004 仕事場
「今日はここみたいだなぁ」
大した距離ではないのだが、魔女と居住している家屋から大海を左手に見ながら岸壁を沿うように
ゆっくり歩き、食料にもなる果実が実る森の端を通過した、草原のようなっている地形のとある一角。
「ううっ。幾分慣れたとはいえ、この何とも言えない臭いは……」
この島に薄ら漂う臭いの根源の一箇所。生臭いというか肉片が腐敗するようなアンモニア臭、放心円状に中央に向かって低草が黒く煤こけ露出する地面。この場所で誰が見ても、直ぐに爆発か何か起こった様に見えるだろう。だが、其れだけではない、俺の目にはその爆心の中央に、キラキラと塵にような風に舞うナニか――。
それは、見ようによってはとても綺麗で神々しさもあるのだが、良く見ると文字の様な記号が見て取れる。
湧水のように、荒廃した地面から湧き上がるようにして、俺の腰ほどまで舞い上がると、輝かしい黄色い光を失い、白い灰のようになって消えるのだ。そのまま、放っておけば黒い地面を覆いつくすようにして広がり続けるのだ。そして、最後は――
「しかし、フェレリアス様遅いな…… 追いついてくるかと思ったのに」
本当ならば、いつこの原因を作り出す黒い化け物が襲ってくるか分からないこの状況下。フェレリア様
が来るのを待って、護衛してもらいながら取り行うのが、最初の約束だったはずだが……。
まあ、辺りに化け物の気配は感じられなし、フェレリアス様曰く『この島の事なら、どこに居てもばっちり、お見通しっよ!』というその言葉を信じる……信じたい。
「この位であれば、神器を使うまでもないか」
俺は大事に背負ってきた長手の荷物と、漢字でのようで漢字ではない独特の文字が書かれた、墨書きされた布に包んだ道具類を茂る草の上に置いた。そして、ここまで歩いた間に乱れた巫女の正装の襟や袴の紐を締めなおす。いつの頃からか、ウチの神社の由緒正しいこの装束になったと言う事となり、男子が着てもそれほど奇妙には見えないように――とはなっているのだが、うっかりすると露出もするので、人に見られたくはない。
だが、これからこの場所で始める事――そのためには、巫女装束も絶対に必要な物。
「仕方ない、先に始めよう」
この化け物が住まう絶海の孤島『限外島』での俺の仕事、それは巫女として『穢れた地を祓い清める』ことなのである。