グレイルの装備の新調(プチ・パワーアップ!)
ピプタットにやってきたグレイルたち3人は宿を確保すると、さっそくダンジョンへと潜った。
(……浅層でさくっと稼ぐか。3人でも問題ないさ。スキル『剣術』持ちの俺がいるんだからなあ……)
実際、ゴブリンなど何匹いようがグレイルの敵ではない。パーティーメンバーの斥候と神官とともにガンガンと敵を倒していく。
グレイゴーストを倒したときだった。
魔石と――
もうひとつ見知らぬ石が転がり落ちた。
「……ん?」
グレイルは眉をひそめる。
そのとき――
まるで光が灯るように昔の記憶がよみがえった。
元パーティーメンバーのミーシャがこんなことを言っていた。
「グレイゴーストがね、錬金の石ってレアアイテムを落とすんだけどさ、これが10万ゴールドで売れるのよ。ま、本当の本当にレアだからさ、狙って出るものでもないけどね」
だから、グレイルはすぐに思った。
これはその錬金の石じゃないのかと。
10万ゴールド――かなりの大金だ。
グレイルは背後にいるパーティーメンバーたちに視線を送った。2人とも回収作業に興味がないのか、視線がどこかを向いている。
(……まあ、俺に雑用を押しつけているんだ。これくらいの役得はあってもいいよなあ? 見ていないお前たちが悪いんだし)
にやりとほくそ笑むとグレイルは錬金の石をふところに入れた。
ダンジョンから戻った後、錬金の石以外を精算してグレイルは他の2人と別れた。
それから2日後、グレイルは何気ない様子で錬金の石をギルドに持っていった。
「おお! 錬金の石ですか! 10万ゴールドで買い取ります!」
グレイルは笑いが止まらない気分だった。
10万ゴールド!
駆け出しの冒険者にしてみればスペシャルボーナスだ!
自分の幸運を思うとグレイルは思わず笑い出したくなる。やはり俺はついている! 持っている!
だから――
いつも不運だった、ゴミのようなユニークスキルを引き当てた運の悪い幼馴染みの顔を思い出してしまった。
(ふはははははは! イイイイイイオオオオオオオス! 俺は錬金の石なんてレアアイテムゲットしちまったよおおおおお! 不運なお前じゃ1個も縁がないようなものをなああああああああ! 10万だぞ、10万!)
気分を良くしたグレイルは武器を新調することにした。
ミルマス武具商店。
大都市ピプタットでも有数の店だ。
(俺が買うんだから、店にもそれなりの『格』がないとなあ!)
グレイルはミルマス武具商店のドアを押し開けた。
「いらっしゃいませ」
店員が頭を下げてグレイルを迎える。
グレイルはしばらく商品を物色した後、
・高品質なブロードソード/攻+150/18万ゴールド
一本の剣を手にとってしげしげと見つめる。
店員が近付いてきて口を開いた。
「そちらの剣は名高い工房で造られたものでして、すばらしい逸品です。お目が高いですね! お値段もこなれておりますしお買い得だと思いますよ!」
その言葉はグレイルを気持ちよくさせた。
(そうだな! 俺のような優秀な戦士が普通のブロードソードってのはダメだ! あのイオスが使っていた武器だぞ!? 俺とあいつが同じステージにいていいはずがない!)
決断したグレイルは店員に高品質なブロードソードを差し出した。
「決めた。こいつを買う!」
「ありがとうございます!」
店員は満面の笑みとともに頭を下げた。
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名前 :グレイル
レベル:15(戦士)
攻撃力:250(+150)高品質なブロードソード
防御力:205(+110)ラージシールド/チェインメイル
魔力 :175
スキル:剣術
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買い物を終えた後、ほくほくした気分でグレイルは外に出た。
攻撃力が全体で400。さらに剣術スキルのボーナスで――
600。
「あーははははははは! 最強すぎる!」
気分が良くなりすぎてグレイルは思わず叫んでしまった。行きかう人々がぎょっとした顔で見るが、そんなもの気にしない。
(イイイイオオオオオオオス! お前の攻撃力は武器込みの350から上がったか? 俺はお前のはるか先にいるぞ? クソスキルしかないやつは苦労するな!)
そして、優越感に任せたままこう続けた。
(おっと、いい武器を使っているのは卑怯だとか言わないでくれよ? いい武器を手に入れるのも冒険者の器量ってやつなんだからよおおおお!)
暗い笑いがグレイルの口元に閃く。
あのとき――あの絶望――
スキル判定の日、剣術という優良スキルをとってグレイルの気分は浮かれまくっていた。
やっぱり俺はいけている!
その気分は、しかし。
「イオスのスキルは『シュレディンガーの猫』!」
「イオスくん、これはおそらくユニークスキルだ」
たった二言で見事に粉砕された。
満足していたはずの心地よい気持ちが、イオスのレアスキル取得によって吹き飛んだ。剣術スキルごときで喜んでいた自分をあざ笑われたかのような気分だった。
イオスの、せいで。
その日からグレイルはイオスへの負の感情を募らせていた。
そして、その感情は――イオスのスキルがゴミとわかったとき、歪んだ全能感へと昇華された。
ダメなイオスを見るのが楽しくて楽しくて仕方がなかった。
(……まあ、俺はお前を捨てちまったけど……いつまでも弱っちいお前を俺はずっと心であざ笑ってやるからな? お前は俺の下なんだからなあ!)
グレイルは喉の奥で笑った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
俺は宿を出た。
新装備でダンジョンに出る初めての日だ。
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名前 :イオス
レベル:15(戦士)
攻撃力:250(+510)魔狼ブロードソード
防御力:205(+390)高品質なラージシールド/青火鳥チェインメイル
魔力 :175
スキル:シュレディンガーの猫
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攻撃力760に防御力595か……。
以前の2倍以上の値に気分が落ち着かない。
宿の待合所でミーシャが待っていた。
新装備の俺を見るなり、ミーシャが笑みを浮かべる。
「似合ってるよ、イオス!」
「ありがとう」
ミーシャはご機嫌な様子で俺をじろじろと眺める。頭のてっぺんから足のつま先まで。
そして――
「にししししし!」
と楽しげに笑った。
俺は言い返した。
「なんだよ!」
「いやー、昨日も見たけどさ! やっぱりいいもんだねー! 新しい門出って感じで! 装備の新調は!」
それからこう続けた。
「グレイル、今のイオスを見たらどう思うかな?」
にやにやとした顔でミーシャが俺を見る。
グレイル――
俺はすぐに返事ができなかった。そして、すぐに返事ができない自分自身に俺は驚いていた。
ミーシャが首を傾げる。
「どうしたの?」
「忘れてた……」
俺は笑った。
「グレイルのこと、忘れてたよ。この街に来てからいろいろ変わりすぎててさ。頭からきれいに消えていたよ」
だが、それでいいと思う。
グレイルはきっと己の道を歩んでいることだろう。俺は俺の道を行くだけ。
もう終わった関係――終わった過去なのだ。お互いに、そこに想いをはせるのは無駄なだけ。
さようなら、俺の幼馴染み。
「行こう」
俺はそう言うと一歩を踏み出した。
きっと俺たちを新しい世界へと導いてくれる一歩を。
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