打倒、エリアボス! そして、新たなる力の発動!
あの瞬間――
ニャンコロモチが最後の一撃を食らう間際。
それは俺の脳裏に天啓のごとく閃いた。
1.エリアボスが出現すると、そこは『閉じられる』。
2.俺の能力は『閉鎖空間』にある猫1匹の存在を曖昧にする。
俺は今までニャンコロモチを袋に入れて持ち運ぶためだけに『シュレディンガーの猫』を使っていた。
だから、袋以外で使う発想はなかった。
しかし、あの瞬間に俺は気づいたのだ。
――エリアボスの閉鎖空間なら使えるのではないか?
まさか、と思った。
だが、ありえなくはないと思った。
そして――もうそれにすがりつくしかなかった。
俺はためらいなくシュレディンガーの猫を発動する。
棍棒が床を叩く轟音。
死体すら残さず消えたニャンコロモチ。
――俺の予想は当たった。
最後の一撃を振り下ろされる直前、俺のシュレディンガーの猫は確かにニャンコロモチを絡め取り――
確かにこの世界から切り離したのだ。
最大のピンチを切り抜けた。
次にそれを最大のチャンスへとつなげるだけ。
だから、俺は逃げた。
ジャイアント・リザードマンをおびき出すために。
ニャンコロモチが背後をとれるように。
相手が完全に意識していない状況での背面攻撃は『不意打ち』扱いとなり攻撃力に強烈な補正がつくのだ。
すべては俺の狙い通りに事は運んだ。
「やっちまえ、ニャンコロモチ! 全力攻撃だッ!」
俺の号令とともに、復讐心に燃え上がったニャンコロモチがジャイアント・リザードマンへと襲いかかる。
「にゃあああああああああああああ!」
俺が聞いたことがないような怒りの声とともにニャンコロモチが猛攻を繰り出した。
おそらく、この一瞬で――
爆発的なダメージが入ったはず!
「グオオオオオオオオオオオオオオ!」
異変に気づいたジャイアント・リザードマンが激怒の咆哮とともに背後へと振り返る。
その瞬間を――
俺は待っていた。
俺の胸、いや、身体が喜びに震える。
剣を握る手に力を込めた。手放していなくて良かった。戦うための牙はこの手にある。
俺はまだ戦える。
戦う資格がある!
あの敵を屠る意志が、この身体に宿っている!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
俺は気力を振り絞った。闘志を燃焼させて全身を再起動する。
痛み? 無視するさ!
疲労? 関係ないね!
これで終わりだ! 俺のありったけを今こそぶつけろ!
飼い猫が切り開いた血路を、俺が走らなくてどうする!
「おおおおおおおおおお!」
俺は走った。
体力などもうない。足は重い。だが、止まらない。前へ前へ!
ここだけは! この瞬間だけは! 俺は己が戦士であることを示さなければならない! 戦う意志を持つものとしての誇りを示さなければならない!
退けぬときは、確かにあるのだ!
ジャイアント・リザードマンの巨大な背中が近付く。
その背中はずたずたに引き裂かれていた。肉は削られ、流血の跡が生々しい。
最後の一足を高く飛び、背後から鱗の削れた背後から胸へと魔狼ブロードソードを叩き込む。
ずっ――と。
むき出しの肉へと研ぎ澄まされた刃が入り込んだ。それは間違いなくジャイアント・リザードマンの心臓を刺し貫く。
「死ね! 死んじまえ!」
吠えた。
今まで叩き込まれたダメージのすべてを怒りに変えて。
剣から手が離れ、俺の身体は床へと落ちた。背中を激しく打ち、口から空気が漏れる。
「グオオオオオオオオオオオオオオ!」
ジャイアント・リザードマンの絶叫が響き渡った。
その身体がぐらりと力を失い、ずん、と大きな音を立てて床に崩れ落ちた。
痛みに顔をしかめながら身を起こし、それを見た。
ぴくりとも動かなくなったジャイアント・リザードマンの姿を。
「……勝った……!」
俺はかすれるような声でつぶやき、継いで――
「勝ったぞおおおおおおおおおおおおおおおお!」
叫んだ。
身体中で充足感が爆発した。
強力なエリアボス――Cランク相当のジャイアント・リザードマンを倒したのだ!
「イオスゥ!」
いきなりどすんと何かが飛び込んできた。
耐えきれなかった俺はバランスを崩して再び床に倒れる。
「ううううううううううううううううううう!」
ミーシャだった。
ミーシャが鼻を鳴らしながら俺の身体を強く抱きしめていた。温かい涙が俺の首筋を濡らした。
「うええええええええん! イオス死ぬかと思った! 死ぬかと思ったよおおおおおお!」
「……心配かけてごめん、ミーシャ」
俺が背中をぽんぽんと叩くと、ミーシャはえぐ、えぐと声を漏らしながら上半身を起こした。
ミーシャの目からこぼれる涙はまだ止まらず、彼女の頬をつたってぽたぽたと俺の胸に落ちる。
「うううう……ごめんねえ……」
「……いいさ」
こんなにも俺の危険を悲しんでくれて――
こんなにも俺の大勝利を喜んでくれる。
そんな人がいてくれる事実が俺には嬉しかった。
「……にゃあん」
ぽふ、と俺の頬にぷにっとした肉球が置かれる。
ニャンコロモチがすぐそこにいた。
その顔も鳴き声も――
どこか誇らしげな様子を感じさせる。
「……お前、本当に猫なの……?」
「にゃん?」
質問の意図がわかりませんが? と言わんばかりにニャンコロモチが小首を傾げた。
……まあ、とりあえずは……いいけどさ。
「ありがとな」
俺は手を伸ばしてニャンコロモチの頭を撫でてやった。
ニャンコロモチのあの力は気になるが――
他にも気になることがあった。
それは俺自身に関わることだ。
ニャンコロモチを最後に出現させたとき、俺は確かにこんな声を聞いたのだ。
『シュレディンガーの猫のレベルが3になりました』
……これは?
シュレディンガーの猫のスキルを開くとこうなっていた。
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シュレディンガーの猫
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閉鎖空間にある猫1匹の存在を曖昧にする。
ドロップ状態にあるアイテムの存在を曖昧にする。
レベルアップ時に取得できるスキルの存在を曖昧にする。
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文言が増えている。
それはおそらく――今、俺の脳裏に出現している別のウィンドウと関係あるのだろう。
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Lv22の選択可能スキル 23:54
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ウォークライ
強打Lv2
剣術
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