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第三章 第二節 共同作戦

第三章 犯人の行方 第二節 共同作戦


 松本「よう森! 元気になったか。だけどなんでお前、薬なんかに手を出しやがったんだ」

 「いや、それが違うんだ。無理やり毎日のように腕に打たれてしまって」

 「ナニ? どう言う事なんでぇ! やっぱり新日本同盟の連中だな」

 二人の会話のやり取りから分かった事は、森がある秘密を握ってしまって口封じの為に麻薬患者にされた事だった。その相手とは新日本同盟が絡んでいたのだ。政治団体は表向きだが不景気な昨今、どこの政治結社も先生方から資金が得られなくなり、ついには麻薬取引まで手を染めるようになったらしい。なんでも横浜港に密輸の品物が送られて来るらしかったが、普段から池袋周辺を縄張りにしている暴力団矢崎組とのイザコザも時々あり、常に矢崎組と新日本同盟は互いに動向を探っていた。


 それに借り出されたのが森だった。その森が新日本同盟を監視している時、偶然にも森がその話を聞くハメになってしまった。

それで見つかって捕まったあげく麻薬漬けにされた果ての結末だった。

 森が突き止めたのは、運ばれて来た荷がシンガポールからだと云う事と新日本同盟の浜口孝介が、シンガポールで手引きしている事などが分かった。早速その話が小夜子を通じて健に知らされた。一度会って話をしようと云う松本の話だった。


 小夜子と健が連れ添って入って行くと、松本と橋本がすでにビールを飲んで待っていた。

「どうも松本さん橋本さん。お久し振りです」

 と小夜子は二人に声を掛けた。その小夜子の隣には長身でガッシリとして精悍な顔をした健がいる。松本達二人は〔なるほど似合いだ〕そんな顔をしていた。

 「初めまして堀内健です。・・・電話では何度かお話していますが」

「まあまあ硬い挨拶は抜きだ。さあ座って」

 そう云って松本は二人に橋本と自分を自己紹介した。それから、ちゃんこ鍋を囲んで話は弾んだ。小夜子の云った通りの人達だった。多少、柄が悪いのは彼等から見れば看板みたいなものだから仕方がないが、中身は本当に好感が持てる人物だった。

健のヤクザを見るイメージがガラリと変わった。ヤクザだからと云って全部が悪い人間じゃない事を改めて知った。


 それから一週間過ぎた頃だろうか。KG探偵事務所の電話が鳴り健が受話器を取ると。

 「ああですか松本さん。どうなさったのですか?」

 電話口の向こうで松本が掻い摘んで説明した。小夜子と健が新日本同盟に二人、和尚夫妻を殺害した犯人を捜している事を話してあった。共に新日本同盟は敵に当たるから、犯人捜しに協力してくれると約束してくれていた。その情報を掴んで知らせてくれたのだ

 「え、浜口孝介がシンガポールに居るんですか」

 「ああ、そうだ。ただシンガポールの何処に居るかは不明だが、うちの組も奴等の麻薬取引を潰して資金源ルートを絶たせるのが狙いだ。それなら協力するぜ」


 「はい。それは有難いですが。僕はその新日本同盟の幹部から浜口と沖田の居場所を吐かせようと考えています。彼等は新日本同盟の構成員でしょうから、幹部から聞きだし方が早いと思っているんですが」

 「おいおい堀内くん。無茶はするなよ俺達に任せて置けよ」

「しかし、小夜子さんの両親の仇ですから、出来る限り自分の力でやりたいんです」

「まあ気持ちは分からん事はないが、相手はヤクザ以上に荒っぽい奴等だ。無理はするなよ。小夜子さんを悲しませちゃあ駄目だぜ」

口は悪いがヤクザとは思いない松本の優しさだった。早速、健は小夜子に情報を伝える事にした。その小夜子が喫茶店で待っていた。健が駆け寄って来て椅子に腰を降ろした。またいつものように哀愁を誘う曲が店内を奏でていたが、今回は耳に入らなかった。


 「お待たせ」健が珈琲をウエイターに頼むなり本題に入った。

 「昨日電話した通り、浜口がシンガポールに居るらしいんだ」

 「ええー聞いて驚いたわ。矢崎組の人に感謝しなくてはね」

 「でもシンガポールと云っても、何処に住んでいるか解らないし危険だけど森と云う人が退院してから新日本同盟を探って見ようと思うのだけど、小夜ちゃんどう思う?」

 「でも危険よ。拳銃を持っているかも知れないし、麻薬なんかも手を出して何か得体の知れない犯罪組織だわ」

 「でも、このままだと矢崎組と新日本同盟の戦争が始まるかも知れない。矢崎組の松本さんも黙っていないような気がしてならないんだ」

 「松本さん達が心配だわ。でも私達では何も出来ないものね」

 ヤクザと政治団体の抗争は健と小夜子にはどうする事も出来ないが、今は当面の目的である、小夜子の両親殺しの犯人を追い詰める事なのだ。

 「浜口がシンガポールに居るとして、砂漠に落ちたコンタクトレンズを探すようなものだから俺は新日本同盟の幹部を襲って、そいつに居場所を聞き出そうと考えているんだ」


「駄目よ! 彼等は拳銃を持って居るかも知れないのよ。危険すぎるわ。止めて」

「そう云う小夜ちゃんだって、一人で飛び込んで行ったじゃないか」

「だって、拳銃なんか持っているとは思わなかったんだもの」

 そう云って小夜子は舌を出して笑った。自分では無茶をしても健には危険な目に合わせたくなかった小夜子だった。だが健も同じ事を考えていた。


 小夜子と別れてから翌日、探偵事務所で書類の整理しながら、健は対策を考えていた。自分一人で幹部から浜口の居場所を吐かせようと思っていた。しかし松本達の動きは早かった。なんと新日本同盟の幹部を待ち伏せして、拷問に賭けたと云う。その幹部の横道と云う男を、吐かせたからと、松本に健は呼び出された。 

 「それで浜口孝介と沖田勝男と言ったかな、奴等はシンガポールで用心棒やっているらしい。勿論、新日本同盟の場所はコンビナートの近くだそうだ。そう云っても範囲が広いから、しかも場所は時々、変更するらしいんだ。それと依頼して来たのはやはり盛田一政らしい。ただ本人から直接依頼を受けたかは分からないそうだ。奴等にとっても相当な資金を提供してくれるから、むやみに断る訳には行かなかった。と云うのが本音らしい」


 「驚きましたね。行動早いですね。やっぱり黒幕は盛田一政ですか」

 「へっへ。まあな、こっちはプロだぜ。で、その盛田って野郎はいったい何者なんでぇ?」

 「ええーM市では大きな不動産やリゾート関係で大きく飛躍した会社です。でも裏では何かと評判が悪く金と権力を使って、それでもウンと言わない場合は脅したりしているらしいです。それで小夜子さんの両親も多分・・・」

 「なるほどな。表では善人面をしてか、俺達ヤクザよりタチが悪い奴だぜ」

 「そればかりか警察にだって圧力を掛けたのか、急に捜査が怠慢に感じましたよ。何度掛け合っても捜査を続行中だと云う、答えが帰って来るだけでした」

 健はその悔しさを、つい松本達に溢した。


 いくら健とてまだ若い、自分よりも十歳近い年上の松本等の前で本音が出た。

 「それで横道って、幹部はどうなったのですか?」

 「まあな、殺す訳にも行かないだろう。奴のポケットを探ったら覚醒剤が小さな袋に入っていたよ。我々の組では、こんな物を扱ったら組が潰れると組長命令で、ご法度なんだ。惜しいけど奴のポケットに入れたまま、あの河原に眠らせて置いたよ。勿論、偽名で警察に通報してやった。数十分したらパトカーがやって来たとこまで確認してあるから今頃は、みっちりと取調べられて居るだろうな。ケッざまあ見ろって」


 相手はヤクザの松本だが、健は本当に信頼出来ると思った。だが彼等も健と小夜子の活躍で、どれほど助かっているのか利害関係が一致して共同作戦となった。

 奇妙な付き合いだが互いに男意気を感じていた。松本と健だった。

 その翌日に小夜子とまた、あの爽やかなメロディーが流れる喫茶店で待ち合わせをした。ひとつ進展して気分もいいが、しかし次なる目標が出来ると、笑っても居られなかった。

「そう・・・やっぱり私達の予想した通り盛田がバックにいたのね。でも今は私達の探して居る相手はシンガポールなのよ。 私どうしても行きたいわ」

 小夜子は遠くを見つめ、犯人像を浮かべながら話した。

 「そうだね。東京に出て来たのも、全てがその為だ。よし、行こうか」

 「ごめんね、健・・・私の為に」


 小夜子と健は、もうどんな事があっても行動を共にする事を誓っていた。

「今、すぐって訳には行かないけど、探偵事務所にも話さなければならないし、小夜ちゃんだって会社を辞める手続きがあるだろうしね。準備だけはして置かないと」

「そうね。あと松本さん達にも説明しなければ」

 翌日、健はKG探偵事務所で所長に事情を話していた。所長で経営者の岸田五郎が健の話を聞いて頷いた。以前から健には訳がありそうな気がしていた岸田だった。

 「そうか、君にはそんな事情があったのか」


 岸田は、事務所の空間を見つめて何かを想い浮かべていた。そして。

 「シンガポールには私が警官時代に世話になった知り合いが居るのだが、シンガポールのオーチャード・ロードと云う所に日系人のケニー佐田と云う、やはり警官あがりの探偵屋がいる。彼を訪ねるといい、連絡して置くから」

 岸田は親切にも紹介状と関係資料を健に渡してくれた。

 健は、短い間にも関わらず親切に退職させてくれた事に感謝した。一方の小夜子は〔さくら旅行社〕の支店長に退職願いを持って訪れた。支店長はガッカリした顔をした。


健とは違って犯人を追う為とは言ってはいないが、シンガポールに体の悪い叔母が居るので看病しながら働きたいと嘘を言った。

嘘をつくのは心苦しかったが仕方がないと思った。

 「えーそれは残念だな。そうかそれなら仕方がないか。あ!? ちょっと待って」

 支店長は机の引出しから何やら書類を持って来た。

親切にも支店長は小夜子の為に、新たな提案を出してくれた。

 「坂城くん、どうかね。君は英語も堪能みたいだからシンガポールの支社で働いてみないか。東南アジアにも支社が沢山あるからやってみるかい」


 思いがけない話だ。それならそこを諸点に行動が出来る。願ってもない話だった。

 「え! 本当ですか? 本当に宜しいのですか」

 小夜子は嬉しかった。犯人を除いて世の中には悪い人が居ないんじゃないかと思う程みんな親切にしてくれる。小夜子は支店長に何度もお礼を言った。あのヤクザの松本や橋本までも、本当に善人だと思った。だが、小夜子と仲良くなった同僚達はガッカリした顔をして寂しがっていた。そして同僚の女性達にも短い間にも、すっかり仲良くなり、それだけに別れを告げるのが辛かった。その同僚たちが小夜子の為に送別会を開いてくれた。


 健も同じく簡単ではあるが、お別れ会が開かれ仲間に見送られ東京での生活が終わる。結局は転勤という形で、シンガポールに行く事になった小夜子であった。

健と小夜子は仕事の引継ぎやパスポートの手続きなど旅立ちに向けて、慌ただしい日々が流れていった。いよいよ犯人を求めて異国の空へと向う時が来たのだ。

二人の表情はこれから起こるであろう苦難の道のりが、改めて健と小夜子は緊張を高め旅立ちの準備が進んで行った。いよいよ三日後に成田空港へと向かう。


第四章 第一節につづく 

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