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E層ダンジョン・ダイブ(下)

 スケルトンウォーリアーを倒した俺は魔石回収のための矩形のデバイス――リトリーバーを近づけた。

 スケルトンウォーリアーが消えて、シュレディンガーの猫が発動する。


--------------------------------------------------

スケルトンウォーリアーのドロップアイテム 23:59

--------------------------------------------------

F:骨くず

E:さびの浮いたブロードソード

D:呪われた頭骨

--------------------------------------------------


 微妙だな……。

 内容を聞いたミーシャも顔をしかめてこう言った。


「全部いらないねー……」


「この中だと、レアDの呪われた頭骨かな?」


「呪われてるんでしょ? 頭蓋骨とかなー……かさばるし気持ち悪いよ。また明日になれば手に入るものだし、流せば? 頭骨の価値は調べておくからさ。Dだから価値なんて低いと思うけど」


「わかった」


 俺は何も選ばなかった。魔石だけを回収する。


 ちなみに――

 スケルトンウォーリアーは剣や鎧を装備している。リトリーバーを使わずに武器や防具だけを回収するとどうなるのか?


 答えは『すぐに消えてしまう』だ。


 そもそも倒したモンスター自体がリトリーバーを使わなくても消えてしまうのだ。持っていた装備もろとも。身体の一部を切り取っていても同様だ。

 つまり、リトリーバーを通して得たドロップアイテムしか持ち帰れない。


 魔石を産み出すモンスターたちの生態は謎に包まれている。

 そもそもそれは普通の生命ですらない。

 ダンジョンの内外を問わず『瘴気』が濃い場所に自然発生する。そして、倒されると消える。


 人間の死体は消えないし、魔石を生まない普通の動物を殺しても消えない。

 明らかに生命の仕組みが違うのだ。


「……なあ、ミーシャ」


「なぁに?」


「モンスターってなんなんだ?」


 俺の質問にミーシャが吹き出した。


「哲学的だねぇ、イオスくん!」


 ふふふ、と笑ってからミーシャが続けた。


「それはね、誰しもが思う疑問だけどさ――いまだに誰も解けたことのない謎なんだよね。その問題を解いた人間はきっと1000年後の未来まで語り継がれるだろうね!」


 ……そりゃ俺ごときが考えても仕方がない。

 地道に経験値稼ぎでもするか……。

 俺たちはE層エリアを徘徊する。大きな空間に出たときだった。

 奧に4つの光る目が輝いていた。

 それらが――のそりと姿を現す。


「ハンターリザードね」


 ミーシャがそう言った。


----------------------------------------

名前 :ハンターリザード/E

攻撃力:610

防御力:400

----------------------------------------


 虎ほどの大きさをした巨大なトカゲだ。ぶ厚い皮は生半可な攻撃を弾き、その鋭い牙の破壊力は無視できない。何よりも恐ろしいのは長い舌。何メートルも伸びて、まるで鞭のように襲いかかってくる。

 スケルトンウォーリアーよりも強力なモンスターだ。

 それが2体も。

 5人組だった前のパーティーでも撤退を考えるレベルだ。

 だけど――


「どーすんの、イオス?」


「……やろう」


 俺は魔狼ブロードソードを構えた。今の俺なら間違いなく1対1で勝てる相手だ。

 そして――2体でも負けるとは思えない。


「にししし! んじゃ、ミーシャさんも援護しちゃおっかなー」


 ミーシャは杖の先端を前方に向けた。


「アイスアロー、アイスアロー!」


 ミーシャが魔術を発動させる。

 2発の氷の矢が左右それぞれのハンターリザードに飛んでいく。

 ハンターリザードが悲鳴を上げた。

 氷属性の魔術には爬虫類はちゅうるいに対して威力が上がる特攻効果があるのだ。


「おおおおおおおおおおおおおおおお!」


 俺は雄叫びを上げながらハンターリザードへと近付いた。

 油断はできない。相手の攻撃力は610。俺の防御力595を超えているのだから。


 だが――

 それはそう危機的な差でもない。


 俺は盾を使ってハンターリザードの体当たりを受け止める。盾から受ける圧力は余裕で耐えられるものだった。

 前の装備で喰らったときは、転がってきた丸太に直撃されたかのように吹っ飛んだものだが。

 だから、ずいぶんと冷静に戦える。


 もう1匹のハンターリザードが舌を吐き出した。細く長く――しなる舌を。

 俺は確かにそれを視界の端でとらえた。

 焦らない。

 冷静に身体を動かしてそれをかわす。そして、右手に持っていた剣を一閃した。

 ぴし。短い音。

 ハンターリザードの舌が切断される。そのトカゲが悲鳴を上げるよりも早く、ミーシャの追撃が入った。


「アイスアロー!」


 氷の矢が容赦なく襲いかかる。

 そちらのトカゲがひるんでいる隙に、俺は目の前のトカゲへと意識を戻した。

 トカゲが右前足の爪を閃かせた。

 だが、一緒だ。


「なめるな!」


 俺は楽々とラージシールドで爪の一撃を弾き返す。

 そして、態勢を崩したところへ斬り込んだ。

 攻撃力760の一撃が炸裂する。その斬撃は易々とハンターリザードのぶ厚い皮膚と肉を切り裂いた。

 ……すごい……本当に……なんて切れ味だ!

 俺はさらに踏み込み、暴れるトカゲの首を切り落とした。


「もう1匹!」


 ミーシャがアイスアローで押さえ込んでいる残りに近づき、それを一撃で仕留める。

 あっという間の出来事だった。

 あっという間に俺は2体のハンターリザードを倒した。

 スケルトンウォーリアーに続いて、こうもあっさりと。どうにも現実感がない。


「にししし! やったね、イオス!」


 にこにこと笑いながらミーシャが近付いてくる。

 そのときだった。

 しゅるり。

 そんな不快な音が頭上から聞こえた。

 不快な音?

 そう、不快な音――ちょうど、さっき聞いたばかりの――


 俺は頭上を見上げた。

 天井にハンターリザードが貼り付いている。


 ――なっ!?


 想像していなかった光景に心臓がどくりと脈打つ。

 ハンターリザードは口元から長く伸びる舌をちらちらと見せている。その目線は――

 ミーシャをじっと見ていた。


「ミーシャ、上!」


 俺の言葉と同時、ハンターリザードの舌が鞭のようにしなった。


「わっ!」


 おそらく、ミーシャには何も見えていなかっただろう。だが、天井を見上げていた俺の言葉から、賢い彼女は自分が何をするべきかすぐ判断した。

 彼女は尻餅をつくように腰を落とした。

 ミーシャの三角帽がハンターリザードの舌に弾かれ、壁へ飛んでいく。

 三角帽が。

 だけど、それだけだった。

 ミーシャは杖を天井へと向けて叫んだ。


「アイスアロー!」


 氷の矢がハンターリザードを直撃する。悲鳴とともに落ちてくるハンターリザードを、真下へと駆け込んだ俺は一刀両断で斬り捨てた。

 これで3体目!


「あーあ……帽子が飛んでちゃったよー」


 くりくりの天然パーマをむき出しにしたミーシャが頭をかく。

 今度こそ終わった。

 弛緩した空気が流れかけたとき――

 頭の中に軽やかな音が聞こえた。ミーシャもびっくりしたような顔で俺を見る。


「ねえ、イオス。これってもしかして……」


 俺はうなずき、ステータスを見た。


----------------------------------------

名前 :イオス

レベル:16(戦士)

攻撃力:260(+510)魔狼ブロードソード

防御力:212(+390)高品質なラージシールド/青火鳥チェインメイル

魔力 :180

スキル:シュレディンガーの猫

----------------------------------------


 低レベルで強いモンスターを狩れば多くの経験値が入る。人数が少ないほど効率がいい。

 だが、これほどとは。

 もう少し先だと思っていたが、想定よりもかなり早い。

 だから俺たちは顔を見合わせて思わず叫んでしまった。


「俺たち――」


「わたしたち――」


「「レベルが上がってるー!?」」


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コミック版シュレ猫、発売中です(2021/11/30)!

shoei
― 新着の感想 ―
[良い点] 主語も明確で分かりやすい文章で、その点すはらしい。読みやすく興味を持てる言葉、その文章力の点を称賛します。ありがとう。更に崇高な内容になることを望みます。
[一言] >「モンスターって何なんだ?」 今のところ私にはわからんよ。まあ、少しでも謎を解きゃあそれでよかろうが! >「俺たち――」 >「わたしたち――」 >「「レベルが上がってるー!?」」…
[一言] モンスターの謎、主人公のスキルが謎を解く手がかりになりそうな気がするw
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