Dランク昇格!
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スキル選択はどうしようかと考えたが、宿に戻ってからゆっくり考えることにした。
納得してから選択しないと後悔する可能性がある。
今の興奮した状態で決めるべきではないだろう。
リトリーバーを近づけて、俺はジャイアント・リザードマンの死体を戦利品に変換した。
ころん、と転がったのは――
大緑鱗の鉱石。
モンスターの鉱石だ。強力な武具の材料となる。つまり、こいつでCランク相当の武具が造れるわけだ。
俺は石を拾い上げてのぞき込む。
……モンスターの鉱石を手に入れるのは初めてだな……。
「やっぱり高く売れるのかな?」
「にししし! そりゃもう! だけどさ――」
ミーシャはこう続けた。
「せっかくだから売らずに盾でも造ったら?」
「盾?」
「イオスの装備、盾が弱点だよね?」
……ミーシャの言うとおり、盾だけはおまけでもらった『高品質なラージシールド』。おまけにさっきの戦いのせいか、あちこちへこんでいる。補修しても元の状態に戻るかどうか。
「そうだな、盾を造るのも悪くないな」
悪くないどころか。
それを思うだけで俺の胸は高鳴った。
己の手で倒したモンスターの装備を身にまとう。
きっとその事実は俺に誇らしい気持ちを与えてくれるだろう。
それほどの死地をくぐり抜けたのだから。
「よし、そうしよう」
俺たちは地上へと戻った。
いらない戦利品を売り払おうと冒険者ギルドに向かうと、何やら職員たちがばたばたしている。
適当な女性スタッフを捕まえて俺は尋ねた。
「どうしたんですか?」
「あのですね、ピプタット・ダンジョンのE層にエリアボスが出現したんですよ!」
冒険者ギルドでは瘴気の濃度を細かく計測している。そこから出現の事実を突き止めたのだろう。
E層――エリアボス……。
ああ。
「それなら倒しましたけど」
「はい! 倒さないといけません!」
「いや、そうじゃなくて」
俺は手を振ってからこう続けた。
「さっき倒しましたけど?」
「はい、だから倒さない、と――ん? 倒し……倒しました? 倒しました!? えええええええええええええええええええええ!」
職員がまじまじと俺を見た。
「倒した!?」
「はい、ついさっき。ジャイアント・リザードマンでした」
「ちょちょちょ、奧に来てください!」
言うなり、いきなり俺たちはギルドの奥にある応接用の部屋に通された。
「ここで待っていてください!」
と言われたので俺とミーシャは座って待つ。
やがて、さっきの女性職員と中年の男性職員が姿を現した。
女性職員が口を開いた。
「確かに確認された瘴気の濃度が減少していますね――あと、エリアボスの波形もジャイアント・リザードマンで合致していました」
それから、こう続ける。
「……本当におふた方が?」
「はい」
俺はうなずいた。
「D層に向かおうとしたところ、運悪くエリアボスの出現に巻き込まれてしまって……。俺とそこの彼女の2人で何とか」
そう説明した。
待っている間にミーシャと相談して決めたことだ。
ニャンコロモチには触れない。
そのほうがいいと二人とも判断した。……そもそも俺たちですら正体がわかっていないのだ。冒険者ギルドのような巨大組織に知らせるのは危険だろう。
さすがに俺ひとりで倒したと話すと信憑性に欠けるので、そこはミーシャも戦ったことにした。
「それは災難でしたね……。ですが、あなた方のような強い方々でよかった。これがEランク相当のパーティーですと確実に全滅していましたからね」
そう言って、男性職員がふむとうなずいた。
「あの、おふた方の冒険者カードを確認させてもらってもよろしいですか……?」
その言葉は半強制なのを俺たちは理解していた。俺とミーシャはテーブルの上にカードを置く。
男性職員が手に取り、しげしげと眺めた。
「ふむふむ。イオスさんとミーシャさんと。……!? Fランク……なんですか!?」
驚いた様子の男性職員がしげしげと俺を見る。
……そういう反応になるだろうな……。
Bランクの装備に身を包んだFランクなど珍しいにもほどがある。
俺たちはもうレベル22。Eランクになら簡単に上がれていただろうが、ざくざく上がるレベルアップに忙しすぎて忘れていた。
……まあ、EランクであろうとBランクの装備を身につけている異常さは何も変わらないのだが。
「ええ、まあ……」
俺は曖昧に返事をした。
「装備についてはツテがありまして……」
「そうですか」
手短に応じるだけで男性職員はその話題に踏み込まなかった。
冒険者の身元確認はギルドの権限が及ぶが、装備はプライベートなので関係ない。職員はその辺をわきまえているのだろう。
「すいません。こちらのカード、読み取らせてもらいますね」
女性職員が腰からハンディサイズの端末を取り出した。
冒険者カードの情報を読み込むときに使われるものだ。
「どうぞ、構いませんよ」
気軽に応じたが、腑に落ちない部分もあった。
ここで俺たちのカードを読み取ってどうするのだろう?
「……またあとで呼び出しを受けたりするんですかね?」
「ああ……それは……ないとは言えないんですけど――」
男性職員がにこやかに応じる。
「とりあえずの目的は報酬のお支払いです」
「報酬?」
確かに冒険者ギルドには口座を登録している。戦利品の売買代金を振り込んでもらうためだ。
……だが、ギルドから何かを請け負っていた記憶はないのだが。
男性職員が話を続ける。
「エリアボスを倒していただきましたから。通常はこちらから依頼して討伐していただくのですが、今回のように突発的な場合も同じフローで処理いたします。よって、報酬が発生するのです」
俺とミーシャは顔を見合わせた。
別にただ働きで損だなとは思っていなかったのだが、もらえるとなると嬉しいものだ。
「……あの、いくらくらいでしょうか?」
「些少で恐縮ですが……Cランク相当の場合、100万ゴールドです」
「「ひゃく!?」」
俺たちは同時に声を上げる。
金銭感覚が壊れはじめているこの頃だが、さすがにその金額はまだ魅力的な響きを持っていた。
「こちらでの確認作業がすみ次第お支払いさせていただきます。あと、内部で調整が必要な話ではありますが――」
男性職員がこう続けた。
「おふた方のランクをFからDに引き上げさせていただこうかと」
「え!?」
「Cランク相当のモンスターを倒した方がFランクなのは――こちらとしても困りますからね」
ありがたい話だ。
……別に俺たちもFランクにいたくていたいわけではない。単にレベルアップで忙しくて後回しになっていただけだ……。
ランクが上がるにつれて冒険者ギルドからのサポートが手厚くなる特典がある。馬車や宿の割引、売買時の手数料減免など。
駆け出し扱いのF、Eランクはあまりありがたみがないと聞くが、一人前とみなされるDランクではそれなりの実感があるらしい。
気持ちが高揚した。
ジャイアント・リザードマンを倒したときとは別の――
じんわりと心が温まるような。
Dランク――下位ではあるが、一人前とみなされる領域。
ついに俺は、そこまでたどり着いたのだ。
話が終わったので俺たちはギルドを出た。
外に出るなり――
「ねえねえ、イオスゥ」
とミーシャが言って、左手を掲げる。
「……やったな、ミーシャ!」
俺はミーシャの手に叩いた。
ぱぁん! といい音がする。
「にしししし! なんだかあっという間だったね!」
「そうだなぁ」
本当にあっという間だった。グレイルに追放されたどん底から。あのときは決して想像もしなかった世界まで。
「今日も祝杯だね、イオス! がんがん呑もう!」
興奮したミーシャが冗談まじりにどぉん! と俺に身体をぶつけてくる。
びきっ! と身体に痛みが走った。
「いったったったったった!」
そう、俺の身体はぼろぼろなのだ。ジャイアント・リザードマンにしこたま殴られたからな……。
今は応急セットで最低限の治療だけしている。
「ああ!? ご、ごめん、イオスゥ!? し、死なないでぇ!?」
「い、いや、大丈夫……とりあえず神殿で回復してもらおう……」
ありがたいことに冒険者ギルドからは「治療代に」と神殿で使えるチケットをもらった。
あまり勘違いするべきではないが――
少しばかり自分がすごい冒険者になれたようで気分がよかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「くっくっくっく……」
グレイルは上機嫌な笑いを口元に浮かべた。
冒険者ギルドのカウンターを離れて、仲間が待つテーブルへと向かう。
「おい、お前たち! レベル16になった俺たちにふさわしいクエストを受けてきたぞ!」
ばん! とテーブルに依頼書を叩きつけた。
そこには『昇格クエスト』と書かれている。
「もうFランクでくすぶっている段階じゃねえ! 目指すぞ!」
高らかに、誇らしく――グレイルは腹の底から叫んだ。
「Eランク! 俺たちにふさわしい高みにな!」
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