どうしたんだ! 傷は治ってるだろうが!」


 グレイルが鋭い声を吐いた。

 神官が首を振る。


「いや、身体の芯に残ったダメージだろう」


 回復魔法で出血や打撲のような外傷は確かに治る。だが、それでは治しきれないダメージが体内に残る現象のことだ。

 それは身体の重さとなって現れて――やがて、痛みとなる。

 結局、本当に全快になりたければ休みをとるしかないのだ。

 神官が話を続ける。


「あいつは最近のハンターリザード狩りで無理していたからな……ダメージの蓄積があったんだろう。無理は――」


「するとこだろ、ここはよ!」


 神官の言葉をグレイルは吹き飛ばした。


「立て! 立つんだ! 10万ゴールドどーするってんだ!?」


 ダンジョン内がしんと静まった。

 戦士は大きく息を吐きながら立ち上がった。


「……大丈夫、だ……。もう少し頑張る……」


「そうだ! それでいいんだよ! いま頑張らなきゃいつ頑張るってんだよ?」


 一拍の間を開けてから、グレイルは吐き出した。


「今だろ!」


 そうして、グレイルたちは湧き水へと向かった。

 その途上、グレイルは別のパーティーへと出会った。3人組で首に赤いマフラーを巻いている。マフラーの先には冒険者ギルドの紋章である羽ばたく鷹が縫い付けられていた。

 そう、ギルドの職員たちだ。


(……今日はよく見るな……)


 E層のあちこちにギルドの職員たちが歩いている。

 いつもなら無視して通り過ぎるのだが、今回は好奇心に負けてグレイルは3人組に声を掛けた。


「おい」


「ん?」


 3人組のリーダーらしき鎧を身にまとった男が足を止める。


「あんたたちギルドの職員だよな? 今日うろうろしている職員が多いように思うんだが、何かあったのか?」


「先日、E層で今までにない場所でエリアボスが発生してね。それを見過ごしてしまったんだよ。今後は計測対象にできるよう、現場を調査中なんだ」


 グレイルは顔をしかめた。

 エリアボスは強力な敵だ。自意識の高いグレイルであっても歯が立たないことはわかっている。


「……ギルドで警戒情報は出ていなかったが……?」


「もう倒されたんだよ。運悪くエリアボスの発生に立ち会わせた冒険者たちがいてね。彼らがその場で倒した」


「ほぅ……」


 グレイルは興味を持った。持ってしまった。どんな強者がそれを成し遂げたのか。


「どんなやつなんだ?」


「戦士と魔術師の2人組だそうだ。私は詳しく知らないが……青火鳥チェインメイルに身を包んでいたらしい」


「青火鳥――!」


 Bランクの装備だ。

 確かにそれほどの使い手であれば、E層のエリアボスくらい瞬殺してもおかしくはない。


「ま、しばらくはエリアボスの出現はないだろうが――ギルドも見逃すことがある。充分に警戒したまえ」


 そう言うと、ギルド職員たちは先へと進んでいく。

 グレイルは自分の闘争本能に火がつくのを感じた。


(……くくくくく! これがピプタットだよ! そんな強い冒険者がごろごろいるのがピプタット! 俺が成り上がるにはふさわしい場所だ! イィィィオオオオオス! お前は今どこにいる? どこで立ち止まっている? 俺は俺が目指すべき目標がいる――最高の場所にいるぞ!)


 グレイルの瞳に光が灯る。

 それは憧れの灯火だった。己が追いかけるべき対象を見つけた瞬間だった。

 エリアボスを瞬殺する青火鳥チェインメイルの冒険者――圧倒的なリスペクトがグレイルの胸に宿る。


(俺もいつかその高みにたどり着くぞ!)

 

 ぼやぼやしている暇はない。

 グレイルは配下のメンバーに喝を入れた。


「おら、お前ら行くぞ! Eランクごとき一発で通る! 俺の足を引っ張るんじゃねえぞ!」


 その後、Eランクのモンスターたちを何度か退けて、ついにグレイルたちは湧き水を手に入れた。

 そして、冒険者ギルドへと戻り――


「おめとうございます! Eランク昇格です!」


 担当者がにこやかにグレイルの偉業を讃えてくれた。

 そして、更新したギルドカードをグレイルたちに手渡す。

 そこにはこう書かれていた。


 Eランク――と。


(はーはははははははは! ついに! ついに! 最底辺を脱出したぞ、俺は! イィィィオオオオオス! Fランクであがくお前とは違うんだよ! 剣術スキル持ちの俺だからここまでこれた! クソスキル持ちのお前は一生Fランクに沈んでいるのがお似合いだ! お前を斬り捨てたのは正解だったなあ! 俺の速度にお前はついてこれるはずがないからなあああああああ!)


 グレイルが暗い喜びに打ち震えていると――


「グレイル」


 背後から呼びかける声がした。


「あん?」


 振り返ると、新入りの3人がグレイルをじっと見ていた。


「何か用か?」


「俺たちは今日でパーティーを抜けるよ」


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shoei
― 新着の感想 ―
[良い点] 頑張れグレイグ!いやグレイル!いつかSランクの高みに上り詰めるのを期待しているぞ(笑)!
[一言] なんかグレイルがニャンコロモティウムが切れた禁断症状に見えてきた
[一言] Eランクになったのはいいが、仲間を失ったようだ……。
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