E層ダンジョン・ダイブ(上)
俺とミーシャはダンジョン第1層へと潜った。
「うーん、どうしようか、ミーシャ?」
「とりあえず、グレイゴーストじゃない? 11万ゴールド、ゲットだぜ!」
……まずは日課をこなさないとな。
俺たちはグレイゴーストを見つけ出して襲いかかった。
すぱっ。
え?
ものすごい手応えだった。いや、逆に手応えがない。あまりにも切れ味がよすぎて。
からぶった?
そんな不安がよぎるほど。そこに何もないかのように――刃が空を斬ったかのように、すっと抵抗なく剣が振れた。
だが、剣は間違いなくグレイゴーストをとらえていた。
ただの一撃で仕留めている。
「おお……」
恐ろしいほどの攻撃力だ。これに比べると、今までは錆びたナイフでゴムを斬ろうとしていた鈍さだ。
「すごー!? イオス、むっちゃ強くなってる!?」
「うーん……まあ、この剣がすごいな……」
俺はグレイゴーストに近付き、魔石と錬金の石を回収した。
11万ゴールドゲット、と。
ミーシャが俺に話しかける。
「じゃあさ! 試し切りやっちゃおうよ!」
というわけで俺たちはゴブリン5匹、オーク6匹に連続して戦いを挑んだ。
「ギギィ!」
すぱっ、すぱっ、すぱっ、すぱっ、すぱっ。
「ブヒィ!」
すぱっ、すぱっ、すぱっ、すぱっ、すぱっ、すぱっ。
あっという間に終わった。
さすがBランク武器、魔狼ブロードソード。すごすぎだろ……。
いや、それだけじゃない。
鎧のほうもすごい。わざとゴブリンの攻撃を受けてみたが、斬りかかってきたゴブリンのナイフがへし折れたのだ。
さすがBランク防具、青火鳥チェインメイル。ノーダメージとは……。
こうなると、ただ近付いてぶった切るだけの作業になる。
「にししし! いいねいいね! これなら強い敵も倒せるね!」
敵を倒して入る経験値は敵とのレベル差に依存する。つまり、大物狩りをすればそれだけ多くの経験値が入るのだ。
そして、下層ほど強いモンスターが出現する。
経験値を稼ぐには奧に進む必要がある。もちろん、度を超えれば死んでしまうのだが。
「そうだな。さて、どこまで降りるかだな……」
冒険者のランクとレベルはおおざっぱにこう分類されている。
Sランク(伝説);Lv91-99/ 攻1900-2100
Aランク(最上):Lv71-90/ 攻1500-1900
Bランク(上級):Lv51-70/ 攻1100-1500
Cランク(普通):Lv31-50/ 攻 700-1100
Dランク(下級):Lv21-30/ 攻 500- 700
Eランク(低級):Lv11-20/ 攻 300- 500
Fランク(素人):Lv10以下/攻 300以下
攻撃力は『ランクの平均的な武器を持った戦士』であり、スキルは加味していない。よって、上級職や高性能スキル持ちの上位ランクについてはもっと高止まりしているだろう。
逆に言えば、下位ランクに関しては誤差が少ない。
俺の攻撃力は760。
「今の俺だとDランクは超えているけど、Cランクだと下位くらいってところか」
ただ、それは俺がDからCランクのモンスターと戦えることを意味しない。
Dランクのモンスターとは、Dランク冒険者の『パーティー』が渡り合えるラインなのだ。
俺とミーシャ2人だけでは戦力として足りない。
「うーん……」
ミーシャが眉根にしわを刻む。
「いきなりDランクはリスキーかなあ……行きたいけど」
「リスキーだな。……行きたいけど」
Dランク上位のモンスターが複数出現するとどうなるか予想がつかない。
もう少し確実を期すべきな気がした。
ミーシャが口を開く。
「じゃ、まずはEランクの敵でレベルを上げて――それからDランク狙いかな」
「そうなるな」
「案外、悪くないかもね。だってさ、Eランクのモンスターが相手でも経験値がまずいと思えないんだよね」
Eランクの適正はレベル11-20。
レベル15の俺たちが挑むなら『パーティー』であるべきだ。
それを俺たちは『高性能装備』だけで押し通す。
さらに、本来なら死闘になる相手をさくっと倒して経験値を手早く稼ぎまくる。
今度は俺とミーシャ、たった2人のパーティーなのが利点となる。
経験値はパーティーメンバーが少ないほうが稼げるのだ。
指を、ぱちん! と鳴らしながらミーシャが言った。
「つまり、Eランクお手軽ザコ乱獲作戦だね!」
ザコとは言っているが、それは装備のおかげだ。本当の強さは俺たち2人より格上。
経験値的にはおいしいはず。
「悪くないな」
「でしょでしょ?」
「じゃあ、下に降りるか」
俺たちはすぱすぱとFランクのモンスターを斬り捨てながら階層を下へ下へとくだっていく。
3層にやってきた。
ピプタットのダンジョンは2層目までがFランク向け、3層からEランク向けとなる。
前のパーティーでも経験値を稼ぎたいときはEランクのモンスターと戦っていた。
なので、この辺のモンスターには見覚えがある。
「お、なつかしーねー」
ミーシャが暢気な声を漏らす。
俺たちの目の前にスケルトンウォーリアーが立っていた。手に剣を持ち、鉄製の防具を身体のあちこちに装着している。
ポピュラーなモンスターなら平均的な強さはすでに判明している。
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名前 :スケルトンウォーリアー/E
攻撃力:580
防御力:350
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なかなか強力だ。
……前の攻撃力350の俺では逆立ちしても勝てない相手だ。
絶対に勝てないのだ。
理由は『防御力』が350だからだ。
この世界において攻撃力と防御力の関係は絶対。
攻撃力が防御力を越えていないとダメージが通らないのだ。攻撃時の状況で例外はないこともないが、真正面から殴るとせいぜいかすり傷が限界。
つまり、攻撃力350だった俺に勝機はない。
攻撃力350だった俺には。
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名前 :イオス
攻撃力:760
防御力:595
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立場はすでに逆転していた。
スケルトンウォーリアーの攻撃は俺の防御力に届かない。そして、俺の攻撃力は易々とスケルトンウォーリアーを打ち砕く。
「いけいけ、イオス!」
それを知っているミーシャの声は楽観的だ。
スケルトンウォーリアーが剣を振るう。
俺はこともなげにそれをラージシールドで受け止めた。がきっと金属音が響いてスケルトンウォーリアーの剣が大きく弾かれる。
……昔の俺だったら盾ごと斬り捨てられていたかもしれないな。
だが、今の俺は違う。
スケルトンウォーリアーが再び斬りかかってくる。何度やっても同じだ。俺はラージシールドで防ぐと、態勢を崩したスケルトンウォーリアーに斬りかかった。
斬! 斬!
わずか2撃。さすがに1撃ではすまなかったが、俺は一瞬にしてスケルトンウォーリアーを倒した。
がしゃん、と大きな音を立ててスケルトンウォーリアーが崩れる。
……あの、スケルトンウォーリアーを。
俺が、たった1人で。
それは静かな充足感だった。ずっと苦戦していたのだ。それほどの強敵だったのだ。5人組のパーティーで死力を尽くして倒した相手だったのに――
こんなにあっさりと。
わかっている。
確かにそれは俺の力ではないけれど。
確かにそれは武器と防具の力でしかないけれど。
俺を応援してくれる彼女ならばきっとこう言ってくれるだろう。
それは君のスキルで手に入れた装備なんだから!
だから、今は胸を張ってこう言おう。
俺はミーシャに振り返った。
「勝ったよ」
ミーシャはにやりと笑ってこう返してくれた。
「やるじゃん」
日間総合1位よ、私は帰ってきた!(2020/11/29夜)
皆さまの応援のおかげです。ありがとうございます。いろいろと不穏で不安な日々ですが、本作が12月の皆さまの楽しみになればと思っております。
バズったら宣伝していいって偉い人が言ったので――!
前回1位をとった作品がもうすぐ発売されます。
タイトル:初級魔術マジックアローを極限まで鍛えたら
発売日:2020年12月28日
すすっと画面を下にスクロールすると描いていただいた超美麗な表紙が貼ってあります。年末年始、本屋に行ったときにでも思い出してもらえると嬉しいですね。
『シュレディンガーの猫』の更新も頑張ってまいりますので今後ともよろしくお願いいたします。
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