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異世界役所の記録帳

 ナロゥ世界役所。ナロゥ区域を管轄とする、世界を管理する役所――。

役所に入って一番手前の窓口、転生課。

場所が場所なだけに、実質インフォメーションを兼ねるそこは世界役所の花形と言われていました。

美男美女を集めたその窓口は、給料の割に仕事が少なかったこともあり競争率はダントツで。

そこに受かった、と聞いたときは頬を抓って確認したものでした。

しかし――私、須郷(すこう) (さじ)の就職した部署はそんな前評判とは大違いだったのです。


* * * * *


一般的なスーツに窮屈そうに胸を納めて、赤いアンダーリムの眼鏡をくいっと直して。

深呼吸しながら、背中に生える真っ白な羽根と一緒に背伸びをひとつ。

私が受付前にできる、精一杯の現実逃避です。


「えっ、不受理?どうしてだい?」


目の前のスーツ姿の男性は、フサフサとした長髪を風になびかせ、キラキラと星を散りばめながら不満そうにしています。

ここ、密室なんですが。どうして髪やスーツがはためくんですか?

風魔法ならとんだ魔力の無駄遣いです。

「ええ、オレツゥーエさん。書類をお渡しした

時に()()()()()説明しましたが……そこはあなたの冒険の概要を書く欄でも、要望を書く欄でもないのです」


私は眉間にシワを寄せながら、淡々と述べました。


「ええ?僕にぴったりだと思うんだよ、"クラスごと転生したと思ったら僕一人に全人格チートが集約されたので、とりあえずいじめっ子に復讐します"。ペンで書くの大変だったんだぞ」


確かに、掠れたペンの字とほんのり赤く染まった指はいかにも痛々しいです。


「ここはコンセプトを説明する(タイトル)欄なんです。あなたのタイトルはあまりにも長過ぎます」


そもそも、全く虐められそうな見た目ではないと思うのですがどうなのでしょう。

むしろ、グループの中心で良い子のフリをしていじめっ子を束ねているタイプに見えます。


「百歩譲ってそのタイトルを認めたとしても、このあらすじは認められません」


「どこが悪いんだい?【僕の名前はオレツゥーエ・トゥーチ!クラスのみんなと一緒に転生させられたと思ったら、クラスメイト全員の魂とチート能力を僕一人の身体に纏められてしまったみたいなんだ!とりあえず魔王は良いやつそうだから倒さないでおいて、王族ざまぁしたら奴隷のケモミミっ娘に惚れられたから連れて行って街巡り!他の転生勇者は女体化して俺の嫁!料理も勉強も上手い僕は現代知識チートで俺TUEEEEEEEEEE!!!!!!!!!】……名文じゃないか!これだけでアニメ化して書籍が1万冊売れるぞ!」


彼はキリッ、と描き文字が並びそうなほど輝いた顔で、息継ぎすらせずに言ってのけました。

……頭痛がしてきました。後輩の言う"頭痛が痛い"とはこういう事なのかもしれません。


「あらすじだけでオチを作ってはいけません。ネタが割れすぎてて最早プロットです。テンプレートに沿っているのはこちらとしても楽ではありますが、これでは意外性もワクワクもありませんよ」


「ええっ、みんなこんな感じで書いてるじゃないか。アカシックレコードにも載ってたぞ、絶対にウケる!転生届の書き方、って」


身振りで長方形を示しながら訴えてきます。

ちなみにアカシックレコードとは、誰でも投稿できる情報集約魔術機関の事です。

"42ちゃんねる"などが有名ですね。


「実際、ウケてましたよ。そのアカシックレコードの元ネタ作成者が。どこからアップロードしたのか分かりませんが、それはうちの役所で人気の役所あるあるジョークなのです」


「ぐぬぬ……そ、それじゃあ!この作者名はどうだ!?」


 作者名欄を見ると、"オレツゥーエ・トゥーチ"と綺麗にサインされています。


「ダメですね」


私は即答しました。


「何故!?」


「だって、この転生届は受理された後トラックに積まれて――」


私はドアの外、窓口と平行に並んだ長蛇の列に指を向けて続けます。


「――そのトラックに轢かれた人に適用されるのですから。彼らはプロの転生者なので、スクラムを組んで転生を試みます。この名前で受理されたとしても、あなたはきっと……悲しくなることでしょう」


* * * * *


ここは転生課。

近年増えた転生希望者と転生受入者の需要を満たすため、広い部屋に無数の窓口を設け、更には真っ暗い倉庫にまで豆電球を付けて転生を管理するブラック窓口。


母上、父上、折角の公務員ですが……私は、とても後悔しています。

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