実は創作にも役立つ⁉ 知っておきたい接客スキル ~CS編~
小説家になろうに登録して、作品を投稿している皆様。
また、創作活動を行っている皆様。
そして、アルバイト等で店頭に立ち、日々接客をこなしている皆様、どうもこんにちは。
皆様は、アルバイト等での研修時や、作品の制作論を語る時に、このような言葉を、耳にした事はございませんか?
【期待に応える】
【予想は裏切る】
これは、サービスの質を高めるための格言のような物の一つですが、創作活動や接客業に携わる人なら聞いた事の多い言葉だと思います。
しかし、現場で活用するためには具体的にどうすればいいのか、いまいち掴み所のない格言だとも思いますので、今日はそこを掘り下げて話していきたいと思います。
さて、店舗で働く店員は来店者に、小説家になろう登録している作家は読者に、より良いサービスを提供するために、日々、様々な努力をされている事かと思います。
知識を増やしたり、経験を重ねてみたり、いろいろと頭をひねってネタを出したりと、その努力は多岐渡る事でしょう。
それもこれも、すべては『より良いサービス』のため。
実はこの『より良いサービス』というのは、顧客の満足感に直結し、顧客の満足感はCS(カスタマー・サティスファクション/顧客満足度)と呼ばれて、様々な業界で重要視されています。
本エッセイでは、このCSを皆様が意識しやすいように三つの段階に分け、どのようにしてサービスの質を高めていけばいいのかを、各ステップに応じて順に解説していきます。
【ステップ1】
当たり前の話ですが、どこの業界にいっても、初めからベテラン並みのスキルを持っているという人など有り得ません。
(もしそういう人がいたとしても、似たような業界の経験があるか、他の経験やスキルを応用しているだけです)
CSを高めると言っても、右も左も分からないでは、どこを目指せばいいのでしょうか。
――という訳で、とりあえず、まず目指すべきなのがこのステップです。
それは、【悪印象を与えない】というものです。
極端な例ではありますが、もしもこんなレストランがあったらどうでしょうか?
店員の髪はフケだらけで、ヒゲは手入れもされておらずもじゃもじゃ。
制服は何日も洗っていないのか異臭が漂い、何故か靴下の色が左右で異なっている。
電灯が何箇所か切れかかっていてチカチカと目にうるさく、メニューは何年も同じ物を使っているのか日に焼けて色褪せ、運ばれてきた料理には明らかにヤバそうな虹色の油が浮かぶ。
……まぁ、こんな店舗は有り得ませんが、絶対に客が寄り付かないのは分かるかと思います。
ちゃんと頭は洗え。髭は整えろ。洗濯をしろ。靴下の左右は揃えろ。
電灯ぐらい替えろよ。店内は清潔に保て。安全な物を食わせろ……といった感想を抱くのはごく当たり前の物で、常識に大きく反する事は大きなマイナスとなります。
上記の例の、たった一つでも該当するだけで、そのレストランの評価は、ガタ落ちする事間違いありません。
これは創作活動においても同じです。
日本語として成立していない文章は読めませんし、仲間内だけでしか通用しないネタは分かりません。
難読漢字や横文字を多用されれば読みにくくなりますし、比喩も過ぎれば理解できません。
……勿論、これらは程度の問題でもありますし、特に『小説家になろう』においては、そもそも『素人作家が大多数』という認識があるので、読者の許容範囲も広い事でしょう。
少なくとも、その許容範囲に収まり【悪印象を与えない】事が出来れば、『読める』作品に仕上がるかと思います。(面白い作品かどうか、また、読み続ける事が出来るかどうかはまた別の話)
ざっくりと言ってしまえば『マイナスを減らす』『違和感を与えない』というのが、この段階です。
【ステップ2】
さて、ここからが本エッセイの肝になります。
実際に『小説家になろう』に作品を投稿している作者の中には、以下のような事を思った人が多いのではないでしょうか。
なんか、作った作品がイマイチである。
もっと作品のクオリティーを上げたい。
執筆に関するエッセイを読んでみたけど、人称やプロットの書き方など初歩的な事ばかりで、作品を『面白く』する要素が少ない――などなど。
……実際にやってみて、自分なりに改善もしているし、ダメな点も少なくなってきている。
だけど、良いかと言われればそうでもなく、かといって別段何が悪いという訳でもない。
そんな人が次に目指すのがこのステップです。
ステップ1では、いかに『悪印象を与えない』かという、主に減点方式の内容を話してきましたが、減点が無くなった所で、所詮はスタートラインに立ったに過ぎません。
悪くはない物を、良い物にしていくには、やはりなんらかの加点要素が必要となります。
そこで、CSの観点から話をする時、切っても切り離せないものが存在します。
それは、顧客の『二ーズ』です。
ニーズとは、英語の『needs』の事で『求め。要求。需要。必要。』を意味し、平たく言えば、顧客が何を求めているかというものを表した言葉です。
商売も創作活動も、相手がいて初めて成り立つのですから、顧客のニーズを無視すれば商品や作品の評価が低くなるのは当たり前です。(だって、評価をするのは顧客ですから)
逆を言えば、そもそも顧客が必要としている物であれば、それを満たすだけで満足感を与える事が出来ます。
つまり、【期待に応える】という事ですね。
(実は、顧客のどこにターゲットを設定するのかという、非常に大事な項目もあるのですが、今回は割愛します)
ビッグマックが食べたい人は、マクドナルドでそれがきちんと提供されれば、そこには満足感がありますし、服を買いに行って気に入った服を買う事が出来れば、そこにもやはり満足感があります。
小説家になろうにおいては、日々のちょっとした時間で手軽に読める物語を求める、活字中毒気味の読者が多い(らしい)ので、高頻度で更新することも読者の期待に応える事の一つですね。
これは、ほんの一例ですが、『こんなの話が読みたかった』『こんな展開が見たかった』『もっと続きが読みたい』というのが、小説家になろうの読者のおおよそのニーズだと思っています。
(詳細なニーズは、もっと細分化するので各々で考えて下さい)
顧客の要望に応じる。
顧客の期待に応えるというのが、この段階です。
【ステップ3】
最後の段階です。
特に悪印象を持たれるような事は無くなってきたし、顧客の期待にも応えられるようになってきた。
そうなったとき、次はどうすればいいのでしょうか?
それは勿論、期待以上の物を提供する事です。
提供された物が顧客の予想を上回った時、そこには【感動】があり、100%を超える満足度があります。
(ちなみに、このエッセイでの『感動』は、心が動く事全般を含む広い意味での言葉を指します)
当然ながら簡単な事ではありません。
現代社会で生きる皆様は、相手がこちらの期待に100%応えてくれる事がいかに少ないか、ましてや『感動した!!』などと感じる事が、日常生活の中でどれだけ少ないかは良くご存じかと思います。
それでも、【感動する】作品や【感動する】接客というものはあるもので、提供する側であれば、それらを意識的に仕掛ける事を可能にしたいものです。
様々なアプローチがあるかと思いますが、本エッセイでは『驚き』に焦点を当てて話していきましょう。
日常生活の中で『感動した!』や『とても嬉しい!』と感じる事といえば、代表的な物に『サプライズ』があります。
突然の贈り物や祝い事は、仕掛けられるととても嬉しいですよね?
予想を越える驚きというものは、やはり人の心を動かすようで、強く印象に残りやすいものでもあります。
【予想を裏切る】【感動させる】と言うと大げさかもしれませんが、ちょっとした事であれば、すぐに実践できますし、身の周りにも沢山溢れていたりもします。
例えばですが、服を買いに行って、たまたま『全品20%off』とかのセールがやっていたりするとちょっと嬉しくありませんか?
更に「あっ、今ならその商品、レジで更に10%offにできますよ」なんて言われたら尚更ですよね?
誕生日だからと、ちょっと高めのレストランでコース料理を予約したら、デザートにバースデーケーキが出てきたなんていう経験はありませんか?
独り暮らしを始めてインターネットを引こうとした時に、「今ならお持ち帰り価格100円でパソコンを購入できますよ」と言われて、一緒にパソコンを購入した人も多いのではないでしょうか。
こうしてみると、【予想を裏切る】事で『驚き』を演出している行為が、意外と日常生活の中に溢れている事が分かります。
……では、どうやってこれらを仕掛けているのでしょうか。
ちょっと視点を変えて、これらを仕掛ける側から見てみましょう。
服屋は、元々『30%off』のセールを『20%off』と広告し、レジや接客の中で『20%off+10%off』である事を伝えるだけで実現が可能です。
高めのレストランであれば、そもそも何らかの記念日で利用される事が多いので、予約を受ける時に『記念日か何かでのご利用ですか?』と聞けば、多くの人は素直に答えてくれる事でしょう。
バースデーケーキも、元からコースに含まれているデザートに、粉砂糖やフルーツソース、蝋燭などでデコレーションするなどをすれば、それほどコストを掛けずに作る事もできます。
(そもそも、そういった物のコストが、初めから料金の中に含まれている場合もあります)
一時期ブームになった100円パソコンに至っては、月々のインターネット料金の中に、パソコンの料金を上乗せしているだけというのが実態だったりします。
このように、一つの物事でも、ちょっとした工夫をするだけで見え方が変わり、『驚き』と『感動』を演出する事が可能となります。
……当然、創作活動にもそれは言えます。
創作活動を行っている皆様は、作品を作る時に必ず『こんな物を作りたい!』というイメージがあるかと思います。
しかし、実際に作ってみようとすると、どこか平坦で面白みに欠ける話になりそうだと感じる事も、良くある事でしょう。
そんな時は、この『驚き』と『感動』というキーワードを思い出してみて下さい。
物語の創作をする時には『起承転結』の構成にすると良いと言われますが、やはり物語の見所は、話が二転三転と転がっていく『転』部分でしょう。
もしも、皆様の頭の中にある物語の『転』の部分が平坦であると感じるなら、例えば、物語の始まりや冒頭を全く別の所から始めて、落差を付けてみるというのはどうでしょうか。
『異世界に転移したら女の子が盗賊に襲われていて、助けたら惚れられてイチャイチャの展開に!』というテンプレストーリーも、物語の主人公が盗賊の一味の下っ端として扱き使われるような所から始めれば、なかなか面白そうな展開に発展するような気もします。
また、話の『オチ』が既に決まっているのなら、その一つ前に上げ底のオチを作って、二段階の『オチ』を作るのも良いかもしれません。
『魔王の手下にヒロインを攫われ、何とか取り戻そうとするも、あと一歩の所で手は届かなかった。主人公はヒロインを助けるために魔王の下に旅立つ~次章に続く~』
という良くある展開も、
『ヒロインはその地の貴族に見初められ、無理矢理連れていかれてしまった。何とか取り戻す事に成功したのも束の間、貴族の背後には魔王の影があり、その手下によってヒロインは攫われてしまうのだった。主人公はヒロインを助けるために魔王の下へと、今旅立つ〜次章に続く〜』
という展開にすれば、一度目のヒロインの救出が成功した時に、読者に『物語が終わった』とか『あとは結末だな』という感想を抱かせる事ができます。
そこへ、第二の敵が潜んでいる事を告げれば、弛緩した空気を一気に引き締める事ができ、『まだ終っていなかったのか!』という『驚き』を与える事が出来るのではないでしょうか。
つまり、『起承転結』と思わせて『起承転転結』の構造にするわけですね。
勿論、これらは一種の演出ですし、心を震わせるほどの感動を与えるには至らないかと思いますが、意識するだけでも、作品のクオリティーはグッと上がる事だと思います。
現実では中々難しい事ではありますが、顧客の想像以上の感動を与える。
それが、本エッセイでの最終段階です。
いかがでしたか?
ひょっとしたら、これを読んでいる皆様の多くは、無意識の内に行っている事だったかもしれませんが、こうして明文化する事で、より意識する事ができたのではないでしょうか。
本エッセイでは、執筆活動に限定する内容ではありませんでしたが、『小説家になろう』で活躍される作家の皆様に、何か届く物があればとても嬉しく思います。
私もこのサイトを利用する一読者として、もっと沢山の面白い作品が、世に表れる事を願っています。
それでは皆様、またどこかで。
※タイトルに『〜CS編〜』とありますが、続編を書く予定は特にありません。