007 巫女服
「お疲れ様、海晴! じゃないです、遅いですよフェレリアス様。無防備になる儀式中は、化け物から守る約束、しましたよね?」
分りやすく主に対して反抗的な態度を取ってみる。仕方が無い、何たって自分の命が掛かっているのだから、主張すべき事はしっかり言葉にしないと、この魔女様には。
「大丈夫、だーい、じょうぶーー。言ったでしょ、この島の中なら海晴がどこにいても、ナニをしていても分かるし、守って上げれるわよ。ふふふッ」
「うぁッ や、やめて下さいフェレ」
言葉の軽さもさもながら、全く本人は緊張感がない。
何やら一人で嬉しそうに笑いながら、背中の背骨をつーっと人差し指でなぞられると、そくぞくっと悪寒のような冷たい刺激が走る。隙有らば意味も無く頭や胸元、足の裏と屋外でも屋内で寛いでいる時に、ボディタッチしてくる癖があるフェレ。人を、特に男を惑わす存在として伝承にも描かれているのは、こんな仕草から来るに違いないと思う。
体を捻ってその艶めかしい魔女の手から逃れる。
「とにかく、お願いしますよフェレリス様。あと、ちゃんとこの場所浄化しましたから……これでいいですね?」
「うん、ばっちり、ばっちり!」
立ち込めていた黒い霧が消え、浄化され、早くも草木が芽吹き始めた地面をちらりと見るフェレリアス様。本当にちゃんと確認しているのだろうかと心配になるが、親指をつき立て、『OK!』の仕草を示す。この島を魔法で創造したというフェレリアス自身が言うのだから間違いないだうが。
まあ、決められた仕事をきちんとこなしたのだ。それで俺の役目は済むのだから、深くは考えない事にする、こんな青く海が広がる島で考え事は似合わない。
「では、浄化もし終えましたし、家に戻りますか。いつまでもこんな野原にいたら、化け物に襲われるかもしれないですから」
「うん、それはいいけれど……その、かわいい服。巫女服着替えないの? あ、大丈夫よ。ここに来たときと同じように、あっち向いてるから、ね!」
「ぐッ かわいいって言わないで下さいッ! あと、隠れて覗かないで下さいッ 怒りますよッ!!」
「もーー男の子が、いちいちそんな細かい事気にしてたらダメよ~~ っふふふ~~」
本当にこの魔女はまったく、人が気にしている事をぬけぬけと。
いや誤解無いように、男子の自分が巫女服を着て浄化の儀式をする事は薄々おかいしと気付いて吐いた。だが神社が創建された当時から続くという、長い伝統であり、先代の男の大人達が着ているのを見ていたから、俺も当たり前だと思い込んで袖を通していた。
そんな正式装束を身にまとい、初めてこの島で祓う儀式を行ったついこの間。フェレはそんな自分の姿を見て、お腹を抱えて、中空を転がるように笑い転げていた。そのことを切欠でこの巫女の装束を身にまとうのに恥ずかしさを覚えてしまい、なるべく着ている時間を少なくしようと心がけていた――というのを分かっていながら、このフェレは。
「着替えは、後にするんですッ。いいから、帰りますよフェレッ!!」
「もう、怒らないの海晴。似合ってるのよその巫女装束、似合いすぎてるから笑っただけなの――……ぐふふッ」
「思い出し笑いも、やめて下さいッ」
とにかく今日も無事に穢れた大地の浄化を終え、笑い転げながら後について来る魔女フェレリアス様と共に、拠点の家へと岐路へついた。