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遠方のポルカ  作者: Arpad
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序章

 西暦2100年・・・くらい、国際月面基地において、人類は未知の敵性勢力と接触した。『結晶体』と命名されたそれは、謎金属の塊であり、当時の戦力比は3:1、非常に不利な戦いを強いられた。

 接敵から1ヶ月で月面基地は陥落、戦線は早くも地球の衛星軌道へと移り変わる。それから、衛星軌道が掌握されるまでの半年、その期間で人類は逆転の切り札を完成させた。その名もシャドースケイル、永久機関である敵のコアを利用し、理論的には完成していた新技術や強力な火器を満載させた強化外骨格である。

 しかし、シャドースケイルには重大な欠点が存在した。コアの影響で、男性は急激に精神を病んでしまう為、搭乗者が女性に限られてしまうというものだ。

 当初は戦力的に不安視されていたが、シャドースケイルを駆る女性達、Vic ヴァルキュリア略してV2(ヴィッツ)は、大多数の予想に反して目覚ましい戦果を挙げた。戦力比を1:11まで押し上げたのだ。つまり、V2一名で結晶体11体分の戦力になるという事である。

 V2の活躍で、人類は絶滅を掛けた総力戦から分の良い膠着状態へと移行する事が出来た。それが最終的には西暦2121年、大体20年程続く事になる。幕引きは人類の勝利、結晶体の親機を破壊したことで無尽蔵に湧き出してきていた子機を殲滅する事が出来たというわけだ。

 さて、その20年で特筆すべき事があるとすれば、不可能と思われた男性のV2(男なのでヴァルキリーという苦しい語呂合わせ)が誕生した事だろう。何を隠そう、俺がそのV2、イズル・グラスウォール(草壁)、親機に引導を渡してやった張本人だったりする。そんな俺が何故、こんな記録を残しているのかというと、明日にでも処分されてしまうからだ。

 処分理由は、やっぱり精神に汚染が見られる為。それを理由に、一昨日から俺はV2統轄本部内の自室に幽閉されている。もちろん、事実無根であり、俺は潔白だ。だが、統轄本部は俺を消したがっている。表向きには療養入院とされるだろうが、間違いなく命を奪うつもりだ。

 だが何故、統轄本部が俺の命を狙うのか、答えは実に単純明解。結晶体との戦争で国家機能は弱体化し、あらゆる権限が非常時に統轄本部へと委託されているが、彼女達はそれを返還する気は無いらしい。彼女達はV2をキーパーソンとした統轄本部母体の世界統一機構を新設する予定だ。簡単に言えば、女性が主導権を握った世界を造り出そうとしているという事、その際に邪魔になるのは、男性の成功例、男にもシャドースケイルが扱える実績。そう、俺がピンピンしていると彼女達には非常に都合が悪いのである。なまじ覆し様の無い実績を挙げてしまった為に、俺は処分されるのだ。欠陥品の烙印を押され、良くて銃殺、悪ければ死ぬまでモルモットにされるだろう。

 まったくもって、残念だ。先の戦いに勝てたのは、皆が一丸となってV2を支援してくれたからだというのに。彼女達はどうしても人類を二分したいらしい。

 まあ、それは良い。統一機構を造る事に意義があるのも確かだ。だが、看過出来ない事もある。それは彼女達が、俺から不当にシャドースケイルを剥奪した事だ。

 シャドースケイルを棺桶にしてくれていたら、俺は甘んじて死を受け入れていただろう。しかし、それは叶わなかった。ならば俺は、シャドースケイルを取り返すのみだ。そして俺は、この世から姿を消す。あの戦いが終わった時から、俺は俺の、俺という人間の物語が終わったのだと悟っていた。もう二度と帰ってこないつもりだ。

 この記録は、俺を屑の様に切り捨てた統轄本部に対する、せめてもの意趣返し。世界の命運を決める手札を、人類に託す。この記録を世界中の人々が読んでいるなら、俺は脱出に成功し、もれなく一斉送信も行なえて、そしてもうこの世にはいないだろう。

 反抗するか、享受するかは、これからもこの世界で生きていく君達が決めてくれ。ここからは、君達の物語だ。

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